中編5
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ポマード部屋

先に断っておく。

実話だけに、ここの人達には先が読めるレベルの話だと思うから、読みたくない方はスルーで宜しく。

地方から就職で関西に来たんだけど、会社が用意してくれた社宅にすんでた時の話。

その社宅はある有名な賃貸マンションなんだが、会社が部屋を借り上げていて、支払いもしてくれるシステム。

初めてその部屋に入った時は8月だった。

予想異常に中は綺麗でロフトもあり、なによりこれからはじまる一人暮らしに、俺は浮かれながら少ない荷物を運び込んでいた。

荷物は朝から運びこみはじめ、昼前には終わった。

暑かったこともあり、セブンスターを咥え火をつけると、エアコンのスイッチをいれた。

「くさっ!」

俺は声をあげた。

エアコンの送風される風からかなりきつく匂いがしていた。

そのにおいがポマードのにおいであることに気付くのに時間はかからなかった。

(なんだよコレ…。ありえないし。)

俺はすぐに管理会社に電話した。

「すいません。マンション○○の201を借りてるハマダですけど、なんかエアコンがえっらい臭いんですけど、どうなってるんですか?」(名前は仮名です)

「あっ…えーと今日はそちらの地区担当が休んでいますので、明日電話おりかえさせますので…。すいません。」

(いやいや、マジかよ…まあいいか)

と思いながらも仕方がないので俺はしぶしぶ了承した。

翌朝電話がかかってきたが、しばらくエアコンを使っていなかったのでしばらく使って様子を見てほしい、ということを言われた。

俺はまあ仕方ないかと渋々ながら了承した。

暑いということもありエアコンはほぼフル稼働だった。

そんな状態で9月も後半に差し掛かりはじめた頃、奇妙な夢を見始めた。

最初に見た夢は今でもとてもよく覚えている。

夢の中で男が魚の解剖をしている。場所は俺の部屋だった。

夕方なのだろう。夕日が部屋に差し込み、真っ赤に部屋がそまっていた。

男は延々と只解剖していた。嬉々とした顔をしながら。

不意に目が覚めたとき随分と寝汗をかいていた。

変な夢だなと思いながらエアコンをいれた。

エアコンからは相変わらず湿ったようなポマードのにおいがしていた。

その夢はその後も度々見た。

そして2つ気付いた事があった。

1つはその夢を見るときは必ずエアコンをつけずに寝付いていた事。

そしてもう1つは、夢の中で男が解剖している対象が徐々に変わっている事だった。

始めは魚だった。

しかし次はカエル。

次はトカゲ。

次は小鳥。

ニワトリ。

ハムスター。

猫。犬。…………

何回か同じ夢だったが、確実に対象が生々しく、目をそむけたくなるような物にかわっていっていた。

しかも対象はまちがいなく生きている状態で解剖されているようだった。

ハムスターや鳥は、

「チー!チー!」など悲鳴?をあげてかなりあっさりと解剖されていたが、犬や猫は手足を切られたくらいでは絶命しないらしく、随分と長い間、聞いたことも無いような悲鳴をあげながら絶命していった。

解剖している男はいつも嬉々とした表情をしていた。

俺はそんな夢ばかり見ていたからか、少し精神的にまいっていたのかもしれない。

エアコンをつけていればあの夢は見ない!とばかりに仕事に行っている間もエアコンは常につけたままだった。

その日は仕事で大失敗をしてしまい、家に帰りついたのは夜中の12時をまわっていた。

疲れた体を引き摺りながら玄関を開けた瞬間、違和感を覚えた。

部屋が全くにおわなかった。

エアコンがとまっていた。

無理がたたったのか、電源さえ入らず、送風もできなかった。

「マジかよ………」

悩んだが明日(すでに今日)は早番で六時には起きなければいけないという環境に負け、仮眠のつもりで眠りに落ちた。

いつもの夢………

真っ赤な部屋にあの男。

ただ無言で、だか嬉々とした表情で、解剖の準備をしていた。

対象は………オレだった。

俺は必死で叫び、懇願していた。

「やめてくれ!!なんなんだよ!どうせ夢だろ!」

「だいたい…意味が……!」

言い掛けたときだった。

突然右腕の甲に火がついたような痛みがはしる。必死で視線を送ると、甲がナイフで切り開かれ、腱やら血液に染まる骨やら…ぐちゃぐちゃだった。

俺は出した事もないような悲鳴をあげつづけていた。

男はただ淡々と手際よく解剖していた。

手足を切断され、内蔵を一つ一つ摘出され、それでも俺は絶命できない。

ただ叫ぶだけ。

そして首を切断され気付けば部屋は俺の血液で真っ赤に染まっていた。

返り血でベタベタになった男が、頭部だけになった俺に初めて口を開いた。

「ヤット メインディッシュ ダネ 」

唐突に目が覚めたとき既に8時を過ぎていた。

制服のまま眠っていた俺は着替える事もなく、ただ転がる様にして家をでた。

その日は当然仕事にはならず、失敗、遅刻で上司に怒られた。

しかし今までの事を話し、相談したとたんに、

「今日からうちにこい。部屋は会社にかけあって新しく探させる。」

といってもらえて今にいたる。

結局あの部屋で眠る事は二度とないまま引っ越したわけだが、その後はあの夢はみていない。

引っ越しの際に管理会社の奴にどうしても納得できず問いただした。

「実はハマダ様の前に入居されていた方も同じ事をいわれていたんです。只その方は理髪店の方で、店でポマードを使った日には夢を見ない、と相談された事がありました。」

「ですからエアコンにはその時のにおいが残っていたのかもしれません。」

「それが夢に関係するかはわかりませんが………ただ前の方は…その後荷物を置かれたままでていかれまして…」

いわくがあるなら伝えろよ!と俺が激昂すると、

「借り上げの際に会社サイドの方にはお伝えはしていました。了承された上での事と思っておりました」

(まあ世の中そんなか)

と、思いつつも今も同じ会社にいるわけだ。

その後の社宅は何もないのが幸いだが。

今にして思えば、なぜポマード?口裂けか!と突っ込みたくなるばかりだがホントにあった俺にとっては洒落にならない話でした。

長いの最後までよんでくれてほんとありがと。

怖い話投稿:ホラーテラー 細豊さん  

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