満月の夜紅い煙管をふかす一人の女がいた。
紅い衣を纏った女は目を細めてひたすら煙管をふかす。
「紅がお好きなのですね」
式神の猫が話しかけた。
「紅が似合う女になりたいだけだ」
紅い女は眩暈と動悸に悩される日々をおくっていた。
「なぁ式よ、私はなんの病だ?」
「それは…恋では?」
「何故に」
「あなたの眩暈と動悸はあのおかたを見つめられている時ばかりです」
「しかし…‥もう鬼にはなりとうない」
「…」
ふかしながら女は言った。
式神は黙ったまま女の手を優しくなめた。
「憎いのか焦がれているのかすらもう判断がつかぬ。昔のように鬼になるのはもう耐えられぬのだ」
式神は黙って聞くことしかできなかった。
夫に裏切られ子を流してしまった女の昔を知っていたから。
しかしとうとう角が生えてしまった。
昔は高名な僧が女を助けた。
女の師であった。
その高僧は今はいない。
式神にはどうすることもできなかった。
女は護身用の短剣で自ら喉を切り裂いた。
「鬼ではなく乙女になりたかった。夫より焦がれておりました…信長様…」
力をもった呪術師であった女をも鬼に変えてしまった病。
皆様もお気を付けになられませ。
怖い話投稿:ホラーテラー 林檎さん
作者怖話