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中編6
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キミヲオモフ

青森の曾祖母の話「もうやめて」を書いた者です。今回は数年後の曾祖母に関わる番外編を書きます。

曾祖母な亡くなってから俺には直の親戚が青森に居ない為、中々行く機会がなかったのですが、祖母が久しぶりに帰るとの事で俺が付き添いと言うか…荷物持ちで一緒に行く事になりました。

これは俺が中3の、向日葵と背比べしているそれはそれは暑い真夏の話です。

何時間かかっただろうか。青森駅はかんかん照り。あの歌の真逆の季節を肌で感じ、電車の中の話声がまったく理解出来なくなった頃には目的地。津軽五所川原。

あー…こんなだったなぁ。頭の中で呟きつつ、汗だくになりながら久しぶりの曾祖母の家。迎えてくれたのは祖母の妹とその孫娘でした。俺の一つ上で高校生。色白で黒髪ロング、今で言う新垣結衣似。てか写真見てもそっくり。

津軽弁なので会話は訳で書きますね。

お婆『あら、よく来たね〜こんな遠いとこまで!こんな大きくなって。ゆっくりしていきなさいね。』

お婆さんがそう言うと奥からひょこっと出てきた結衣。

結『あーっ!〇〇君!?久しぶりだね!結衣だよ、へへへ。』

俺がキョトンとしてると祖母が背中をドンッと叩く。

俺『あ、ああ!久しぶり?だね!良く俺ってわかったね。』

「あの時」にも居たらしいが、俺はまったく覚えていなかった。例の座布団部屋で仲良く遊んでたらしい。今回はお婆さんから俺が来ると聞いて楽しみにしてたらしく、祖母と俺が居る間は曾祖母の家に一緒に泊まるんだって。俺が若者一人じゃつまらないだろうってお婆さん。話を聞いた結衣が立候補。田舎のガイド役。願ってもない。

若者二人で荷物を例の二階に運ぶ。ふと思い出し電気の紐をひいてみた。パチンッ…チカチカチカッ。『点いたね』と俺。『当たり前だし』と荷物をまとめながら背中で言う。

俺『あ、あのごめん。正直俺…結衣ちゃんの事覚えてなかったんだ。あの時子供もいっぱい居たしさ。さっきも言ったけど良く俺の事覚えてたね?』

結衣は無言で荷物もまとめながら、俺が《やべ、怒ったかも…》と思いはじめた微妙な間で口をひらいた。

結『…覚えてるに決ってるでしょ。だってあの時…』

俺『あの時ってあの騒動?』

結『違うよ。あの時二人で…。はぁ…。』とため息をついて『もういいよ。とにかく覚えてるの!早く下降りよう。キミも疲れてるでしょ。なんか飲めば?』

呼び方が〇〇君から《キミ》に変わったのは怒ったからなのか?でも嫌な気分じゃなかった。だって新鮮じゃない?女の子から《キミ》って。ドラマみたいで。

結衣の後を追って下に。すぐに降りてきたつもりだけど既にスイカが切ってある。それと氷が沢山入った麦茶。やけに溜まったコップの下の水滴を指でいじりながら、俺はこれが今年の夏が暑いからなのか…それとも二階での一時が[時間が経っていたのに楽しくてあっという間に感じて]そうなったのか考えてみた。

答えはどっちでも良かった。だって俺は暑い夏も大好きだし、かわいい子はもっと好きだ。

四人で懐かしい祖母達の昔話や、神奈川や青森の話を交換しながら初日の日は暮れていった。

晩飯は初日ともあってお婆さんお手製田舎料理。献立はあんまり覚えてない。ただ、ねぶた漬けだけは糞美味かったのは記憶にある。男の子は米に合うものは大好きっすから。

食後に片手も映らないテレビのチャンネルに苦笑いしながらくつろいでいると、洗い物を終えた結衣が誘ってきた。

結『ねえキミ、アイスでも買いに行かない?』

俺『ん?別に良いよ。でも近くにコンビニとかあったっけか?』

結『コンビニぃ!?んな物ないわよ。近くに商店があるの。近くに。』

俺『はは…商店ね。良いよ行こうか。ちなみに近くってどのくらい?』

結『30分くらいかな?』

俺『ふーん、[近い]ね』

[近く]って言うのと、また[キミ]って呼んでたのが少し腑に落ちなかったが、これ以上言うと怒られそうなので黙って支度した。

暗くなって家を出たらビックリした。上には超パノラマの満天の星空。そして家の前に小さな小川があるんだけど、そこに沢山の蛍が光っていたんだ。俺は側に駆け寄りしゃがみこんだ。

