俺が高校2年の頃。
同級生の政聡(以降、政)
伸弥(以降、伸)
ひとつ年下で後輩の俊、(俊)
この4人でいつも遊んでいた
俺らは学校で命知らず、怖い物知らずと言われる事に喜びを感じ、話題の中心になる為に過激な事に挑戦し続けていた
そんな事があって、心霊スポットと呼ばれる所には片っ端から行ったし、かなり罰当たりな事をやっていた
そんな中でも結構ヤバかった話を一つ……
夏休みで、彼女もいない俺らはやることがなく暑さにうなだれていた。そんな時に、伸がどこからか情報を仕入れてきた
伸「今話題になってんだけど、一家惨殺された家が在るらしくて結構出るって噂だぜ?ちょっと遠いけど…」
俺「そりゃあ行くでしょ!」
“出る”という言葉に今までの萎えた気分は吹っ飛び、早速4人で出掛けた
免許なんて持っていなかったが、政が父親の車を借り、目的地まで向かった
問題の家に着き、外観がすでにそれっぽく内心ビビりまくっていた
元々物盗りが入り、それを目撃してしまった為に家族全員が殺されてしまったらしい
政「じゃ、第三回パワプロ大会を始めますか〜」
俺達は心霊スポットに行くだけでは飽き足らず、そこで何かしら面白い事をやらなくては気が済まなかった
この時は一家惨殺された家で野球ゲームをやり、優勝者を決めるという訳のわからないルールだったが、当時はそれが面白い事だと思っていた
そんな心霊野球大会は一回戦は何の問題も無く済み、政VS俊という組み合わせで決勝戦をやっている時に事件は起きた
政「俊!?おいっ俊!!」
俺&伸「どうした?」
政「俊が球投げて来ねぇから試合が進まねぇんだよ!」
俊の方を見ると、小刻みに俊が震えていた
俺「俊?どうした?」
俊「いや……何か、周りで子供の声が聞こえて………」
俺は政と伸を見た。二人とも首を横に振る
(なるほど、こいつ俺達をビビらせようとしているな……)
今思えばここで素直にビビって帰れば良かった…
俺「まぁ、お前の後ろに血まみれの子供が立ってるもんな(笑)」
政&伸(爆笑)
それを言ったとたん、明らかに俊がビクっとした…
俊「僕が見えるの?って……」
この辺で薄々ヤバそうな気配を察したのだが、帰らなかった
このまま帰えったら、夏休み後の学校での話のネタにならないと思ったからである
『帰らなかった』と言うよりは
『帰れなかった』って感じ
俺「お前、子供にゲームやらせてやれよ!」
政&伸&俊「!??」
俺「いや、幽霊とゲームやったって言えば笑えるだろ?」
俊が「どうぞ」と言いながらゲームを置いたが、特に何も起こらなかった
俺達は少し安心し、とりあえず煙草を吸って気持ちを落ち着かせていた。
俊も声はもう聞こえないらしく、引き攣りながらも笑っていた
そんな時だった…
政「えっ!?」
一同に緊張感が走った
俺「どうした…?」
政「俊って……ゲーム置いてるよな?」
俊は確かにゲームから手を離している
政「球…来るんだけど……」
政の画面を覗く。俊のゲーム機と通信対戦をしているはずの政のゲーム機に球が投げられてくる…
俊はゲームに手を触れていない…
さすがにヤバい!今までの雰囲気だけの心霊スポットとは違う!!ここには確かに【何か】がいる!
俺達はダッシュで荷物をまとめ、政の車に乗り込んだ!
