この話は、俺が中学生だった頃の事だ。
夏休みが始まったばかりで、たいしてする事もなかった俺は 友人を呼ぶ事にした。
AとBは 幼稚園からの付き合いで家も近所だったから、小さい頃から 互いに泊まったりしていた。
だから今回も、
「暇だったら泊まりに来いよ」
と 誘ったのだった。
電話をかけると Aは「すぐに行く!」と言い、Bは「部活が終わったら行くわ〜」と言った。
俺は電話を切ると、昼飯の後片付けをしている母親に
「今日AとBが来るからねー!」
と告げ、2階の自室へと戻った。
10分くらいしてAがやってきた。
Aが持ってきたゲームで楽しく遊んでいると、しばらくしてBもやって来た。
「あっ、これ!一昨日発売されたばっかのじゃん!」
Aが「まぁね〜♪」とニヤリと笑う。
「やったぁ!次は俺にやらせて?
あ、俺もゲーム持ってきたよ。」
そう言うとBは、自分のかばんをガサゴソと探り出した。
「あった!これ…」
Bがソフトを取り出すのと同時に、何かがゴロンと転がってきた。
なんだ?丸い…石!?
それは ただ丸いだけで、別に綺麗なわけでもない ただの石だった。
「お前 何石ころなんてかばんに入れてんの?」
「ん〜…拾った!」
またか…。Bは小さい時から、変な物を集める癖がある。
それは今回みたいに石だったり、変な形をした木の枝だったりと 俺達には理解出来ない物が多かった。
そこら辺にあるじゃん、と言いたくなる物ばかりだったからだ。
「これさ〜、すっげえ丸いじゃん!なんか気に入っちゃったんだよね…」
そう言いながら、Bはかばんに石をしまいこんだ。
まぁ、Bのコレクションにしては 今回のはマシな方かもしれないな。
そんな風に思いながら 俺達はまた、ゲームに熱中した。
しかし少しして、なんだかおかしな事に俺は、気がついた。
AとBが騒ぎながらゲームをしている。
「そこにアイテムがあるぞ。あっ!敵が来た!撃て!…返せ。」
「しゃがまないとやられるぞ!…返せ。」
こんな風に、Aが所々に「返せ」と言う言葉を入れるのだ。
不思議に思った俺は、Aに
「なぁ、A。何を返せって言ってんの?」
と聞いた。すると驚いた顔をしながらAが
「は!?何?俺!?
そんな事言ってないけど!」
と言う。「言ってたよなぁ?」とBを見ると、心なしか顔色を悪くしたBが コクリと頷いた。
「なんだよ、それ……。俺はお前が返せって言ってた事が気になってたよ…」
「俺が!? いや、そんな事一言も…」
「言ってたって!何度も何度も!」
……マジで!?全然記憶にないぞ……
Bはあきらかに顔を青くしていた。
「お前…もしかして…。さっきの石どこで拾った?」
「まさか墓場とかじゃないよな!」
俺達が問い詰めると、Bが弱々しい声で話し始めた。
「あれ本当は拾ったんじゃないんだ…。
家の近くに稲荷神社あるだろ?あそこの狐の像がくわえていたやつで…。
ちょっとぐらついてたから、棒でつっついてたら取れたんだ。
…で、持って来ちゃった…」
「マジかよ!それはヤバイって!」
「なんでそんな物持って来るかな〜、お前は!」
俺とAは頭を抱えてしまった。
これはソッコー返しに行かなくては…!
なんだかまずい気がする。
「とにかく…早く返してこないとヤバイんじゃない?」
「俺もそう思う。B、早く行ってこいよ!」
「えっ?俺一人で!?…やだよ、二人も来てくれよ〜!」
正直行きたくなかったが、仕方ない…。
「行くんなら早く行こうぜ。明るいうちの方がいいし。」
俺の提案に二人は頷き、早速出かける事にした。
階段を降り、台所にいた母親に声をかけた。
「ちょっと外に行ってくるから。」
「え〜?今から?夕飯までには戻って来なさいよ。」
「すぐそこだから、大丈夫だよ。」
「おばさん、今日の夕飯何にすんの?」
「カツカレーにしようかなと思ってるの。」
やったー!と歓声が上がる。
「よし!さっさと済ませて帰って来ようぜ!」
俺達が靴をはいていると、母親が
「気をつけてね」と、後ろから声をかけてきた。
わかってる、と答えようとして振り返り 母の顔を見て はっと息を飲んだ。
さっきまでのにこやかな表情はどこにもなく、無表情で俺達を見ていた。
「か、母さん…?」
俺が呟くと、母はゆっくりとBの方を向き
「返せ返せ返せ返せ返せ…」
と小声で繰り返し始めた。
それを聞いた俺達は、弾けるように玄関を飛び出し、そのまま神社まで全力疾走した。
母のあんな顔を 俺は見た事がない。走りながら思い出し、ぞっとした…。
もしかして 俺が返せと言った時も、あんな顔をしていたんだろうか?
Aの表情は見えなかったけれど…。
しばらく走って 神社の前に着き、息を整えてから境内の中に入った。
少し怖いけれど、まだ明るいというのが俺達の恐怖を和らげてくれていた。
問題の狐の像を見てみると、社を守るように建っている二対の狐の左側のやつが 口をポカンと開けている。
なるほど、あれか…。
Bを見ると わかったと言うように頷き、ポケットから石を取り出した。
そして狐の口に元通りに石を納め、三人でかなり長い時間「すみませんでした!」「ごめんなさい!」と、手を合わせ謝り続けた。
「…じゃあ…帰るか。」
Aの言葉に、俺とBはちょっとほっとした。
辞め時がわからなかったからだ。
「そうだな…。これだけ謝ったんだから、大丈夫だよ、きっと。」
「そうかな…?お供えとかした方が良かったのかな。」
「それは お前が自分でやれよなー!」
三人で笑いあった。
帰り道は来た時と違い、和やかな雰囲気だった。
肩の荷が降りたというか、そんな安心感があった。
辺りは夕焼けで赤く染まり、会社帰りの人や買い物に行く人達がいて いつもの夕方という感じだ。
あと少しで俺の家という所で、向こうから 三歳くらいの女の子と母親らしき人が 手をつないでやってきた。
歩道は狭いから、俺達がはじに寄って道を譲る。
するとすれ違う時に、女の子がピタリと歩を止めた。
そしてBの事を指差し
「この罰当たりが!!」
と、いきなり叫んだ。
固まる俺達………。
「やだ、何言ってんのこの子は!ご、ごめんなさいね?」
母親が申し訳なさそうに、女の子を引きずるようにして歩いて行く。
俺達がそれを呆然と見ていると、少し歩いて母親が振り返り、頭を少し下げた。
俺達もつられて頭を下げる。
また少し歩いて、母親が振り返り そして
「暗くなる前に済んで お前助かったな…」
と言った!
それを聞いた俺達はいっせいに走り出し、家へと飛び込んだのだった……。
あの後、俺達は何事もなく過ごしている。
俺の母親も、いつもどおりの母だった。
Bだけは、月一であの稲荷神社に お供えしているらしい。
油揚げの変わりに 一度酒を供えたら、その月は少額だが 宝くじが当たったそうだ。
偶然かもしれないが、毎月真面目に供えに行くBを 逆に可愛がっているんじゃないか?と、俺は最近そう思っている。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話