今は大学に通っている兄は言う。
「あの父子、自縛霊というのとは少し違うかもしれないな」
?
「止まってるんだな、時間が。おそらく、自分の存在という自覚すらない」
??
「即死だからな2人とも。新聞によると運転していた母親も確か亡くなってる筈だ。ほぼ即死で」
「ほぼ即死?」
「そう、厳密に言えば即死じゃない」
???
「おそらく父親と子供は後ろの席で寝てたんだろう、まあ、想像だけどな」
・・・・・・・
「だが、母親は違う・・・突っ込んでくる巨大なダンプを見たんだ。迫ってくるダンプを・・・・目前に!さぞ怖かったろう」
・・・・・・・
「だけど、旦那も子供も気持ちよく寝ててそんな事知りもしない」
・・・・・・・
「母親には自分の死を覚悟した瞬間が確実にあった筈だ。(もう駄目だ!!)という瞬間が・・・・でも、後ろで寝てた2人は・・・・覚悟もないまま、死んだんだ。それこそ、(え?)という間もなく」
・・・・・・・
「彼女はその覚悟のお陰で自縛霊にならずに済んだ。だけど、皮肉な事にそのせいで、一番嘆き苦しまなきゃならなくなる」
???
「自分の死を覚悟の上死んだら、例え不慮の事故でもすぐに霊として生まれかわれるんだ。まあ、最初は生きてる事にかなり戸惑うだろうけど・・・・でも」
(でも?)
「後ろで寝ていた2人、例えて言えば、瞬間冷凍されたようなもんだからな」
(瞬間冷凍??)
「死んではいないが、脳味噌も凍ってるから思考力ゼロなんだな」
・・・・・・・
「あの父子の霊、並んで立ってた、って言ったけど、実は、並んで飛んでたんだ、宙に浮いてたしな。ただ、見た所どこにも怪我をした様子がないんだ。軽がペシャンコになるくらいの大事故だったのに」
「母親の霊は、どこ行ったんだ?旦那と子供がすぐそばにいるのに」
「意識すら無い存在に気付くもんか。母親が可哀想だったのは・・・・一度死んで目覚めた時、そこがまだ、自分の肉体の中だったってことだ」
?
「こうなると悲惨だ。彼女の霊体、死んだ時のまんまになるからな」
!!!
「お前には言わなかったけど、俺、実は一度見てるんだ。バスの中から、母親の姿・・・・」
「それはいいわ、聞きたくない」
「半狂乱になって今も必死で探しているだろう、主人と子供を。まあ、普通なら永久に見つからないよな、なんせ、探す相手は脳死状態で意識すら無いんだから」
「・・・・で、ファブ○ーズ登場ってわけか(笑)」
「俺、霊体を構成してる成分ってのが、たぶん、断言していいと思うんだけど・・・・本質的に、いい匂いを求めているんじゃないかって思うんだ。ちょうど植物が日光を求めるように」
・・・・・・・
「あの父親の霊、何年もびくともしなかったのに、反応したからな」
(ファブ○ーズにねえ・・・・)
「死んで何年も経つんだ。その間、いろいろな〈におい〉が彼の前を通過した筈なんだ。だけど、冷凍を解かすには至らなかった。止まった秒針を動かす事は出来なかったんだ」
・・・・・・・
「まあ、別にファブ○ーズじゃなくてもいいと思うんだけど、要は爽やかな、いい匂いなら何でもいいんだ。でもなあ・・・」
?
「俺、たぶんあの父親、地獄に叩き落としちゃったかもしんない。ありゃあ、いくらなんでも撒きすぎだ。消える寸前、狂ったように頭抱え込んでたからな」
(うへー!!!!)
怖い話投稿:ホラーテラー 双子の弟さん
作者怖話