母方の祖母が四回目の再婚をした。
実質五番目にあたる旦那が、急に俺の前に現れて「新しいおじいちゃんだよ〜」とかアンパンマンの新しい顔みたいな紹介されたけど、当時小六の俺ですら「良くやるなー」と内心呆れた状態で挨拶したのは言うまでもない。
この話はそのnew祖父(仮にYとする)が現れたことで起きた俺にとっては相当ヤバかった体験。
元々、我が家は二世帯住宅で一階に両親と俺と妹、二階に祖母が住んでいた。Yが来る二年程前までは、四番目の祖父が二階で祖母と同居してたが、金銭面で折り合いが悪くなったらしい、気付いたら居なくなってた(笑)
その二年後に祖母とYの再婚の話が持ち上がった。俺の両親は当初猛烈に反対してたらしいけど、それを祖母が押し切る形で話がまとまっていったとか。今考えたらほとんど初対面の男と二世帯とは言え、一つ屋根の下で暮らすことを反対しない奴はいないだろうな。
そんなんでYが割と大きめのトラックに色んなもの積んで越して来た訳だ。俺と親父は引っ越しの手伝いをしてたけど、母親と妹はベランダから不安そうに俺らの様子を眺めていた。
Yとまともに会話をしたのはその時が始めてだった気がする。いや、まともと呼べるのは形だけで酔ってるのか変な薬でもやってるのか上手く会話が繋がらない。親父もそれを感じてか、相当イライラしながら早く切り上げたい雰囲気を作ってた。
たまに
Y 「しんご君(俺の名前)はえらいねー。えらいねー、手伝いして、えらいねー。」
と同じような言葉を並べて気味の悪い笑い声をあげる。
とんでもない奴を連れてきたな、うちの婆さんは(笑)ヘラヘラしてるし、完全に目が変だよ。
時折浮かべる笑みに不快感を覚えながらも、小一時間程でYの持ってきた大半の物を二階にあげた。トラックの中には180x100くらいの大きな赤茶色のたんすだけが残っていた。
古くさいたんすだな、と思いながら手をかけた時
「さわるな」
後ろから聞こえた声に振り返ると、先程の不快な笑みとは全く異なったYの無表情が目に飛び込んできた。その表情がどこか異様な雰囲気があるもので、とてつもない不安が押し寄せてきたが、その時はなにもできなくただ呆然とするしかなかった。
俺 「いや。あ、あの。手伝おうかと思って。」
そう伝えると少し間があってから、また不快な笑みに戻っていった。笑いながら俺の姿を下から上へとゆっくり目線をずらしている。品定めするかのように眺めている。目が合うと全身に鳥肌が立ってしまった。この男はきっとまともじゃない。
Y 「これは、ね。良いんだよ、手伝わなくて。重いから、ね。うへへ。えらいねー。しんごくんは。えらいねー。えらいねー。」
と言いながらひとりで巨大なたんすを担いで運びだした。
どちらかと言えば華奢な体格のYが一人でたんすを運ぶ姿に、俺は長い間呆気にとられていた。
一部始終を見ていた親父が俺の肩に手を置くと「じゃあ僕らはここで。」と祖母に告げた。祖母は「ありがとう。ごめんね。」と俺の耳元で呟いた。
Yはまた無表情になっていて、時折赤ちゃんをあやすようにたんすを揺すると何か独り言をボソボソ呟きながらゆっくり二階に上がっていった。
その日の夜はすぐに寝付くことができなかった。両親はまだ何かを話してるようで時折かすかに声が聞こえる。俺は布団の中で二階から聞こえてくる物音に耳をすませていた。隣では四歳の妹が寝息をたてている。
正直、祖母が心配だった。Yと一階にいて祖母もおかしくなったらどうしよう。つーか何故Yを選んだんだろう(笑)子供ながらにそんなことを考えてるうちに気付いたら寝てた。
多分0時は回ってたと思う。
誰かの声で急に目覚めた。声の主は部屋の隅でなにかをしているようだった。ふと隣を見ると妹が居ない。
俺 「ゆき?」
妹 「なあに?」
俺 「お前なにやってんの?明日幼稚園行けないよ。」
妹 「ちょっとまって。いまYさんにごほんよんであげてるの。」
Y?なぜYがこの部屋にいるんだ。俺は恐怖からか身体が動かない。なにをしてるのか見ようにも、暗くて細部までわからない…が、妹らしき陰の隣にはぼんやりと大人の姿があった。
俺 「Yさん?いるの?」
陰から反応はない。
妹 「Yさんはいまないてるからはなせないの。ゆきがYさんのこどもになれないから。だからなかないでってごほんよんであげてるの。」
俺 「ゆきこっち来なさい!」
妹 「でもねYさんが…」
俺 「いいから早く来い!」
その途端、妹がYと呼ぶソレがゆっくりと立ち上がった。
ガクガクとマリオネットのように身体を奮わせながら立ち上がるソレを暗闇に慣れてきた目で凝視する。
ふいにソレのガクガクで部屋中が揺れている錯覚に陥ったが、それは単に俺自身の止まらない震えだった。
俺に近づいてくるソレはYではなく、ボサボサの髪が胸のあたりまで垂れた老女の姿だった。背中を丸め、ちゃんちゃんこのようなものを羽織っていた。
身体を奮わせながら泣き声のような嗚咽を漏らし、一歩一歩擦り足で近づいてくる。右足を一歩。引き寄せるように左足を右足に並べる。
これはマジでヤバい。人間じゃない。完全に人間じゃない。
股間を手で押さえている。そこから水滴が滴り落ちているが、それが血であることはなんとなくだが、わかる。
女はとうとう俺の目の前に立ったが、俺は結局そこから動くことはできなかった。女が口を開いた。
「えらいねー…」
「えらいねーえらいねーこどもえらいねーえらいねーえらいねーこどもえらいねーえらいねーいらねえーこどもえらいねーえいらねーえらいねーこどもえらいねーいらねえーいらねえーこどもいらねえーこどもいらねえいらねえいらねえいらねえいらねえ」
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ
女は録音したものを再生してるかのように、言葉を発しながら股間を物凄い勢いで掻きむしりだした。
滴る血がさらに増した頃に俺は気を失ってしまった。
すいません。続きは明日書きます。
怖い話投稿:ホラーテラー 麒麟さん
作者怖話