私には従姉妹5人います。
みんな女です。そして【凪(ナギ)】とゆう破天荒な従姉妹。
凪は、とにかく明るくて突拍子もないことを思い付いては皆に迷惑かける子でした。(お茶目な迷惑程度)
凪の父親は、凪がお腹の中にいるときに他界しており私の父の妹が母にあたるのですが母子家庭で育った。
今、思えば母想いで母を喜ばせたりして辛い過去を思い出させないように振る舞っていたのかもしれません。
容姿は細身で長身。髪はショートで動かない!騒がない!話さない!の条件が揃えば世間的には美人と言われる種族に入ります。
しかしながら、美人が兼ね備えていると言われるおしとやかな性格と正反対なもので彼氏は出来なかった。
と、いうよりは男を男として見ていない。
凪の中では、彼氏が出来ると母が悲しむと考えていたのかもしれません。
そんな凪と出会ったのは、近所で花屋を経営する若者でした。その男性は、父の花屋を継いで2代目として近所でも評判のいい好青年でした。
彼には母親がいなかった。どうやら、彼が小さい頃に母が他に男を作ったらしく何も言わずに出て行ったそうだ。
彼には母親の記憶が少しあるものの母の温もりを知らずに育った。
そんな彼を優しく見守って自分の息子のように可愛がっていたのが凪の母親だった。
凪と彼は、面識はあるものの仲が特別いいわけではなかったそうだ。
月に1、2回。父親の墓参りに行くときに彼の花屋で花を購入する程度だった。
ある日
「凪いますか!凪のお母さんが倒れたんです!」
バイト中の凪の店に連絡が入った。連絡してきたのは、花屋の彼だったそうだ。
事務職の凪は店長に早退をお願いし、店を出ると彼が車で待っていた。
彼は母親が搬送された近くの病院まで、凪を乗せ車を飛ばした。
彼は母親のように慕っていた人が急に倒れたことに動揺を隠しきれず不安でいっぱいだった・・・のだが凪は、「母さんは強いから大丈夫だよ」と車内で彼を励ました。
本当は、誰よりも自分が不安で押し潰されそうなのに・・・
病院に着くと、凪は全力で走った。受付の看護師に部屋番を聞くとエレベーターを使わずに全力疾走で階段を駆け上がった。
ドン!
部屋のドアを開ける凪。
びっくりする母親。
「何!びっくりするじゃない!」と、母親が言うと凪は安心したと同時に腰が抜けたのか、その場に座り込んだ。
「・・私一人にしないでよ!母さんがいなくなったら生きていけないんだからっ!母さんの馬鹿!」
凪は子供のように泣きわめいた。彼は凪の姿を病室の外から初めて見た。
「ごめんね。凪」
母親は涙を浮かべながら謝った。
彼は、安心したと同時に母親の存在の大きさを知った。
自分には母親がいない。それがコンプレックスだった。しかし、血は繋がっていないが凪の母を自分の母のように大切にしていこう。
そう決めた。
しかし、神様はあまりにも残酷だった。数日後、凪と私の父などの数名が医者に呼ばれ言われたそうだ。
【末期のガン】
医者の検査によれば、余命半年だった。そして抗がん剤治療をすすめられた。
凪を含め皆が絶望の淵に立たされたのだ。
次の日、凪は私の家に来た。
凪を一人でアパートに住まわせるのは大変だから、うちに来いと父が言ったらしい。
皆、絶望の淵に立たされたというのに凪はみんなを励ました。「大丈夫!気合いで治るよ!」と笑顔で話す。
私は胸が痛かった。なんで、凪はここまで強いんだ。皆が下を向くのに反して上を見て先に進もうとしている。
明るく振る舞う背中は、とても寂しそうじゃないか!
