今から数年前の話。
その日、地元の村では盆踊りをやっていた。
私と同じ地元のAは、盆踊りの帰り道を1人歩いていた。
途中の小さな墓地を通った時、暗闇の中にポオッと光るものを見た。
それはユラユラと揺らめいていて、青白く墓石を照らしていた。
よくいう『火の玉』と表現するのが最も近いと思えた。
「その時は、何故そんな事をしたか分からないんだけど…」
その綺麗な光に魅入ってしまったように…
また、それにおびき寄せられるかのように自然と近づいていってしまったのだという。
目前にまでその火の玉が迫ったとき、手を伸ばし触れてみた。
見た目は火の玉ように見えるが、熱くはなかったという。
ほんわかとして温かみをおびているようで、その反面ひんやりと冷たいようにも感じる…
何ともいえない矛盾のあるような感覚だった。
手を触れていると、頭の中に見たことのない情景が入り込んでくる。
……冷たい空気に包まれた、ある一室の中にいた。
誰かは分からないが、嗚咽のような悲しいうめき声がかすかに響いてくる…
状況は良く分からなかったが、直観的に「寂しい」という風に感じたという。
そしてAはそれに対して、半ば同情に近い気持ちで「可哀想だな」と思ってしまった。
それが、いけなかった……
スウッと意識が強制的に抜かれていく感じがした。
そして次の瞬間、目に映る光景が走馬灯のように二転三転と目まぐるしく変わっていった。
ぐんと一瞬にして天を突き抜けて空に飛び出したかと思うと、その次には真っ暗闇の中に放り出されたようだった。
状況を飲み込めないが、「何かまずい」という事だけは直観的に分かった。
とめどない恐怖を覚え、頭の中で必死に家族の事を考えていたという。
自分がこの世でないどこかへ引きずり出されてしまうと思い、「家族と離れたくない」と必死で頭の中で願っていた…
すると、突然再び光景が移り変わりはじめた。
今までとは逆に、元へと戻されていくように。
気がついた時には、墓石の前で倒れていた。
火の玉は消えており、辺りはほのかな月明かりで照らされていた。
後で、祖父に聞かされたという。
お盆は多くの死者の魂が、この世へ帰ってくる日。
魂の中には、大切な人と再会を願うもの・世に恨みを持つものなど様々なものがいる…
恐らくAが触れた魂は、寂しく孤独なものだったのかもしれない、と。
ふと同情をしてしまった為に、連れ去られようとしていた。
しかし家族の事を考えるAを見て、ためらったのではないかと。
そして最後にこう言われたのだった。
「お盆には決して、知らない魂に無闇に近づいてはならないよ」と。
今ではその言い付けを守って、お盆の日には十分に気をつけているという。
怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん
作者怖話