◆ブラック・ダリア
彼女の本名はエリザベス・ショート。
第2次大戦後、もっともおぞましい猟奇殺人の被害者と言われたのが彼女である。しかもすこぶるつきの美女、それも場所は夢の都、ハリウッド近郊であった。
発見された死体は無残の一言に尽きた。死体は全裸で、完全に血抜きされていた。全身には激しい殴打のあと、首、手首、足首にはロープの跡があった。美しい顔は口の端を耳まで切り裂かれ、いまわしい笑みを作っているかのようだった。
何よりも凄惨だったのは、彼女が「まっぷたつ」だったことだ。
ブラック・ダリアは上半身と下半身を完全に切断し切り離され、草原に放り出されていた。脚はいまだ男を誘うかのように大きく開かれ、死後も彼女を女として侮辱していた。
検死結果、彼女は数日間の拷問を受けた末、殺されたことがわかった。胃の中からは人糞が発見された。ベスがすすんで食べるはずはない――拷問の末、無理に食わされたのだ。
ベスは田舎町で人生を終えるには美しすぎた。彼女は全米中に雲霞ほどもいる
「女優志願の女」のひとりとなってハリウッドにひきつけられてきた。
彼女は夢をみながら、軍人たちの集まるカフェでウエイトレスをはじめた。美貌の彼女はあっというまに人気をさらった。漆黒の髪、漆黒のドレス――。当時はやっていた映画『ブルー・ダリア』をもじって軍人たちは彼女をブラック・ダリアと呼んだ。
「ダリア事件」は一大センセーションを巻き起こした。動員された捜査員は述べ250人余り。しかしそれでも犯人は挙がらなかった。怨恨ではなく性的な意味を持つ事件であることは確かである。現代ならこの犯人は容易に連続殺人者となったかもしれない、だがこの犯人は、これ以降の犯行をやめた。
「ブラック・ダリア事件」は、栄華をきわめていた当時のハリウッドの光と闇を体現した事件である。ダリアは女優を目指していたはずでありながら、実際女優になるための努力をほとんどしていなかった。彼女がハリウッドという夢の都に対してぼんやりとした夢想をしか見ていなかったように、我々もまた、ダリアことベスに対して曖昧な幻影をのみ見出そうとするのである。
ダリアはまさに、我々凡人が夢見たハリウッドの敗残物そのものだった。美貌、生きざま、死にかた、死後の噂、そして「伝説」になるまで――。
だが、これだけは言える。彼女の美しさは永遠である。たとえそれが最早「オブジェとしての死体」の美でしかなくとも。
怖い話投稿:ホラーテラー ブラック マドンナさん
作者怖話