何もできない自分が悔しかった。
凪の母には私の父がガンだと、伝えた。
「そっか」の一言だったそうだ。
そして抗がん剤の治療が始まった。
抗がん剤には副作用がある。
有名なのは髪が抜けること。
治療を始めた最初のうちは髪が抜けることはないのだが、凪は母親のために手編みのニット帽も作った。
母も女だからだ。
母親が入院してから毎日のように凪は彼と病室を訪れた。
母を悲しませまいと、凪も彼も明るく振る舞った。病室には、いつも綺麗な花が飾られ笑いの絶えない病室だった。
ある日
「ねぇ凪。無理を承知で、お願いがあるの。」と母が真顔で言う。
「なんでもするよ!」凪は笑顔で答えた。
「あなたのウェディングドレス姿を見たいの」母は恥ずかしそうに笑顔で言う。
「お母さんは、結婚式を挙げる前に父さんが亡くなって結婚式を挙げたことがなかったの。せめて、あなたには私が着れなかったウェディングドレスを着てほしいの。」
凪は笑顔で「彼氏いないけど、わかった!」と返した。
母は、花屋の2代目と目を合わせて「あなたが、凪の旦那さんだったら幸せになれるんだろうけどね~」と冗談で言ったつもりだった。
「ないないない!」と凪は、笑い飛ばした。
「お母さん。凪さんと、結婚させて下さい!」と、彼はその場で土下座した。
お母さんも凪も、びっくりしたそうだ。
彼は真剣な眼差しで、求婚してきたのだ。
どうやら、昔から好きだったそうだ。
「はははっ!」と凪は笑って「いいよ!」と即答した。
破天荒な凪は、花屋と結婚することになった。
誰よりも、凪の母が嬉しかったはずだ。息子のように小さい頃から可愛がってきた花屋の息子と娘が結婚するなんて。
自分が亡くなっても凪は幸せに暮らしていけるだろう。
悔いはなかった。
自分のように夫がいない辛い日々に光りを照らしてくれた凪と一緒なら・・・花屋も幸せだろう。
すぐに式の日取りが決まった。
それから2ヶ月半後。
あと半月で、式という日だった。私は一人で凪の母にお見舞いがてら会いに行った。そして今までの経緯を聞いた。
余命を宣告された人とは思えないほど元気だったが、抗がん剤の副作用で髪は抜け落ちたようだった。
凪の手作りニット帽を、かぶって凪の母親は笑いながら「二人は幸せだけど あんたは?」と言われた。
余計なお世話だ。
結婚式、前日
凪は私の家で、何やら考え事をしていた。私が声をかけた。
「どうしたよ?らしくないね。」と笑いながら言う。
凪はスーッと立ち上がり「決めた!」と言って家を出て行った。
結婚式 当日。
親族にあたる私は式に出る前の凪に会った。
とても綺麗だった。
髪がショートだった凪は、つけ毛か何かで髪が長くなっていた。髪が長い方がおしとやかだ。
「何、見てんだよ!」・・・口を開くな!
凪の母も医師に外出許可をもらって着物を着て結婚式に出席。
私の父が車椅子を押すことになっていた。
そして式は、教会から始まった。彼は先に神父の前に立ち、凪を待った。
ガタン
教会の扉が開き凪が見えた。
凪は、母親を車椅子に乗せて押しながら入場した。
凪の母も、ウェディングドレスを着ていた。
凪の母が成し遂げることが出来なかった結婚式。
凪と一緒にバージンロードを歩いた。
凪の母を含め凪以外の皆が泣いている。皆、凪の母が今まで一人で頑張ってきたのは知っていた。それなのに、娘を残したまま宣告された通り死ななければならない。
その悲しさもあった。
でも、やっと念願叶って形は違えど式を挙げれたことは凪の母も嬉しかっただろうし凪もまた母にウェディングドレスを見せることが出来て幸せだったと思う。
凪は笑顔だった。
そして誓いのキスは母を挟んで、凪は左から彼は右から二人の母にキスをした。
そのあとの披露宴は、無茶苦茶だった。凪の結婚式だからだろうけどカラオケ大会にビンゴゲーム、サプライズゲストは学校の恩師など とにかく充実していた。
そして式は終盤へと向かった。
凪から母への手紙。
~拝啓 お母さん~
21年間・・・色々あったね。お金がなくて高校に行きたくないって私が言った時「お金の問題じゃない!」って喧嘩したこともあった。
お母さんは、せめて周りの子達と同じようにさせたかったから言ったのかもしれないけど・・・違うんだよ?
