【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編7
  • 表示切替
  • 使い方

地下の井戸 Pt.2

SさんもKさんも、うっすら汗をかき始めてて、随分重そうだったけど、「運ぶの手伝え」とは言わなかった。

中に入るとすぐ階段で、ひたすら下に下りて行った。

結構下りた。時々二人が止まって、肩に担ぎ上げた「荷物」を担ぎ直してた。

階段を下りると、ものすごく広い通路が、左右に伸びてた。

多分幅10mくらいあったと思う。

下りたところで、ひと休みした。

通路はところどころ電灯がついてて、すごく薄暗いけど、一応ライトは無しで歩けた。

俺たちは反対側に渡って(って言いたくなるくらい広い)、左手に向かって進んだ。

時々休みながら、どれくらい進んだかな。

通路自体は分岐はしてない。

ひたすら真っ直ぐで、左右の壁に時々鉄の扉がついてる。

ある扉の前でSさんが止まって言った。

「これじゃねえか。これだろ」

そこには

『帝国陸軍第十三号坑道』

そう書いてあった。

字体は古かったけど。信じられる?今の日本にあるのは、陸上自衛隊でしょ。

何十年も前のトンネルなのか、これは?

SさんもKさんも、汗だくで息も荒くなってたから、扉を入ったところで、また「荷物」を下ろして、休憩する事にした。

二人とも無言だったから、俺も黙ってた。

しばらくして、Sさんがそろそろ行こうって言って、袋の片側、多分『足』がある側を持った。

そしたら・・・

『袋』が突然暴れた。

Sさんは不意を突かれて、手を放してしまい、弾みで反対側の袋の口から、顔が出てきた。

猿ぐつわを噛まされた、ちょっと小太りの男。

どっかで見たことある・・・

それもあるけど、分かっていながらも、袋からリアルに人が、しかも生きた人が出てきた事にビビッて、俺は固まってた。

SさんがKさんに

「おい何で目を覚ました!」

「クスリ打てクスリ!」

「袋に戻せ!」

とか言ってるのが聞こえた。

Kさんはクスリは持って無いとか、何とか答えてた。

その間も『袋』は暴れてた。

暴れてたというか、体を縛られてるらしく、激しく身をよじって、袋から出ようとしていた。

するとSさんが、袋の上から腹のあたりを、踏んづけるように蹴った。

一瞬『袋』の動きが止まったけど

「ウ~!」

と、すごい唸り声を上げながら、また暴れ出した。

Sさんは腹のあたりを、構わず蹴り続けた。

それでも『袋』は、暴れ続けた。

やがてKさんも加わって、二人で滅茶苦茶に蹴り始めた。

パキって音が、2、3回立て続けにした。多分肋骨が折れたんだと思う。

『袋』の動きが止まった。

その時なぜか、男は頭を振って、俺に気が付いた。

それまですごい形相で、暴れていた男が、急に泣きそうな顔で、俺を見つめた。

Sさんが

「袋に戻せ」

と言うと、Kさんが男の肩のあたりを、足で抑えながら、袋を引っ張って、男を中に戻した。

今でもその光景は、スローモーションの映像のまま、俺の記憶に残ってる。

男は袋に戻されるまで、ずっと俺を見てた。

一生忘れられない。

Kさんが、袋の口をきつく縛るのを確認すると、Sさんは更に数回、袋を蹴った。

「これくらいかな。殺しちゃまずいからな」

Sさんはそう言って、俺を見た。

「お前、こいつの顔を見たか」

「いえ・・・突然だったんで、何が何だか」

そう答えるのが、精一杯だった。

その時は本当に、どこかで見たような気がしたけど、思い出せなかった。

SさんとKさんは、再び動かなくなった『袋』を担ぎ上げた。

それまでと違うのは、真ん中に俺が入ったこと。もう中身を知ってしまったので、一連托生だ。

それからその13号坑道ってやつを、延々歩いた。

今までの広い通路とはうって変わって、幅が3mも無いくらいの、狭い通路だった。

右手は常に壁なんだけど、左手は時々、下に下りる階段があった。

幅1mちょいくらいの階段で、

ほんの数段下りたところに、扉がついてた。

何個目か分かんないけど、Sさんがある扉の前で止まれって言った。そこもまた『帝国陸軍』。

『帝国陸軍第126号井戸』

って書いてあった(128だったかも。偶数だった記憶があるけど忘れた)

それでSさんに言われるまま、中に入った。

中は結構広い部屋だった。

小中学校の教室くらいはあったかな。

その真ん中に、確かに井戸があった。

でも蓋が閉まってるの。

重そうな鉄の蓋。端っこに鎖がついてて、それが天井の滑車につながってた。

滑車からぶら下がっている、もうひとつの鎖を引いて回すと、蓋についた鎖が徐々に巻き取られて、蓋が開いてく仕掛けになってた。

オレは言われるままに、どんどん鎖を引っ張って、蓋を開けていった。

完全に蓋が開いたとこで、二人が『袋』を抱え上げた。

もう分かったよ。この地底深く、誰も来ない井戸に、投げ込んでしまえば、二度と出てこないもんね。

でもひとつだけ分からない事があった。

なんで「生きたまま」

投げ込む必要があるの?

