これは友人のYくんが、唯一の霊的な体験として話してくれたエピソードです。
Yくんはお婆ちゃん子でした。
彼の家庭は複雑で、お母さんは離婚しては再婚を繰り返し
父親が3回代わっています。
住んでいる家は、母親の実家で一軒家です。
当時の家族構成
お婆ちゃん
お母さん
Yくん(中学生)
父親違いの妹(小学生)
父親違いの弟(赤ん坊)
お母さんは「母親」より「女」の自分を大切にする人だった様で
色んな男性を家に引っ張りこんでは、お婆ちゃんやYくんと揉めてたそうです。
更には母親の衣服や交際費で、彼の家は多額の借金を背負ってしまいました。
子供達のお母さん役をこなしていたのが、お婆ちゃんでした。
母親は夜から朝までスナックで働いていて、日中は寝ているからです。
Yくんはお婆ちゃんが大好きでした。
兄弟の面倒を見てくれる上に、僅かな年金の中からお小遣やお菓子、プレゼントも買ってくれます。
お婆ちゃんは自分の欲しいモノを一切買わずに、Yくん達に人並みの幸せを教えてくれました。
授業参観日もお婆ちゃん。
運動会もお婆ちゃん。
どんなに荒んだ状況の中でも、お婆ちゃんはYくんの家庭を支えていました。
ある日の事です。
当時、中学生だったYくんにお婆ちゃんが月に一度のお菓子を買ってきてくれました。
ずっと前からYくんが食べたいと言っていたチョコボールです。
しかし、チョコボールの種類は「キャラメル」でした。Yくんが食べたかったのは「ピーナッツ」だったのです。
彼は感情に任せて、間違えて買ってきたお婆ちゃんを酷く責めてしまいました。
お婆ちゃんは悲しそうに
「Yちゃん。ごめんねぇ」
と再びチョコボールを買いに行きました。
その後ろ姿を見ていたYくんも罪悪感を感じていたそうです。
(帰ってきたら謝ろう)
しかし
その道中…
お婆ちゃんは車に撥ねられ帰らぬ人となりました。
多額の保険金が入り、Yくんの家族は金銭的に困る事が無くなりました。
しかし、それにより母親の男遊びはエスカレートし、お婆ちゃんに支えられていた家庭は急速に崩壊していきます。
Yくんも自分自身を責め続ける日々でした。
そして荒んでいく家庭や罪悪感から目を背け、悪い仲間と遊び始めていきます。
それからYくんは荒れに荒れました。
喧嘩、タバコ、万引き、恐喝、傷害。
何度も警察のお世話になってしまいました。
毎回、母親が保護者として呼び出され、その度に母親は面倒臭そうにYを引き取りにきます。
警察もYくん母子に飽きれ果てていました。
しばらくして
Yくんは自殺ばかりを考える様になっていきます。
その時は、絶望しかなかったと彼は語りました。
Yくんが選んだ自殺は
お婆ちゃんと同じ場所で、走行する車に飛び込むという方法でした。
中学生の幼い彼は、運転手には迷惑でも、自分が死ぬ事で妹や弟に少しでもお金が残れば…
そして亡くなったお婆ちゃんに死んで詫びたい…そう考えていたのです。
彼は高速で走るRV車の前に飛び込みました。
パパーン
キィー
ドン
救急車のサイレンが近づいてきます…
担架で手術室に運ばれる途中の朦朧とした意識の中…
誰かが自分の手を握ってくれている事に気がつきました。
…暖かい…
「Yちゃんごめんね。お婆ちゃん、近くにいてあげられなくて…」
「もう大丈夫だからね…」
それは紛れも無く
亡くなったお婆ちゃんの声と手の温もりでした。
Yは涙を流し、意識を失いました。
目が覚めると、病室のベッドの上でした。
大手術の後、生死の境を三日間さ迷いながらも、Yくんは生還しました。
あれだけの事故で、助かったどころか、後遺症も残らなかったのは奇跡だと医師は言いました。
病室で目を覚ましたYくんは看護婦さんに尋ねました。
Y「あの…誰か見舞いに来ました?」
看護婦「いいえ…どなたも来てません。この部屋は面会謝絶ですよ」
Y「そうですか…」
Yくんは泣いていました…
ベッドの中…
Yくんの手にそえられた「ピーナッツ」のチョコボールを握り締めながら…
お婆ちゃん…
ありがとう…
その後、退院したYくんは、お婆ちゃんの代わりとして立派に妹と弟の世話をしました。
Yくん自身もちゃんと更正し、今は幸せな家庭を築いています。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
怖い話投稿:ホラーテラー 天気さん
作者怖話