The end of force
遥か上空に舞い上がったナイトメアは、両腕のRPGの照準を自分を地上から見上げているニック達に絞った。瞬間、20数発のロケット弾が地上に降り注ぐ。
「ヤバッ!あんなの交わせないっての!!」
「あれは…。まずいな。」
「ちょっと、ニック。何でこの状況で余裕でいられるかな…」
「焦って我を忘れた奴は大概、戦場で早死にする。」
「ウザッ…」
「ん?何だ?」
「何でもない。ささ、早く避難、避難。」
「おい、N.I.S.のお2人さん!んな所でイチャついてる場合じゃねぇぞ!!」
「な、別にイチャついてる訳じゃ…」
そう言いかけたニックの手を引き、ニーナは物陰に走った。
直後にロケット弾が古城のテラスに着弾、辺りは爆煙と炎に包まれ、運悪くロケット弾の破片をくらった隊員の悲鳴が響く…
「ぐぁぁああっ…!!
あ、足が…足がぁーーー!!!」
「動くな、マイケル!
傷口が余計酷くなる…
……衛生兵、衛生兵!!」
「ニーナ、怪我を負った隊員達を助けるのを手伝ってやれ。」
「んな事わかってるっての!それより、あなたは!?」
「俺はまだ戦える連中を集めて、ナイトメアの次の攻撃に備える!!」
「わかった、とにかく、やれるだけの事はやってみる!」
「頼んだぞ、ニーナ…」
隊員達に先程までの士気はなく、皆、絶望的な表情を浮かべていた。
それを知ってか、知らずか、ナイトメアは次の攻撃を繰り出すべく、攻撃態勢を取る。
ニック達は、悔しそうな表情で遥か上空のナイトメアを見つめる…
「アイアンメイデンリーダーより、メイデン隊各機へ。
ターゲットを目視、方位050、全機、SAAM(多弾頭空対空ミサイル)ON。先制打を浴びせてやれ!」
ナイトメアがニック達に攻撃を仕掛けようとした瞬間…
ナイトメアの周りが爆煙に包まれる。
「戦闘機だ!味方の航空支援が来たぞー!!!」
援軍隊員の一人がそう叫ぶと、辺りは歓声に包まれた。
「アイアンメイデンリーダーから各機、先制攻撃は成功だ。
さぁ、ここからだ…!」
アイアンメイデン隊のF22の存在に気付いたナイトメアは、攻撃の矛先を彼等に変えた。
「メイデン3より隊長機。
ナイトメアがこちらに向かって来ます!」
「慌てるな、持てる限りの集中力を奴を倒すことだけに注ぎ込め。
……全機、四方に散れ!
メイデン2とメイデン4は奴の後方へ、俺とメイデン3は奴の下へ、素早く回り込め!」
隊長機のこの指示で、アイアンメイデン隊が四方に散り、その後、ナイトメアの後方と下方から再びSAAMを撃ち込んだ。
「よし、効いたか?」
「メイデン4から隊長機、奴は無傷です!」
「何!?馬鹿な!?」
アイアンメイデン隊は驚きを隠せなかった。
通常弾頭のSAAMだが、当たれば確実に負傷するはず…しかし、今彼らの前に居るナイトメアは2度の攻撃を受けながら、無傷…
ナイトメアは、アイアンメイデン隊の先制打を浴びた後に、自己の体内の細胞分裂を凄まじい速度で開始。結果、例え傷を負ってもそれをほんの数秒間で治癒出来るだけの体内組織が瞬時にナイトメアの傷を癒す。
アイアンメイデン隊はこのナイトメアの自己治癒能力に苦戦を強いられた。
………アイアンメイデン隊とナイトメアの空戦が始まってから約30分。一向に決着が着く様子はない。
「メイデン4から隊長機へ、
もう残りの燃料が少ない。一度基地に戻って給油しないと、我々の方が危なくなってしまいます。」
「クソ…、この状況で我々が引いたら、誰が奴を食い止める…」
アイアンメイデン隊の隊長がそうこぼした時、航空無線が混線した。
「こちらクローサー。
アイアンメイデン隊、聞こえるか?」
白の機体に金のストライプがペイントされたYF-23戦闘機…
ホワイトバロンことクローサーが遅れながらも、作戦空域に到着した。
「…!?こちらアイアンメイデンリーダー。クローサー、今何処に居る!?」
「お前等の真下だ。」
ニック達にはクローサーの姿が見えていた。砂漠の表面をスレスレでまるで這うように高速で飛行、辺りにはジェットエンジンが巻き上げた砂塵が舞う。