政が車にエンジンを掛けると、来る時まではBzの曲が流れていたはずのスピーカーから老若男女の悲鳴や怒号が大音量で流れている
俺「早く出せっ!ってか、音を止めろ!!」
政は車を急発進させ、助手席の伸は音楽を止めようと必死にやっているのだがなかなか止まらない
段々、音はリアルに生々しくなって来て、もはや叫んでる奴の吐息や体温が伝わって来る……
政「もういいっ!!親父には後で謝るからぶっ壊せ!!」
その一言で、伸はCDを入れたり音量を調整する部分を足で蹴り続けた
その部分がボコボコになり、上に付いてるカーナビの画面まで割れたくらいの頃に悲鳴は止まった…
政「はぁ…これからどうする?」
伸「俺ん家の近くの寺に行って、お祓いしてもらおうか……」
俺「あそこかぁ〜……」
伸の言う寺は、地元住民でもあまり近寄らない所であり、親達にも関わるなと言われている
伸「あそこは本格的にヤバい事しか請け負わないんだって……どこの寺でも手に負えない場合にあそこに行くらしい……
だから親達も事件に巻き込まれない様に近付かないんだ」
1番近い寺がそこであり、伸の言う通りなら、なんとかなるかもしれないと俺達は寺に向かった
寺に着き、住職が出て来た
住職は俺らを見るなり、
「厄介な物を連れて来たのう」と言い中へ通してくれた
住職「まず、何があったのか最初から話してみろ」
俺達は全てを話した
住職「まったく……呆れた奴らだな!しかし、妙だのう…声を聞いたのはお前一人じゃったな?」
住職は俊を見る。俊が頷く
次に俺を見る……
住職「何故かは知らんが、子供の霊はお前の背中にベッタリと憑いておる…」
俺「は!?」
住職「何か霊に心を許す様な事を言ったか?」
俊「優さん、子供にゲームやらせてやれって…」
確かに言った。でも、あれは冗談のつもりで……
住職「まぁ、わしが祓ってやるから安心せぇ!お前ら、今は夏休み中だろ?多少、時間がかかるからここで寝泊まりしろ」
俺達は外泊に慣れているし、親もそんなに心配していないから、適当に俊の家に泊まるという事にした
(俊の家はお金持ちだが、父親と仲が悪く仕送りを貰って一人暮らしをしている)
こっから地獄の3日間のお祓い生活が始まる…
住職「とりあえず、本格的なのは明日から始めるとして今日はもう寝ろ!」
住職はそう言って布団を4つ敷いてくれた
住職「まぁ、寝ろと言っても普通の神経してる奴じゃ寝れんだろうがのぅ……」
この言葉は本当だった
いざ寝ようと布団に入り、目を閉じると聞こえてくる…
あの車の中で聞いた老若男女の悲鳴と怒号が…
しかも近い……
同じ部屋の中、枕の周りでそいつらが騒いでいる感じだ
俺はもはや目を開けることが出来なかった
俺「おい!何だよこれ」
伸「こりゃ酷いな…」
政「寝れねーよ」
俊「きついっす」
どうやら全員聞こえてるようだ
その日の夜は寝たのか、あまりのショックに気絶したのか分からんが、起きると朝だった
政「おいおい、洒落になんねぇよ寝た気がしねぇ…」
伸「俺達、今回はマジで死ぬかもな…」
そんな事を言いつつ住職の所へ行くと、
住職「おはようさん!しかし、昨日はうるさかったのぅ!!」
あんたにも聞こえてるのかよ!
