自分は都内某所でアパレル系のショップを経営している。
うちの店は繁華街の一角にあり、よくイベントの主催者や映画関係者の人が、フライヤーとかポスターを持って来る。
ほぼ毎日、多いときには1日に10人ぐらい、「フライヤーを置いていただけませんか?」といった調子でやってくる。
一応自分もスタッフも預かるときに全部目を通し、内容が店にそぐわない場合はお断りしたりしている。(ほとんどは問題がないのだが、例えばピンク系のものなど・・。)
ウチの店ではそういうフライヤー用の棚を置いていて、預かったものはその棚に並べるようにしている。
これは、そんな僕の店でのある日のこと。
その日もいつも通り昼の12時から店を営業していたのだが、給料日前の平日ということもありお客さんも少なかった。
バイトさんも今日は休みで閉店まで自分一人である。
それで何となく寂しい気持ちでいると、20歳前後の男の人が一人で入ってきた。
パソコンで仕事しながらチラチラと様子を見ていた。
男のお客さんは店をゆっくりと、一通り見て回ったが、特に気になったものはなかったようで、店を出ようとしたのだが、フライヤーを置いてある棚に気付いて立ち止まった。
そして、棚の一番上の段から見始めて、棚の一番下の段までくまなく見ている。
彼はしばらくそこにいたのだが、次に僕が目をやった時、何か気になったものがあったのか、一枚のフライヤーをマジマジと見ていた。
そして彼は振り返りカウンターにやってきた。
「コレは何ですか?」
手にとって見ると、うぐいす色のA5ぐらいのコピー用紙に手書きでデザインしたようなものが印刷されている。
見るからに安っぽいフライヤーだ。
「あなたのおともだちになります」
という文章がまず目に飛び込んできた。
うん?何だコレ、いつのまにこんなものが?と思いながらも、読んでみた。
「一緒に遊びましょう!部屋でゆっくりしましょう!ゲームをしましょう!お鍋をしましょう!肝試しに行きましょう!
1時間1200円から」
と書いてあります。
ぼくは戸惑いながら
「えー、何でしょうね。いつのまにあったのでしょうか・・。僕にも、正体不明です・・スミマセン。」
と言いながらそのフライヤーをお客さんに返した。
そして、「コレは棚の中にあったのですか?」と尋ねると、お客さんは「そうです! 怪しいですよね?」と言った。
たまに勝手にフライヤー置いていく人はいるが、こんなに訳の分からないフライヤーを見たのは初めてだった。
それから結局お客さんはフライヤーを置いて帰った。
僕はカウンターに置かれたそれをもう一度手にとってよく見た。
(既に大体分かってはいたが)お金を払うと、まるで友達のように遊んだり接したりしてくれる、サービスのようだ。
えぇ、こんなのがあるんだ、オモシロ、と思った。
フライヤーの端に、「ともだちごっこ」というロゴ、そしてQRコードが載っていた。
それで仕事が終ってから携帯でアクセスしてみた。
早速トップページから如何わしい文句が・・
「いつでもあなたのお友達・・ともだちごっこ」
そして、フライヤーと同じような説明書きがあり、「初めての方」「料金表」「指名」「予約する」「ツレ専用」というタグがある。
まずは「初めての方」を読んでみた。
どうやら、会員登録して予約すれば、会社が用意している部屋にお客さんが来るか(いらっしゃいコース)、またお客さんの家や指定の家まで来てくれる(お邪魔しますコース)らしい。
次に「料金表」というタグをクリックしてみた。
「都内一律!! 基本料金1時間1200円!!※
オプション
文房具屋たまり・・10分200円
コンビニたまり・・10分300円
ゲーム・・30分400円
ピザ頼む・・1000円
メシ行く・・1500円
ドライブ・・30分800円
ショッピング同行・・1時間2300円
公園遊び・・20分180円!! ←現在サービス中!!
