はじめまして、実体験のお話をします。
二年前の冬の日の出来事です。
当時トラックドライバーをしていた俺は、長距離便も終わり、自宅のある福島県へ向かっていました。
路面が凍結した山道をひたすら走り、家まではあと一時間程で到着。
眠い…。
無性に眠い。
明日は休みだし、少し寝ていくか…。
山間に架かる橋、この橋を渡った先に駐車場がある、ウトウトしながら橋を渡り、駐車場へ頭から入る。
駐車場には乗り捨てられた車の残骸と、今はもう営業していない、廃墟と化した定食屋。正に心霊スポットな雰囲気だ。街灯の淡い光が余計に恐怖を煽る。
ありあまる眠気でそんな事は気にならなかった、ただ眠い。
トラックのパーキングブレーキを引き、室内カーテンを閉める、ベッドスペースに身体を倒し、目をつむった。
トラックのエンジン音が段々遠のいていく、眠りに落ちる瞬間はいつもこうだ。
体感では30分、そんな感じだ。ふいに目が覚めた。
あれ?
エンジンが止まってる?
異様な程静かだ。
寒い、室内の温度はかなり外気温に近い。カーテンの隙間から街灯の光が少しもれている。
「………か……り…」
!!
声がした、ちょうどベッドの窓のすぐ隣、口を窓にくっつけているような感じだ、誰かのいたずら?肝試しに来た誰かか…。
心拍数が跳ね上がる。
ベッド窓まで人間の身長では届くはずがない!ありえない。
「…か…え…」
声がまた聞こえる、恐らく外にいるのは生きている者ではない。
身体が震え、気温はまた下がる。震えのせいで声が出そうになった、手で口を力一杯押さえ付ける。
「か…た…」
まただ、何度も何度も…、
繰り越してる?
同じ声、同じ言葉を言っている。
同じ言葉を繰り返している?
ふと頭の中で希望が湧き上がる、幽霊の願いを聞いてやれば助かる!!
その時は、そんなありがちな話しか浮かばなかった、恐怖から冷静にはなれなかった。
耳を澄ます。
「か……ぇ…」
「あか……け」
帰りたい、とか最初はそう思っていた。
え…違うのかよ?
それで遺体とか見つけて、なんか感動の終了じゃ?
そんな馬鹿な事を考えていた、事実そうなる事を望んでいた気がする。
「あかを…せ…ぇ」
え?聞こえたというか、聞き返してしまった。次の瞬間、怒号が響いた。
「あかりをけせぇぇ!」
「明かりを消せえぇ」!
まさか、ヘッドライトがつきっぱなしで…、いやそれはない。
エンジンがついていないとライトは点かない。
街灯か?
それ以外に明かりはない。
わからん!半ばヤケクソになった俺は思い切ってカーテンに手をかけた。
何かが動いている、カーテンはダメだ、そんな気がしてエンジンをかけようとする、鍵を回してデコンプレバーを操作する。
グオン…グオン…。
余熱が上がっていないのでかかりが悪い、声はまだ聞こえる。もう頭の中に響いてるようだ…。
グオングオングオオン!!
かかった!!
パーキングブレーキを解除する。
ブシュオォ〜!
エアが抜け、静寂は掻き消された、ギアを入れ走り出す、カーテンはまだ閉まったままだ。
バン!
窓になにかがへばり付いた…。
俺はカーテンを開けた、エンジンもかかっている、逃げれる、その自信が行動させた。
カーテンを開け、窓の外側にいたもの、それは人のような、似て非なる者。
身体は折れ曲がり、手足もあさっての方向を向いている、目だけは俺を凝視している。
俺はアクセルを吹かし、駐車場から脱出した、道路に出ると、そいつらは透けて消えてしまった。
最寄のコンビニへ逃げ込み、まだ夜中の2時にもかかわらず実家に電話をする。
親父が眠そうに電話に出たが、状況を説明すると親父の口調が変わった。
親父「そいつは、吾多落(あだら)だ!そんなあぶねぇ場所で寝るなんて馬鹿でねぇが!すぐさ帰ってこ」
吾多落、聞いた事がない、一体何物だ?
考えながら家に戻る。
親父は早く帰ってこいと言った癖に家で二度寝をしていた、息子のピンチになんて親父だ…。
親父を叩き起こし、あれは一体何なのかを聞いた。
曰く、あの橋は地元の人間なら誰もが知っている程の自殺の名所で、雑誌にも載る程の心霊スポットである。それは、俺も知っている。
あくまで、心霊スポット。表向きはこうだが、裏は全然違う、自殺スポットも事実だが、本当は違う。
昔、この地域では橋がなく、食料不足になっても助ける事が困難になり。
橋が出来るまでの間、口減らしが行われていた、「明かりを消せ」と言うのは、口減らしは地域共同で行われていたらしく、川へ子供や老人を沈める決まりがあったらしい。
明かりを消し、口減らしを免れる…見つかってしまうとみせしめとして家族全員が地域の口減らしとされてしまう。
その時沈められた者達の無念が生んだのが吾多落というらしい。
帰ってこれた者はそれ以降、とり憑かれる事はないが、帰って来ない者は自殺者となってしまう。
俺が親父から聞いたのはここまで。
福島県の蓬莱橋、スポットとしてはとても有名ですが、ヤバイです。
今もまだ吾多落が口減らしを繰り返している…。
終わり
怖い話投稿:ホラーテラー レゾナさん
作者怖話