私はアルバイトで2年間カジノのディーラーをしていたことがある。
ジャック、バカラ、ルーレット。
1回のゲームで3000万円動いたこともある。
お客は明らかに堅気ではない方もいれば中華料理屋の夫婦、会社経営者といった様々な人達。
人間の本質とはお金が絡むと非常に面白い。
勿論換金していた。
厳密に言えば店内ではなく店外で。
換金を行う人間はチェックマンと呼ばれお客が店を出たあとチェックマンも出て換金する。
誰かれも換金するわけではない。
チェックして大丈夫だと思われる客のみ行う。
だからチェックマンだ。
チェックマンは見た目七三分けの普通のおじさん。
ジョークをとばし場を盛り上げとても良い人。
でも1度酔っぱらって服を脱いだ時背中に刀で斬られたような深い傷痕が肩からお尻辺りまで見えた。
やはりその筋の人だ。
前置きが長くなったがそのチェックマンから聞いた奇妙な話をする。
チェックマンが22歳の時盃を交わした兄貴に
「これから下見に行くぞ」と言われた。
チェックマンは訳も分からず兄貴について行った。
真夜中広島県の○○山まで車を走らせること1時間。
移動中兄貴は終始無言で緊張感ただよっていた。
「いや〜今だったらさぁ〜ピンと来たょ。でも当時はウブだったからさぁ〜何も分からなくてウキウキしてたんだょね〜」
チェックマンはそう私に言い私は黙って先を促した。
喉を鳴らしながらビールを飲むと再び話し始めた。
以下(チェックマン=僕)
車で山の中腹まで行くと兄貴は車を停めろと言った。
車を停めると兄貴は降りてすたすたと歩いて行った。
僕も後を追う。
時間は深夜。
山の中は真っ暗だ。
車を降りて20分ぐらい歩いたところで兄貴は
「…ここら辺がベストかな」
と言った。
訳が分からないけど頷いてたら人の足音が聞こえてきた。
複数の足音。
兄貴と僕はとっさに木に隠れた。
1人が走ってもう1人が追いかけている感じだ。
こんな時間に山の中で…ってかなりやばい雰囲気だって思った。
だんだん足音がこっちに向かってきた。
「ハアハア…」
息遣いまで聞こえてくる。
兄貴を見ると息を殺して音のする方向を見ていた。
次第に見えてきた。
白い服だかパジャマだかよく分からないが白い格好の女が後ろを見ながら走っている。
長い髪の毛が顔にかかっていたがわずかな月明かりに見えた女の顔は恐怖で引きつっていた。
兄貴と僕が隠れていた場所から200メートル弱の場所に井戸らしきものが見えた。
女は見えるがもう1人追いかけているであろう人物は見えない。
足音は聞こえるが見えない。
女は井戸にもたれかかった。
「嫌、嫌…」
女は1人で叫んでいる。
今にも井戸に落ちそうだ。
両手を空に向け何かから身を守ろうと必死で抵抗していたが
「ギャ〜」
叫び声と同時に
女は背中から落ち足を上にして見えなくなったかと思うと
すぐ後にバシャッと井戸の中から聞こえた。
一瞬の出来事だった。
…山の静寂が戻った。
兄貴と僕はしばらく動けなかった。
井戸からは何も音が聞こえない。
怖くて怖くて兄貴を見たら兄貴も僕を見て合図するかのように頷いた後車まで猛ダッシュで走った。
もう1人の奴に見つかるんじゃないかって不安と恐怖でいっぱいだった。
兄貴が運転席に座った。
下っ端が本来なら運転するんだけど…って思っていたら兄貴が
「お前、井戸見て来い」
って信じられないことを言った。
僕は半泣き状態の中懐中電灯と木刀を持たされ車から出された。
「もう1人の奴に出くわしたら大声で叫べ」
兄貴は調子良いこと言って自分だけ車の中。
僕はびびりながら、もと来た道を戻り井戸の近くに行った。
後ろを振り向くが
誰も居ない。
恐る恐る井戸の中を懐中電灯で照らしながら覗いた。
…井戸の中は土で埋められていた。
訳が分からなくて頭が混乱した。
何度見ても井戸は埋められていて人が落ちるわけがない。
じゃあさっき僕達が見たものは何だったのか。。
冷静に考えるごとに恐怖がピークに達した。
兄貴のもとに無我夢中で走った。
車に飛び乗り僕は兄貴に事の真相を話そうとしたところ兄貴が僕の座っている助手席の窓を指さしながら
「あ…あれ…」
と言った。
見るとあの女が髪の毛を振り乱しながら走って来てたんだ。
引きつった顔して。
今から思えばよく無事で帰って来れたよ。
あの井戸はどうなってるのか知らない。
知りたくもない。
話し終えたチェックマンは笑顔を見せた。
引きつった笑顔だった。
じゅりに頼まれて投稿しました。
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怖い話投稿:ホラーテラー じゅりさん
作者怖話