てんとう虫はてくてく吉さんの胸を歩くと急に止まり、ひっくり返った。
じいちゃんは唖然とした。
ピクリとも動かなくなったてんとう虫を指でつつこうとすると、また急に飛び上がり、羽根を広げじいちゃんの肩にのってきた。
じいちゃんはこの時吉さんの『魂』がのり移ったと思った。根拠や理由などなかったがそう強く思った。
そんな風に自分なりに解釈し、涙を拭くと後ろから「何感傷に浸っているんだ!早く来い!」と上官に怒鳴られた。慌てて吉さんの腰についていた水筒に目がつき、水を抜き、てんとう虫をそっと入れた。
そして再び戦地へと赴いた。
じいちゃんはそれからてんとう虫を『育てた』。といっても育て方は知らず、水や草、ミミズ、コッペパンをちぎったりと思いつくものを全てあげた。
そしててんとう虫を飼い始めてからちょうど二週間後、終戦。
じいちゃんは帰る事が分かるとある決心をしていた。それは遺品を直接遺族に手渡しするのと、てんとう虫を吉さんの実家まで届ける事。じいちゃんの実家からは少し離れるが必ず行くと決めていた。
船に乗り、電車に乗って吉さんの故郷に到着。生前に聞いていた住所を人に聞きながら探すと遂に見つけた。表札には「吉田」と書いてあった。
玄関前でじいちゃんは箱の中からてんとう虫を取り出すと、じいちゃんの回りを3周ぐるぐる回り、実家の屋根を目指し羽ばたいていった。
お別れの挨拶だと思った。じいちゃんはそれを見届けると玄関の前に立ち、ガラス戸をノックしようとした。
その時家の中から女の子の声がした。
「母ちゃん、父ちゃんが帰ってきたよ。」
「何馬鹿なこと言ってんの!!父ちゃんは死んだのよ!縁起でもないこと…………父ちゃん?」
……しばし沈黙……
すると突然家の中から女性の泣き声が聞こえた。
じいちゃんは一瞬で全てを悟った。泣いていたのは吉さんの奥さん。
やっぱりあのてんとう虫は吉さんだったという事を。涙が止まらなかった。
じいちゃんはノックするのを止め、辺りを小一時間散歩した。吉さん家族をそっとしておきたかったのと、自分の涙がかれるのを待って。
そして再び吉さん家に訪れ、遺品を渡した。てんとう虫の事は黙っておいた。あがっていってと言われたが、家族の顔を見てるとまた涙が溢れそうになったから…吉さん家を早々と後にした。
そしてじいちゃんは故郷に帰っていった
怖い話投稿:ホラーテラー 万年みひろ命さん
作者怖話