お母さんと、いつも一緒にいたかったから、そばにいたいから高校行きたくなかったんだよ。
そんな私も結婚することができた。恋のキューピッドがまさかお母さんだとは思わなかった。
でも、薄々彼と結婚したら幸せになれる。そう思っていたの。
今まで、たくさんの愛で包んでくれてありがとうございました。そして、みんなには黙っていたけど私・・実は妊娠したの。
この子にも、母さんと同じくらいの愛を注いで強く生きていきます。
だから、孫の顔を見るまで頑張って!
ガンだからって何よ!私は、母さんに何一つ恩返ししてないの!先に死ぬなんて言わないでよ・・・」
凪は、その場に泣き崩れた。
それを見ていた、凪の母は車椅子で凪の前に行きマイクを拾った。
「皆さん、申し訳ありません。湿っぽい結婚式になってしまいましたね。」と、話しはじめました。
「この子には辛い思いをさせてきました。でも、周りの皆さんの支えもあり大きく成長してくれました。御列席の皆様、本当に有難うございます。
私も、恥ずかしながら結婚式を娘と一緒に挙げさせて頂いた上に孫ができるなんて夢にも思っていませんでした。」
笑顔だった。
「この子を残して、逝ったとしても悔いはありません・・・しかし孫の顔を見るまでは私もガンと闘います。こんな娘ですが、皆様よろしくお願いします。」
凪の母は、深々とニット帽の頭を下げた。
皆、涙を流しながら拍手した。
それを見ていた凪は、母にブーケを手渡した。
それから4ヶ月と18日後
凪の母親は皆に看取られながら亡くなった。
享年 51歳
早すぎる死。
孫の顔を見ることなく、先立った。
彼は相変わらず花屋の仕事に打ち込んでいた。
凪は、私の家から出て花屋の娘として嫁いだ。
凪 妊娠9ヶ月目のある日。
彼は、近くのホテルで挙式を挙げる予定の友人宅に招かれていた。どうやら挙式に必要な花やブーケを彼に頼みたかったらしい。
彼は、いくつかの花でサンプルのブーケを作ったり髪飾りの花などを箱に入れ持ってきた。
その中に、結婚式ではあまり使わない【キランソウ】とゆう花も持ってきた。
この花は新婦の髪飾りとして使う予定で小さいキランソウの花は紫の花で十二単(ジュウニヒトエ)の意味を持つ花なのだが・・・箱の中に入っていなかった。
「あれ?持ってきたはずなのにな・・・」
いくら探してもなかった。
すると、不思議なことに誰もいないはずの彼の後ろに誰かがいる気配がした。そして、
ポンポン
と、誰かに肩を叩かれた。
振り返るが誰もいない。
しかし、肩の上にキランソウの花びらが・・・
「なんか嫌な予感がする」と彼は一目散に家へ帰った。
家へ着くと、凪が階段下で気を失い倒れていた。
階段から転落したようだった。
「凪!!」彼は凪に近寄った。破水している・・・
すぐに救急車を呼んだ。
次の日。
2550グラム
凪は、元気な女の子を出産した。母子ともに健康だった。
私は、凪が退院したあとに出産祝いを持って花屋を訪れた。
「あのさ・・・早く彼女見つけろ!」と凪に笑われる。いつもの彼女だ。
お母さんが亡くなっても明るく振る舞う凪の背中は、以前と違い逞しかった。
「でもさ、本当に破水してる時はビックリしたよ~」と、彼は話しはじめた。
「実は誰かに肩を叩かれて、しかもキランソウが肩に乗っていたから・・・まさか!と、思って帰ったら凪が倒れていたんだよ。」
「母さんが教えてくれたんだよ!亡くなったのに手のかかる娘が倒れてますよ!ってさ・・・天国で思っているはずよ」と、笑いながら喋る。
「しかも、キランソウは十二単(ジュウニヒトエ)と言われているけど花言葉は違うんだよ。」彼が言う。
キランソウの花言葉
「あなたを待っています」
花が好きだった凪の母親が教えてくれたに違いない。
凪が母親に渡したブーケは特殊な加工をされ、仏壇に飾られていた。
「母さん・・・お父さんと結婚式を挙げて幸せにね。」
手を合わせ目を閉じる凪。
それを横で見つめる彼。
家族って、いいな。
完
怖い話投稿:ホラーテラー モルヒネさん
作者怖話