ポタリ…
ポタリ……
部屋の扉の前から、水音が聞こえる………
…私には、付き合っている女性がいた。
少し体が弱いが、とても優しくて純粋な女性だった。
彼女は体の調子を崩し、病院に入院していた。
「病院での生活はとても退屈…」
と、たまに愚痴をこぼす彼女だったが、それでも私が会いに行くと優しく笑ってくれたのだった。
しかし…その笑顔の下にある、彼女の気持ちに私は気づいてあげられなかったのかもしれない。
その日の前日、彼女は珍しく私に愚痴をこぼした。
「もっと…会いたいな」
目には涙をうっすらと浮かべていた。
出来るだけ会いにくるから、と何とか慰めたが、私の心はキュンと痛んだ。
そして次の日、彼女の母親から連絡があった。
彼女が病院からいなくなった、と…
私には、何が何だか信じられない気持ちだった。
もしかしたら、私の家まで会いに来るかもしれない…
そう思った私は、すがるような気持ちで彼女を待った。
その日の夜、家の玄関が弱くノックされる音をかすかに聞いた。
あわてて玄関のドアを開けたが、そこには誰もいなかった。
ただ、玄関の外に水滴の跡が三つ、四つと残っていたのを見た…
その日からだった。
家の中から水音が聞こえるようになったのは…
ポタリ…
ポタリ……
日増しにその音は部屋に近づいてくる。
今朝…珍しく早朝から電話のベルが鳴った。
………彼女が、見つかったと。
彼女は、病院近くの川に流され浮かんでいたという…
そして、その夜。
ポタリ…
ポタリ……
一層大きさを増した水音が扉の前から聞こえてきた………
怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん
作者怖話