二人は袋を井戸に落とした。

ドボーン!と水の中に落ちる音が、するはずだった。

でも聞こえてきたのは、バシャッて音。

この井戸、水が枯れてるんじゃないの?って音。SさんとKさんも、顔

を見合わせてた。

Sさんが俺の持っているマグライトを見て顎をしゃくってみせ、首を傾げて井戸を覗けってジェ

スチャーをした。

マグライトで照らしてみたけど、最初はぼんやりとしか底まで光が届かなかった。

レンズを少し回して焦点を絞ると、小さいけど底まで光が届いた。

光の輪の中には『袋』の一部が照らし出されてる。

やっぱり枯れてるみたいで、水はほとんど無い。

そこに手が現れた。

真っ白い手。

さらにつるっぱげで、真っ白な頭頂部。

あれ?さっきの『袋』の人、つるっぱげじゃ無かったよな。

ワケが分かんなくて、呆然と考えていたら、また頭が現れ

た。

え?2人?

ますます頭が混乱して、ただ眺めてたら、その頭がすっと上を向いた。

目が無い。

空洞とかじゃなくて、鼻の穴みたいな小さい穴がついてるだけ。

理解不能な出来事に、俺たちは全員固まってた。

しかも2人だけじゃ無さそうだ。

奴らの周囲でも、何かがうごめいている気配がする。

何だあれ?人間なのか?

なぜ井戸の中にいる?

何をしている?

その時、急に扉が開いて、人が入ってきた。

俺は驚いてライトを落として、立ち上がってた。

SさんとKさんも。入ってきたのは、Nさんだった。

Nさんは俺たちを見て、怪訝そうな顔をした。

「S、もう済んだのか」

Sさんは少しの間、呆然としていたけど、すぐに答えた。

「済みました」

Nさんは俺たちの様子を見て、俺たちが井戸の中身を見た事を悟ったみたいだった。

「見たのか、中を」

俺たちはうなずきもせず、言葉も発しなかった

が、否定しないことが肯定になった。

「さっさと蓋閉めろ」

言われて俺は、慌てて鎖のところに行って、さっきとは反対側の鎖を引いて回した。

少しずつ蓋が閉まっていく。

「余計な事を考えるんじゃねえ。忘れろ」

そう言われた。

確かにそうなんだけど、ぐるぐる考えた。

「殺しちゃまずい」って、Sさんは言ってた。

Sさん自身も、なぜ殺しちゃだめなのか、知らなかったんだと思う。

生きたまま落とした理由は?

生きたまま・・・・あの化け物のような奴らがいるところへ。

考えたく無くなった。

俺たちは来た道を戻り、車で道に出た。

今度はSさん、Kさんは、Nさんのベンツに乗っていった。

そしてそれが3人を見た最後になった。

俺は思い出していた。あのとき『袋』に入っていた男の顔を。

最近出所してきた、会長の3男だった。

出来の悪い男というウワサだった。

ケチな仕事で下手を踏み、服役していたらしい。

俺は2、3回しか顔を合わせた事が無かったが、大した事無さそうなのに、威張り散らしてヤな感じだったのを覚えてる。

だからといって、会長の息子を殺すのはアウトだよ、死体を隠したっていずれバレる。

それでも出来るだけバレないように、俺を使って運んだんだろうけど。

あの出来事から2週間くらいして、Nさんが居なくなった、お前も姿をくらませって、Sさんから電話があった。

バレたんだ。会長の息子を殺ったのが。

組から距離をおいていたのが幸いして、俺は逃げ延びる事ができた。

SさんやKさんがどうなったのかは知らない。

あれから数年、俺は人の多い土地を転々としている。

これはあるネットカフェで書いた。

もうすぐネットカフェも、身分証を見せないと書き込めなくなるらしい。

これが最後のチャンスだ。

組の人たちがこれを知れば、どこから書いたのか、すぐに突き止めると思う。

だから俺はこの街には、二度と戻ってこない。

誰かあの井戸を突き止めて欲しい。

なぜあの井戸に、暴力団なんかが鍵持って入れるのか。

そうしたら俺の追っ手は、皆捕まるかも知れない。

俺は逃げ延びたい。

これからも逃げ続けるつもりだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