「僕は幽霊になるつもりはない。」
私が最後に聞いた彼の言葉だった。
彼は私と同じ大学を卒業し、軍に入隊した。
私は彼を止めた。
「あなたの成績なら良い就職先なんていくらでもあるはず。」
「危ない戦地に行くかもしれない。」
私の幾つもの問いに、彼は一言だけ答えた。
「同じ暗い場所を生きるなら、傍観者なんて真っ平だ。」
彼の意思は固かった。
私は彼の意思を尊重し、彼は晴れて軍に入隊した。
それから数年後、我が国が同盟を結んでいる国と敵対する国同士が戦争を始めた。
我が国は、戦地である国の隣国が飛び火で被害を受けているとのことで救助隊を派遣、彼もその軍に従った。
鏡越しに見える彼の姿。
彼は死んだのだ。
こうして私の元に現れてている。
「あなたは私とは違う、傍観者ではないもの。」
幽霊は私に呟いて消えた。
「こっちも暗い。どこも変わらないんだな。」
私はそこから動けなかった。
恐怖したのだ。
彼の表情に、未来に。
私は何気無くテレビをつけた。
ニュースが放送されていて、芸能人同士のゴシップネタが流れていた。
面白おかしく。
30分後、政治のネタが。
政治家とマスコミがフラッシュの嵐の空間で、嘘の応酬を繰り広げている。
10分後、天気予報。
思えば、この二組の連携プレイは素晴らしい。
彼らの共同作戦により、悪が決まる。
私達は従う、それも軍隊のように。
暗い、とても暗い。
私達は信じることが出来る。
その後、無関心になることも出来る。
未来を恐れ、その恐怖から攻撃的になる。
自分の意思なんか無い。
生きているのだろうか?
死んでいるのだろうか?
暗い、とても暗い。
どこもかしこも暗い。
彼も私も暗い場所にいる。
怖い話投稿:ホラーテラー モッシュさん
作者怖話