「…どれ、野郎に一発くれてやるか。」
そう言うと、クローサーの機体は凄まじい勢いで直角に上昇、ナイトメアの真下から機銃で攻撃を仕掛けた。
「ちっ!やっぱりそう簡単には行かねぇか…
アイアンメイデン隊、聞こえるか?ここは俺が引き受ける、お前等は基地に戻って給油をしてくるといい。」
「こちらアイアンメイデンリーダー。機銃を外しといて、えらく余裕だな?クローサー…」
「へっ、今日は秘密兵器があるからな…。
こいつを使えばあんな野郎一撃だ。」
「…秘密兵器?」
「さぁさ、いいから早く一時帰還しな。燃料が空になっちまったら、そんなもの鉄の棺桶にしかならないぞ?」
「……相変わらず自信過剰な奴だな…クローサー…
少し釈だが…仕方ない。
頼むぞ、クローサー。」
「任せときな…」
「アイアンメイデンリーダーからメイデン隊各機へ。我々は燃料補給の為、一時、最寄りの空軍基地まで帰還する。
全機、6時方向に機首転回、マラス空軍基地まで帰還する。」
アイアンメイデン隊が一斉に機首を返し、戦闘空域を去っていく。
そして、ナイトメアとクローサーの一騎討ちが始まった…
「クローサーから指令部へ、L.N.M.(Liquid Nitrogen Missile)液体窒素ミサイルの発射許可を求む。」
「指令部よりクローサー。
ミサイルの発射条件は満たせたか?」
「ああ、大丈夫だ。
下の友軍ともかなり距離がある位置に居る。
これなら凍りついたナイトメアが地上に堕ちても、負傷者は出ないだろう…」
「指令部了解。
だが、一応念のために地上部隊は待機中のブラックホークで避難させる。彼等の避難が完了するまではL.N.M.は使うな。以上…」
「クローサー了解。
何とか時間を稼いでみる…」
地上部隊を古城の敷地から避難させる為に、再びブラックホーク、ナイトアロー隊が動く。 慎重に、かつ迅速に…
次々と地上部隊をヘリに乗せて避難させた。
「クローサー、聞こえるか?
こちら指令部。地上部隊の避難が完了した。L.N.M.発射を許可する。」
「了解。ミサイルロック解除、ターゲット捕捉。熱探知レーダーシステムクリア、熱源センサーがターゲットをロック…
L.N.M.発射!」
クローサーの機体から発射されたL.N.M.液体窒素ミサイルが、ナイトメアに着弾した。
みるみる内にナイトメアの体は凍りつき、やがて地上に向かって落下した。
地面に当たり砕け散ったナイトメアの体が、砂漠にアイスダストを降らせた…
「…終わったな。」
ブラックホークの機内でニックが胸を撫で下ろすように言った。
「ええ、…終わりよ、これでこの戦いの全てが…」
「ニーナ…」
「え?何…」
「お前がそういう台詞を言うと場がしらけるから感傷に浸りたいなら、1人の時にしろ…」
「…、えぃっ!!」
「…痛っ!骨折してる方の脚を蹴りやがって…」
「はいはい、泣き言は言わないで下さいよ〜先輩。」
「…………。」
2人のやり取りを見ていた周りの隊員達から笑いが漏れた。
ヘリは、作戦指令本部を目指して夕方の砂漠を飛んでいく…
「やはりこの男では役不足だったか…」
「どうした、Dr.クウェン?」
「ナイトメアは完璧な兵器の筈…」
「何だ、ケネスが死んでショックを受けたか?
まあ、私の考えだが、彼は死んで当然だ。彼はナイトメアになった事で、より崇高な自分を求めすぎた…
無理をしすぎたんだ…」
「もはや犯罪者達だけを実験台に使うことは無意味かもしれん…」
「…何故?」
「彼等の自己陶酔と言う側面が大きくナイトメアに表れ過ぎている。彼等の余裕は、要らない余裕だ…」
「そうか…。
では、新しいサンプルを探すとしよう、Dr.クウェン。
とびきり純粋で無垢なサンプルを…………」
2人の男達が、既に部隊が去った後の壊れ果てた古城のテラスを後にした…
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話