先程はすみませんでした。とにかく、話しは最後まで書こうと思います。
これで最後なので、もう少しだけ 俺の話しに付き合ってもらえたら嬉しいです。
俺達が抱き合って泣いていると、どこからかしゃがれた声で
「何を泣いてるんかぁ?男っこが。
あんまり泣くと、トンビにさらわれるぞ〜。いいんかい?」
と聞こえてきた。
え…?と、俺達が顔を上げると、近くの石にお爺さんが 背中を向けて座っていた。
服はボロボロで、髪はぽやっとしか生えていなかった。
人がいたなんて、全然気づかなかった…。
俺達は泣いていた事も忘れて、お爺さんを見つめていた。
「あのなぁ、あんまり泣くと 皆が悲しくなるでなぁ?」
そう言いながら、お爺さんが不意に俺達の方に向き直った。
次の瞬間、俺達はがたがたと震え、弟は「に、兄ちゃん!兄ちゃん!!」と、痛いくらいにしがみついてきた。
俺も上手く呼吸が出来ないくらい パニクっていた。
霊的に怖かったんじゃない…。
お爺さんの、あまりに異様な風貌に恐怖したのだった。
単眼と言うのだろうか?
お爺さんは、眉間の辺りに大きな目が 一つしかなかった。
「そんなに怖がらんでええよぅ。
誰も取って食うわけじゃないでな?
泣いてるより、笑っている方が楽しかろ。」
そう言ってお爺さんは、ニッコリと笑った。
俺達は何故か、その笑顔を見た時 気味悪いとは思わず、ホッとした。
そしてまた、泣けてきてしまった。
お爺さんは、こっちにおいでと手招きし、おずおずと近寄った俺達の頭を、体に似合わない大きな手でわしわしと撫でて
「……可哀相にの。大きすぎる力は 不幸を呼ぶ。」
と言った。そして、
「お前さんは大丈夫じゃな。問題はこっちだのぅ。
見る事も、聞く事も、感じる事もできぬ者には 悪さもできんもんじゃよぅ。」
そう言うと、弟の眉間をコツンと指でつっついたのだ。キョトンとしている竜を見て、お爺さんはうんうん、と頷くと 立ち上がり チリンチリンと鈴の音をさせながら 立ち去って行った。
その夜、竜は泣かなかった。次の晩も、その次の晩も、竜が泣く事はなかった。
母が、竜も泣かなくなったし 久しぶりに皆で寝ようか?と言ってきた。
だからその日は両親の寝室で、俺 父 竜 母の順で 並んで寝る事になった。
夜中にフーフーと獣のような声?に起こされ目を覚ますと、女が竜に馬乗りになり 狂ったように引っ掻いていた。
驚いて竜を見ると、何事もないように すやすやと眠っている。
俺はそれを見てたら、なんだかおかしくて笑いが込み上げてきてしまった。
あいつはもう、弟に手は出せないんだ!
それどころか 存在さえ気づいてもらえないんだ。
俺に気づいた女は、悔しそうに歯を剥き出し ギチギチと歯ぎしりした。
しかしじきに 消えていなくなってしまった。
それから二度と、女が現れる事はなかった。
あのお爺さんに会ってから弟は、霊感が9点どころかマイナスになってしまったようで、全く感じる事はなくなってしまった。
普通の人でもここは…と敬遠するような場所でも、全然平気なのだ。
見る事も、聞く事も、感じる事もできない人には悪さができない…。
これは本当だった。
不思議な事に、竜はあのお爺さんの事も 今は覚えていない。
あのお爺さんは 何者だったのだろうか?
俺は今だに、その正体をわからないでいる。
怖い話投稿:ホラーテラー 雀さん
作者怖話