そりゃ、普通の神経してる俺らは寝れないわ……
その日は朝飯を食った後、4人で座禅を組んで住職のお経を聞く
それだけだった…
それ以外は自由で、掃除など住職の手伝いをしたり、夜寝れなかった分を昼寝で取り戻していた…
(昼は声が聞こえなかったので)
夜は住職が「いいから飲め!わしが許す!」という事で5人で大宴会を開いた。
話していると、意外と住職は面白くて良い人だった、親達の言う様な恐さはなかった
まぁ顔は恐かったが……
俺達は住職に『モーガン』というあだ名を付けた。理由は漫画の
[ONE PIECE]に連載当初に出て来ていた[斧手のモーガン]というキャラに似ているという事で…住職は[モーガン.フリーマン]のファンと言う事でこのあだ名を気に入っていた様だった
その日の夜も悲鳴が聞こえたが
慣れていた事もあり、初日ほど気にならなかった
2日目も初日と同じような感じで過ぎていったが
夜の宴会で、昨日はあれだけ騒いでいた住職がほとんど喋らなかった。不思議に思い尋ねると、
住職「今日までで大体の悪い物は取り除いた……後は憑いてきた子供を何とかする…
お前ら、明日が本番じゃぞ!」
この一言で俺達の緊張感は一気に高まり、早めに布団に入った
次の日は、今までと違い一人ずつ順番にお祓いをする事になった
最初に俊が呼ばれ、本堂に入って行く
伸「まぁ頑張れよ」
俺「死ぬなよ」
政「死んでも俺達を恨むなよ」
俺達なりの激励だったが、あまり効果はない様だった
次に伸が呼ばれ、政も中に入った
やっと俺の出番が来た…
本堂の中に入る…
中は異様な雰囲気だった
空気が重く、息苦しい…
住職「まぁ、座れ」
住職の前に座る
他の3人は壁際に座り俯いていた俺が見ると、全員が
(かなりヤバいぞ…)と目で合図してくる
住職「目を閉じろ……そして、何があっても心を乱すな。
自分を見失いそうになったら、
何か楽しかった事を思い出せ…
負けたら終わりだぞ……」
目を閉じ、住職がお経を唱えだす
1、2分した所だろうか
俺の心の中に母親が現れる…
笑顔の母を見ると心が安らぐ…俺は母に抱きついた
母さんは俺の頭を優しく撫でくれた……
俺は照れながらも母さんにひざ枕をしてもらう
言いようのない幸福感に包まれる
その時、住職が叫んだ
住職「馬鹿者!!それは本心ではない!子供がお前に見せておるのだ!絶対に負けるな!」
その一言で、我に返ったが
次の映像は酷かった……
自分の父と母が苦しんでいる…
俺は駆け寄りたかったが体が動かない…
口から血を吐き、もがき苦しむ親
やめろ……やめてくれ!…
必死に助けようとするが体が動かない…
周りで伸、政、俊が見ているが誰も助けてくれない…
うっすらと笑っている様に見える
なんで助けてくれないんだよ…
俺の中で伸達に怒りが芽生える
こいつら……殺ろしてやる…
憎い、憎い、憎い………
住職「負けるな!!そんなものは全部嘘だ!お前らも何か声を掛けてやれ!」
住職が伸達に言った
俊「優さん……」
伸「優、頑張れ!」
政「馬鹿野郎!!死んだらお前の好きな女バラすぞ!」
皆の声で少し正気に戻った
何か楽しい事を考えないと…
真冬の海で政と100泳いで競った事……
俊と女子校に忍びこんで危なく警察沙汰になった事……
伸の姉さんがあまりにも美人だったので政と二人でラブレターを出した事……
(あれにはさすがの伸もキレてたなぁ…(笑))
こいつらとの楽しい思い出がどんどん溢れ出してくる
住職「よし!その調子だ!もうすぐ終わるから、そのままでいろ」
最後の反撃だったのだろうか…
俺の前に無表情の父と母が立っていた
だが俺に恐怖はなかった…
スッと肩に乗り掛かる重圧が取れ父と母は消えた
住職「ふぅ〜、終わりじゃ」
「よく頑張ったのう」
住職が笑顔で俺の肩を叩いた
俺達は子供の霊から解放された
その日の夜は5人で酒を飲みながら馬鹿騒ぎをした
そんな中、
政「いや〜大変だったな!」
「で、次はどこ行こうか?」
この一言で住職が激怒したのは言うまでもない……
住職「お前らは一度霊に憑かれたから、これからは普段見えない物が見えたりするじゃろう…
これからも定期的に家に来い
最悪の場合の護身術程度は教えてやる……」
この後、俺達は何度も住職に世話になることになる……
まぁ、他の体験談も沢山あるのだが、ちょっと長くなってしまったのでまた機会があれば書かせて貰う事にしよう……
長くなってしまいましたが、最後までお読み下さりありがとうございました
怖い話投稿:ホラーテラー 優さん
作者怖話