去年の夏頃、山道で事故った父。
命に別状は無かったものの、体中痛いし、携帯は圏外、山の中だから人なんて来ません…
途方に暮れていると、偶然にも工事の下見に来ていた電力会社の方が通り掛かり、車でJAFと警察に連絡を取りに行って下さるとのこと。
レッカーと警察を待っている間、電力会社の方の一人(以下Aさん)が父に付き添ってくれる事になりました。
いろいろと世間話をしている内にひょんな事からAさんの奇妙な体験の話になったそうです。
Aさんの会社では仕事柄辺鄙な場所へ行く事が多く、その日も同僚とともに工事現場へ向かっていました。
現場は木々が生い茂る山中で、どうやらそこに電気を送るための鉄塔を建てる予定だった様です。
車内でぼんやり外を見ていたAさんは、現場近くに差し掛かったとき妙な物を見つけました。
ガードレールにくくりつけられたロープ…
それが何か気付くと慌てて同僚に車を停めさせたAさん。
Aさんと同僚が車を降り確認したところ、やはり首吊り死体でした。
ガードレールにロープを張り、そのままガードレール下の崖に飛び降りたようで…
当然警察を呼ぶ事になり、事情聴取やら現場検証やらに立ち会っていたせいでその日は仕事になりませんでした。
後日改めて現場に行ったAさん達。
鉄塔を建てる予定の場所に着きましたが、現場を見た途端固まってしまいました。
木々が生い茂る中に少し開けた場所。その中心にぽつんと立つ十字架…
明らかに異様な光景です。
Aさんは不安に駆られましたが、こんな事ぐらいで工事が中止になるはずもなく、仕方なく同僚達と共に仕事に取り掛かりました。
下見などの仕事を進めるうちに、どうせ邪魔になる物だからと例の十字架を引っこ抜く事に。
Aさんと一人の同僚とで作業をすることになりました。
十字架は思ったよりも大きく、Aさんの身長ほどあります。
こりゃあ抜くのも一苦労…かと思われましたが、案外あっさり抜けました。
その時点で何も起きなかったので、最初に感じた不安もなくなっていました。
十字架を片そうとしていると、同僚が引っこ抜いた下に何か埋まっているのを見つけたようです。
二人で少し掘ってみると、きりかぶの様なものがでてきました。
建物を建てるときの柱の基礎のようなかんじだったそうです。
ついでだからこれも退かすか、という事になり二人で持ち上げた時、Aさんが異変に気がつきました。
きりかぶから手が離れない…?
同僚もそのことに気付いたらしく、二人で軽くパニックになりました。
どんなに手を剥がそうとしてもピッタリと吸い付いた様に離れません。
暫く格闘した末、Aさんの手がようやく離れました。
が、その直後きりかぶが動きだしました。
Aさん達がいた場所は確かに緩い傾斜になっていましたが。キリカブのような重い物が動くほどではありません。
同僚の手はまだ離れません。
きりかぶは同僚とともに斜面をズルズルと、速度を上げながら下って行きます。
同僚のパニックはピークに達しています。
固まったようにその光景を見ていたAさんは、きりかぶが向かう先が急斜面になっていることを思い出し弾かれた様に同僚の後を追いました。
しかし、その時すでに速度を上げたきりかぶは急斜面に差し掛かっており、Aさんの目の前でそのまま同僚と共に滑り落ちてしまいました。
幸い同僚は軽傷ですんだ様です。
この事は職場で少し話題となりましたが、その後工事は予定どうり進められました。
Aさんもその同僚の方もその一件以来身の回りに何事も無かったそうで、普通に仕事をこなしていました。
ただ、鉄塔が足元部分まで出来上がった頃、Aさんはまた首吊り現場の第一発見者になってしまいました。
場所は建設途中の鉄塔です。
そして、工事が半分位の高さまで進んだ頃また同じ様に首吊りが…
もちろん第一発見者はAさんです。
十字架との因果関係は不明ですが、流石にAさんも立て続けに首吊り現場に出くわして気味が悪かったそうです。
そんな体験をしたので、こんな所に父一人を残すのは心配だったため自分もここに残ったんですよ〜なんて笑って言うAさん。
……え?………こんな所って?……
…以外と近かったみたいです。父達が居る場所と例の鉄塔。
久々に父の背筋が凍った夏の出来事でした。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話