これは、私が高校時代の話。
修学旅行で、北海道へ行った。
三泊四日かけての、とても思い出深い旅行だった。
二日目の夜、泊まっていたホテルの一室での事。
同じ部屋の男四人で集まり、恋愛話で盛り上がっていた。
その中の一人、友人Aの話になった。
「お前って、恋愛絡みの話とか全然聞かないけど、好きな子とかいないの?」
一人が、Aに聞く。
Aは「うーん…」と唸ってばかりだ。
全く、いないらしい。
何だつまらないな、と話題を移そうとした時だった。
Aが口を開いた。
「そういえば、昼間にみんな集まって食事してた時……」
学年全員集まり、広い食堂で昼食をとっていた時。
Aは、今まで見たことのない女の子が一人いるのを見たのだという。
髪は短めで、肌は美白でスラリとしていて、とても美人だったと。
「俺は他のクラスの子とかあまり知らないんだけど、お前らは誰だか分かる?」
私も他の二人も揃って「分からない」と首を振った。
そんな子は今まで聞いた事もなかった。
かといって、その食堂で昼食をとっていたのは学校の人間以外にはいなかった。
「そんな子は知らないけど…でも本当なら、明日の朝食の時にも見れるだろう」
私がそう言うと、他の三人も頷いていた。
しかし、次の日の朝食の時にその子はどこにも居なかった。
「見間違えたんじゃないか?」
私は言ったが、「そんな筈はない」とAは頑なに言い張る。
「でも、実際そんな子いなかったし……」
結局、話はつかぬまま修学旅行は着々と進行していった…
それは、最終日の朝食の時だった。
「居たぞ、あの子だ…!」
席の後ろから、私の肩を叩いてAが小声で囁いてきた。
Aが指を差す方向を見ると、確かにその女の子は居た。
本当だったのか…と私は正直驚いた。
Aは黙ってその子を見ていたが、結局何もできず朝食は終わった。
「しかし、ホント美人だったよな」
Aは目を輝かせていた。
「修学旅行が終わったら、あの子に近づいてみようかな」
嬉しそうに、そんな事も言っていた。
楽しかった修学旅行もあっという間に終わり、いつも通りの学校生活へ。
あの後どうなったのかとAに聞いてみると、浮かない顔をしていた。
他のクラスの生徒・担任…
一通りあたってみても、そんな子は学校のどこにもいないのだという。
なんとなく感づいてはいたのだが、私にはAの肩をポンと叩いてなぐさめてやる他なかった。
「生まれて初めての、一目惚れだったのにな…」
実に不思議な体験として、Aの儚い恋は散って消えた…
旅行の時に見た美しい女の子の正体は、未だに分からない。
怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん
作者怖話