これは私が大学生の頃の話。
私が当時住んでいたアパートは河原の土手沿いにあり、私はその河原を眺めるのが好きだった。
まだ一人暮らしをはじめたばかりの頃などは、よく河原を眺めては田舎の事を思い出したりもしていた。
あれは、大学生活にもだいぶ慣れはじめた頃だった。
大学のパソコン室で勉強をしていて、すっかり暗くなっていた河原の土手を歩いていた。
とても静かで、自分の足音と川の流れる音だけがかすかに聞こえていた。
いつものように河原のほうを眺めながら歩いていると、何か視界にうつった。
ん………あれは?
案山子…のように見えた。
田舎の田んぼでは良く見慣れた案山子のようなものが河岸に立っていた。
しかし、場所が場所だ。
砂利ばかりが転がる河原には、それは似つかわしくなかった。
だいぶ目が疲れてるのかな…?
その時はあまり気にも止めず、家路を急いだ。
次の日の朝、同じ場所を通った時にはその案山子のようなものは見当たらなかった。
やはり見間違いだったのだろうと、気にせず大学へ向かったのだった。
そんな事はすっかり忘れかけていた、数日後。
夜中、自販機でジュースを買ってこようと河原の土手を歩いていた。
すると、数日前に見た河岸の辺りに、やはり案山子のようなものが立っていた。
少し気味が悪いと思いつつも気になった私は、もっと近くへ行きそれを見てみる事にした。
少しづつ近づくにつれ良く見えてくる外見も、やはり案山子のように見えた。
手に届く位置にまで近づいてみると、それはとても古い木で出来ているようだった。
案山子のような人型をした、それの顔の辺りには何やら古ぼけた写真が貼ってあるようだった。
そしてその写真には、無数の錆付いた釘や針が所狭しと突き刺さっていた。
何か黒くモヤモヤとした怨念のようなものが、包み込んでいるように感じられた。
それを見るや、背筋にゾッとくる妙な寒気が襲ってきた。
どこからか誰かに見つめられているような感覚を覚え、私は慌ててその場を離れたのだった。
それからというもの、何度もそれを見かける事があった。
それも、何故か夜の間に限ってそこに立っているようだった。
そんな事が続いた、ある日の深夜。
河岸にいつものようにそれが立っていた。
しかしいつもと違い、その近くには白い服を着た女性が立っていた。
こちらに背を向けていたから顔こそ見えないが、何か恨みをこめて案山子に向かって釘か針を打ち込んでいるように見えた。
しばらくそれを凝視していると、その女性が気配を察知したかのように突然動きを止めた。
そして振り向く。
その一つ一つの動きはカクカクとしていて、気味が悪かった。
古い飛び飛びのビデオテープを再生しているかのように不自然で、人間の動きにしては違和感のようなものを感じたからだ。
怖くなった私は、近くにあった看板の陰にサッと隠れた。
そして陰からソーッと再び覗いてみると、女性は案山子もろとも瞬く間に消え去ってしまっていた。
その日以来、その案山子はパッタリと消えて見なくなった。
あれは、果たして何だったのか…
……今となっては分からないが、あの女性の奇妙な動きと光景は今でも深く頭の中に残っている。
怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん
作者怖話