俺『ちょ…何これ!?』

結『何って蛍じゃない』

俺『んな事は知ってるわ!いやー初めてみたよ。こんな沢山でこんなに綺麗なの…。』

そう言って結衣を見上げると、結衣は手のひらに一匹蛍を乗せていた。蛍の淡い光越しの結衣が俺には何故だかラピュタのシータに見えた。蛍が飛行石。目の前の光景がこの頃の俺にはあまりにも幻想的すぎて、光る結衣の左手に俺の右手を重ねれば、本気で空が飛べるんじゃないかと思った。この星空に。見上げれば満天の。

物思いにふける俺を尻目に、『とっとと行こうよ』の結衣の一言で、現実にすとーんと落とされた。仕方ないか。結衣にはごく普通の光景なんだもの。『ごめん』とだけ返し後に追う。だけど先を歩く結衣の背中に手を伸ばし《シーターァー!》と口パクで言ってみた。最後の抵抗。もちろん振り向きもしなかった。

結『あの時も蛍見て喜んでたよね(笑)変わってないなぁ〜。』

俺『え?俺見てんのあの蛍?ごめん覚えてないや。』

結『ほんと何も覚えてないんだね…ったく。』

俺『ごめん。何せあの出来事が強烈でさ…』

結『そっか。てゆうかすぐに謝るところも変わってない。堂々としなよ男でしょう?』

俺『ごめん。』

結『ほらまた!』

俺『いやわざとだし(笑)』

結『………ガキ。』

これで結衣が怒ったのかは確認出来なかった。だって街灯が少なくてさ。まぁ俺には幸いかな。女の怒り顔は苦手だ。田舎で良かった。

そうこうしているうちに商店に到着。うん[近かった]よ。俺はガリガリ君のコーラ味。夏はこれ一筋。結衣は透明のフタに入ってるソフトクリーム。ソフトなのにカタいあのソフトクリーム。俺が一番嫌いなやつ。味がじゃなくてスタイルと名詞が。

店のおばちゃんが『あら結衣ちゃん彼氏!?素敵な子じゃない!』

結『違うし!』これは早かった。マジで。『てゆうかこんな男の子見た事ないでしょ。狭い田舎なんだから。親戚なの。し〜ん〜せ〜き!』

俺が標準語で挨拶するとおばちゃんはビックリしたのか、つられて慣れてない標準語を使い変な喋りになってしまった。三人で大笑い。良いね、こういうのって。

面白いおばちゃんの商店をあとにして来た道を戻る。

俺『あはは、面白いおばちゃんだったね。』

結『でしょう(笑)貴子おばちゃんって言うの。私の親戚だよ。………!。げっ!て事はキミとも親戚だった!』

俺『おいおい、今更かよ!先に気付けよ!もっとしっかり挨拶しときゃ良かったよ…。』

結『ごめんごめん(笑)悪気はないんだ。親戚って言ったのに貴子おばちゃんも気付かなかったしね。まぁ良いじゃないか。』

そう言うと肩をパシパシ叩いてきた。初めてのスキンシップ。少しドキッとした。

しばらく歩いた。

俺『あのー、こんな事言うのもなんだけどさ…。』

結『ん〜何?』

俺『家につく前にアイス絶対溶けるでしょ!?』

結『!?』

結衣は慌てて袋からアイスを出して確認。

結『セ、セーフ!セーフ!溶けてちょうど良い感じ♪今食べちゃおう。うん、そうしよう。はい、キミのガリガリさん。』

俺『!?』受け取った。案の定嫌な感触がした。『ダメじゃん俺の!しかも君だから。さんじゃないし!』

袋を開けて棒を引っ張ったらスルッと棒だけ抜けてしまった。

結『あら残念。けど勿体ないからちゃんと食べなさいよ!カチワリさん(笑)』

俺『何がカチワリだよ…。だから君だよ君。ただの坊主のガキだろうが。』

いつもは親の車だから溶けないと結衣は言った。そりゃそうだ。しっかりしているのか、はたまたおっちょこちょいなのか…。

思いだせば人生で一番[熱い]夏はこうやって始まった。そして二人は忘れもしない、悲しくて切ない不思議な体験をしたんだ。

まぁ…ありきたりなんだけど、そんな事が俺達に起こるなんてこの時は知るよしもなかったよ。

何故かって?

だってガリガリ君の棒には[あたり]って書いてあったんだ。

続く

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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