中編6
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ポスト

友達5人で、期間限定の年賀状配達のアルバイトをした時の話。

住所や配る道順を覚える為に12月の中旬あたりから通常の手紙などを配達したりしていた。

でも、人口3万の田舎の自分の地元は知らない道なんてないし

知らない家もないと思っいた。

あれは、1月1日でした。

荷台に箱を載せた、郵便の自転車は

年賀状を配る前はスカスカの状態で運ぶので軽かったけど

元旦になれば、山のような葉書を郵便局を往復しながら配らないといけない。

確かに辛いバイトだけど田舎ではありえない時給に、学生は飛びつく。

僕たちは、そんな奴らでした。

元旦の日は、普段配らない家にも百貨店やスーパーや美容室から年賀状が届いたりする。

その中に、あの家と呼ぶには勿体ない友達連中が【箱】と言う家にも郵送物が1通ありました。

それは、大学病院からの封筒でした。

中身は、わからなかったのですが紙一枚ほどの薄っぺらい紙だと思われるものでした。

それを片手に持ち、坂の上にある【箱】へ向かうために自転車を坂の下に止めて歩きました。

その道は、林が広がり【箱】に続く舗装されていない道。

そこは高台のような小さな山で、昔は城があったそうだ。

坂の下には、城がありました的な看板がある。

昔は、近くで戦があったようで城には死人がたくさん運ばれたり、怪我をした人が運ばれたり、食料があったりの小さな砦?的な話を聞いたことがあった。看板にも、似たようなことが書いてある。

そこを登ると、あたり一面何もない ただただ広い原っぱに着きます。

その手前に、ポツンと【箱】はあります。

箱には、老婆が住んでるらしいのですが

僕は見たことがありませんでした。

その【箱】まで、距離があります。

坂を登って80Mくらい歩きます。

その日は、曇り空で気味悪い夕方の寒さが

一段と増すような感覚でした。

老婆が住んでる、その箱はベニヤ板や廃材で作った今にも壊れそうな正方形の【箱】です。

地元じゃ、完全に無視されている【箱】には近づくなという昔から大人の声が多かった。

ということもあり、

本当に恐かった。

たぶん、僕はビビりです。

そして、とうとう【箱】に着いた。

【箱】の周りを見渡してみたけど、ポストがない。

『反対側かな…』

【箱】の裏側に行く。

【箱】の左側には鎌や鍬、スコップなどがありどの農家にもある物なのにやたら恐かった。

そして裏側へ着いた。

でもポストがない。

しかも

入口もない。

玄関らしきものがなく、どこから人が出入りするのかさえ

わからない。

『ポストないと、手渡しか…』

ま、普通そうだ。

でも入口ないから、【箱】の どこかをノックするしかない…

そう考えていたら

『あ、外から郵便ですて言えば出てくるはず』そう思った。

『すみません!!郵便です!!』

なんか解決法が見つかり、少し安心したから大きい声が出た。

『すみません!』

さっきいた【箱】の裏側から来た道を戻り正面に来たときに…

『…ゴトッ…』

と、音がした。

あ、老婆と言われてる人が出てきたのだと思い

再度【箱】の裏側へ右側から回った。

すると、小さな入口らしき引き戸があった。

本当に小さかった。

腰を曲げても、通れるかな…というくらい小さな引き戸だった。

そこの引き戸が少し、開いて明かりがもれている。

『明らかに、蝋燭よね…』というくらい、明かりが ユラユラゆれている。

入口が見つかった安心感と、ユラユラ揺れる明かりが恐くて複雑な気分だった。

でも、大学病院からの封筒を渡せば

解放されるし、早く他の人んちも配らないといけないと思い、気持ちだけが先走った。

その引き戸を、何も言わずに開けてしまった。

『あ…』

開けた後に、何も言わずに開けたのを後悔した。

そして、すかさず

『こんにちわ〜郵便です。』と加えた。

【箱】の中には、誰もいなかった。

四方一辺10Mくらいの【箱】の中には畳がひいてあった。

玄関と思われる僕が立つ場所は1畳ほどのスペースがあり土だ。

畳が敷き詰めてある【箱】の中は、タンスもあるし、小さなテーブルはあるし、小さな台所みたいなのもある。

【箱】の外見とは違い、予想を裏切る生活感漂う空間だった。

すると突然…

『ドンッ』

と、背中から聞こえた。

引き戸が閉まった!

