「怒るなよ。ちょっとした冗談だろ」
Aは、踏みじみられながらも睨み付けてくる彼を見下しながら言い捨てた。
Aは、そのクラスのいわば不良リーダー格である。
対してクラスで浮いた存在である彼が目をつけられるのは、必然的といって良いものだったのかもしれない。
だからこそクラスの他の者はそれを見てみぬ振りをしたし、卒業までその状況は変わることなく続いたのだった。
卒業の日、Aは言った。
「別に俺がお前より優れてるとか、お前が悪いとも思っちゃいない。
たまたま俺が上に立つ側で、お前が虐げられる役目だった。
ただ運が悪かったんだ…いいな?」
Aはニヤリと笑うと、彼の頭をポンと叩き去っていった。
それから数年がたったある日の事。
Aは薬物乱用で、急患として病院へと運ばれていた。
やがて状態が安定すると、Aは個室のベッドに移された。
Aがひとり暇を持て余していると、個室に医師がやってきた。
「調子はどうだい?」
Aに尋ねる医師。
「ドラッグをキメてる時に比べたら、冷たく深い海の底に沈められてる気分さ」Aは鼻で笑って答える。
「それは残念。これから海底の更に下にめり込む事になる」
医師はそう言うとマスクを取って見せた。
………Aが医師の顔を見た後、しばらく沈黙が流れた。
医師はポケットからガラスの小瓶を取り出し、注射器に入れていく。
「モルヒネはお好きかな?これはその数十倍は効くぞ。思う存分…味わうといい」
医師は微笑み、もがくAに力ずくで注射を打ち込む。
遠くなる意識の中で、Aは聞いた。
「A、君は間違っていないさ。この状況はたまたま…運が悪かっただけの事だよ」
怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん
作者怖話