「その女を間近にした時、本能的に(やばい!)って感じたんだ。案の定ってやつさ」
「やばいってどんな感じなん?」
「何か、引きずり込まれるって感じかな。死にたいって思いが半端じゃないんだ」
・・・・・・・
「無限に深い穴が目の前に大きく開いてて、その女が今にも飛び込みそうな、そんな感じ」
・・・・・・・
「下手に助けようと手を伸ばしたら、その手を掴まれて一緒にあの世行き、みたいな」
(こわ~)
「俺は恐怖心も手伝ってあの父親の時以上に、もう、バンバン掛けたんだ。女の背中に向けて」
!
「だけどその女、なかなか振り向かないんだ。(あれ??効かないのか?この女には・・・)と思ってたら突然!ガッって感じで振り向いたんだけど、その瞬間金縛りさ。金縛りっていうより、物凄い力ではがいじめにされてるって感じかな」
!!!
「その女頭から割れてたんだ。両目があり得ない方向に向いてたな。俺まじ、卒倒しそうだったわ」
「わー!もういいわ!聞きたくない!!」
「人が死んで霊として生まれ変わる時、個人差はあるけど、少し間が開くんだ」
?
「霊として目覚めた瞬間がまだ肉体の中なら、列車への飛び込み自殺ほど凄まじいものはないよな」
「もう、ええって!」
「でも大抵、覚悟の自殺ってのは死ぬ前に魂が肉体から離れることが多いんだ。まあ、本能が咄嗟に危険を察知して幽体離脱するんだろうって勝手に思ってるんだけど」
・・・・・・・
「だから、自殺者の霊って意外と生前のまま、傷一つ付いてないことが多いんだけど・・・」
・・・・・・・
「その女、ただものじゃなかったんだ。頭と車両が接触した瞬間死んで、頭が割れた時にはもう幽霊になってる!凄いよな」
「何が凄いんだか分かんねーよ!その、気色悪い解説、もういいから!!」
「いや、俺の言いたいのは、その女、列車にぶち当たることに全く恐怖を感じてないってことなんだ。たぶん、両目をしっかり開けたまま、ぶつかる瞬間まで鉄の塊をじっと見てる」
!!!
「その時点で俺の敗北だわ。実際、そこまで意志の強い自殺霊がいるなんて小6のガキに分りっこねえもんな」
(まじかよ・・・・)
「どこ見てるのか分からない目なのに視線が凄いんだ。女が迫って来て、憑かれた!と思った瞬間、俺ははっきりと〈死〉を意識したな」
!
「まさに突然だったよ」
?
「カーン!カーン!カーン!カーン!て踏切の信号が鳴り出したんだ」
!!!
「やばい!と思っても身体がびくともしない」
(わー!)
「その時!心の底から吹きあがってきたんだ!死にたい!死にたい!死にたい!死にたい!死にたい!死にたいー!!って感情がな」
!!!
「プワーン!!鼓膜が破裂する!ってくらいの警笛が大音量で耳に入って来たよ。でも」
?
「その時はもう怖くないんだ。死にたい!死にたい!死にたい!死にたいー!!!ひたすら大声で叫び続けてたような気がする」
!
「俺は躊躇なく列車の前に飛び出した。すごく眩しかったよ」
!!!
「キャー!!だったか、ギャーだったか・・・俺は女の人の声で叩き起こされたんだ」
?
「線路の上で寝てたんだよ。俺は何故か一瞬にして自分の状況を理解できた。警察に通報されたらまずい!立ちあがって自転車の所に行き、ひたすら家を目指したんだ。(お前が心配してるかも・・・)て考えたのを覚えてるよ」
・・・・・・・
「女の記憶をそのまま見たんだな、あれは。恐ろしくリアルだった」
・・・・・・・
「でもチャリンコこいでる時、胸の中で、死にたい!死にたい!って声がした時は愕然としたな」
!
「もう終わった、って思ってたからな」
・・・・・・・
「家に着いた時は頭がガンガンして狂いそうだった。気が付いたら病院のベッドの上。まじで一瞬、あれは夢だったのかと思ったよ」
「朝5時に帰って来た時の兄貴の顔、写真撮っときゃ良かったわ」
「だけど俺、普通の病気じゃないって分ってるだろ。あいかわらず〈死にたい〉って声、聞こえてたしな。治りっこねえ、と思ってたんだけどな」
「治ったな」
「それが・・・・今だから話すけど、胸の中の声、〈死にたい〉だったのが、3日目あたりから〈悔しい〉になり、5日目くらいで〈殺す〉にかわったんだよな」
(まじ!?)
「あの女、飛び降り自殺の男と同じで〈死ぬこと〉しか考えてなかった・・・・他のことは記憶にない位思い詰めてた筈なのに」
?
「正直に言うわ、あの女、実は女子学生で、いじめが原因で自殺したんだ」
!!
「俺、その時まだガキだったから憑いてる女の思いがいまいち良く理解できなかったんだが、今なら分る」
?
「〈死ぬことが全て〉の彼女の記憶に、俺が介入したことで〈何故死ななきゃならなくなったのか〉という記憶が足されたんじゃないかってね」
!
「女の声が〈殺す〉にかわった時、急に体調が良くなったもんな」
!!
「相手の人たぶん、もう生きちゃいないな」
!!!
怖い話投稿:ホラーテラー 双子の弟さん
作者怖話