ゲーセン・・1時間800円
学校帰り設定・・・1000円
待ち合わせ・・1000円
肝試し・・1日4500円
結婚式スピーチ・・13000円
メール・・1通100円
交通費、材料費、食費別途※
その他オプション要相談
※遠方の方は要相談。
※派遣スタッフ1名辺りの金額です。
※基本時間は2時間単位とさせて頂きます。
※料金は先払いとなります。 ・・・」
など色々と書いてあった。
こんなもの、頼む人はいるのか、と思ったが、中には友達作るのが上手くない人がいるからなぁ、とも思った。
そして「指名」をクリックした。
すると、8人ぐらいの名前が出てきて、それぞれのプロフィールが出てきた。
全員男だったが、「ともだちごっこガール完成間近!!」とも書いてあった。
さらに僕は「ツレ専用」をクリックしたのだが、パスワードを入力して下さい、と表示され、それ以上は見れなかった。
これは面白い、と思いながら店を片付け、帰ることにした。
その帰り道。
僕が満員電車の中で揉まれていると、ふと、眼鏡をかけたひょろ長い人が目に入った。
携帯をいじっている。
彼は最初は前かがみになって携帯を見ていたが、電車が大きく揺れた時に、キリっと背筋を伸ばした。
その時携帯のストラップが目に入った。
僕は、どこかで見たこのあるデザインだなぁと思ったが、すぐに「あっ!」と思い出した。
あれは「ともだちごっこ」のロゴに間違いない。
僕はとても焦った。
だってあんなサイト誰も知らないと思っていたし、しかもさっきホームページを見たところだったし・・。
「え、あのサイトって結構有名なのか?」 「コレって凄い偶然じゃないか?」
とか色々なことを考えた。
「この人はあのサービスを利用しているのだろうか。でなければストラップなんて持っていないはず・・。」
僕は気になって、その後もばれないようにその人を見ていた。
その人は時々携帯を見ながら薄ら笑いを浮かべたり、長い間目をつぶったりしていた。
そして、ある駅に近づいた時、電車の窓に写る自分を見ながら髪の毛をいじりだし、電車が駅につくと、降りていった。
僕はずっと電車の中から彼を目で追っていた。
彼はホームを歩き階段に向っていった。
と、彼は立ち止まり振り返った。
どうやら、誰かに呼ばれたみたいだった。
彼の目線の先には・・
昼間、僕の店に来たあの男が立っていた。
そう、あのフライヤーを持って「コレなんですか?」と聞いてきた人だ。
僕は思わず電車の中で、「ウッ」と言ってしまった。
とても怖かった。
二人が近寄り、話し出したところで電車は扉を閉め出発しだした。
僕は彼らから目を離すことができず、ずっと見ていた。
どんどん二人の姿は小さくなっていく。
ストラップをつけていた男が例の男にお金を渡しているのが見えた。
僕は恐怖と混乱で興奮したまま家に帰ってきた。
帰って早速パソコンの電源をつけ、上着を脱いで顔を洗い、「ともだちごっこ」と検索してみた。
すると、何十万件もヒットしてしまったので、何か別のキーワードも入れなければならないと思い、(さっきのことで頭が一杯だったので)「ともだちごっこ ストラップ」と入れてみた。
表示されたサイトの上位の方に、誰かのブログがあった。
短く表示されている文章を見る限り、あのサイトのことが書いていそうな感じだった。
俺は早速クリックしブログを開いた。
ブログを探すと数週間前の日記にこれはあった。
「今日は暇だったから、夕方からともだちごっこ予約した。
今日は、山口とスマブラしました。あいつは俺の知る限り最高のカービー使いで・・・(略)・・・そしてそして!!今日で10回目だったからいよいよ俺も『ツレ』認定!!
山口が会った瞬間にストラップと鍵くれたぜ!! これでいよいよS級オプション『バイト先出現』が出来るようになったぜ!! 俺はもうストラップと鍵を受け取った瞬間・・・・(略)」
ハッキリ言ってドン引きした。
怖い話投稿:ホラーテラー MARINE SKY BLUEさん
作者怖話