慌てて振り返ると、小さな白髪の老婆が立っていた。

僕と、老婆は1畳のスペースに向かい合うように立っていた。

僕からは、老婆の頭しか見えていない。

それほど、小さな人でした。

小便をチビるかと思うくらい、恐ろしかった。

『あ…あの…』

僕が口を開くと、老婆は僕の横を通り

テーブルの横の座イスに腰掛けた。

『郵便、お疲れね。』

と、老婆が言う。

予想してなかった展開のあとに、この言葉。

一気に緊張の糸が解れて、涙が出そうだった。

『郵便を持ってきました』

と、震えながら老婆に声をかけると

『あら、珍しいわね…』

と、言った。

そこで、ふと思ったのが

珍しいということは、身寄りもなく

血縁の人が誰もいないんだ…

そう思うと、可哀相になった。

歳は、80歳くらいの

どこでもいそうな少し腰の曲がった おばあちゃんだったから。

『はい、どうぞ』

と、手を伸ばし四つん這いになりながら

おばあちゃんに手渡した。

『ありがとうね〜』

そういうと、

封筒を食い始めた。

え?

固まった。

普通に、食べてる。

何かの間違いだろって信じたかった。

でも、もくもくと食べている。

無言で…

僕は、また恐くなった。

やっぱり、この人は何かあるんだ。

そう直感した。

すぐに、その場を立ち去ろうと

もくもく食べる老婆から、離れながら後ろを振り返ると

学ランのような服を着た若い男の人が帽子を深々とかぶり立っていた。

いつの間に…

その男の人は、手を前で組み真っすぐ前を向いて立っている。

四つん這いになっている僕は固まったまま見上げた状態だった。

学ランのような服の胸あたりに名札らしきものが貼ってあり

『…忌』と書いてあるように見えた。

よく見えなかったけど、忌だけは見えた。

やばい。

どうしよう。

いや、どうしようもない。

逃げ場がない。

人間って、追い詰められると動かなくなるって本当なんだと実感した。

すると、男の人が

低い声で

『こ…と…どっち…か。』

と、言った。

小さな声で聞き取れなかった。

老婆は、すでに封筒を半分ほど食べていた。

『おまえんとこのじゃない!帰れ!』

老婆が怒り出した。

そのとき、封筒のことだと思った。

『…つ…た…』

と、また低い声でさっきよりも小さな声で男が言っている。

よく聞こえない。

さっきから、僕は完全に無視されている。

今が逃げるチャンスだと思い、四つん這いから正座に移行した。

すると、老婆が

『兄ちゃん、兄ちゃん。』と、僕を見ながら呼んだ。

『は、はい…』

思わず返事すると

『シンイチロウの手紙はないね?』

シンイチロウという後ろに立っている、この人は息子か孫なんだ…

そう思った。

『いや、宛先は女性宛でシンイチロウさんという方の葉書は…』

と、途中で老婆が

急に俯せになり、顔だけこっちを向いたまま

『ククク…兄チャン、ニンゲンニ…見エトルノカネ?』

声が、さっきと違う。

耳鳴りがするくらい高い声で話し出した。

恐怖か、何かわからないけど涙が溢れ出した。

人間じゃないんだ、この二人は。

もう駄目なんだ、きっと帰れないんだと悟った。

すると老婆が

『人間ガハイッテいい建物ジャない。』

すると、後ろに立つ男性の方から

ザァー

という音がして、涙目で振り返ると

左半身が消えていた。

その状態から口を開いた

『コの建物ガ郵便受けナンダカラ…』

そう言うと消えた。

そして僕は気付くと、布団に寝ていた。

自分の部屋だった。

夢だった。

泣いた。

とにかく、泣いた。

恐怖で、身体がガチガチになり筋肉痛のような痛みが残っていた。

ポストの大きさや、色は関係ないんだ。

あの建物自体がポストだったんだって

ようやく理解できた。

起きたのは、元旦の朝方5時くらいだった。

一緒に飲んでいた友達は、爆睡している。

僕は、二度寝することなくテレビを見ながら元旦の年賀状配りの仕事に出かけた。

何事もなく、仕事を終えて家に帰り

友達から届いた年賀状の中に半分しかない封筒が入っていた。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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