Bさんは一人暮らしを始めてから、空腹時にはチーズの粉末を食べて気を紛らわせていた。
スパゲティを食べるときに振りかけるパルメザンチーズだ。容器から直接、口に向かって振りかけて食べるのがBさんの食べ方だった。
「夏の終わり、大学のサークル仲間と旅行に出かけたときに、肝試しをすることになったんだ」
Bさん一行が泊まった旅館は海に面し、逆側には小さな鳥居のある山があった。
肝試しは、昼間のうちにその鳥居の中に線香花火を置いておき、夜に二人一組でそれを取りに行く、というものだった。
そして、そのときに憑かれたのだという。
「鳥居まで登る途中で、何か踏んだんだ。足元を確かめたけど何も無くて、でも氷水に足を突っ込んだみたいな感じだった」
旅行から帰ってから、自分の体が異様に生臭く感じた。友人は全く臭わないと言ったが、いくらシャワーを浴びてもBさんはその生臭さに悩まされた。
いざ寝ようとしてベッドに横になると、何かがうごめくような、呟くような音が聞こえた。
「なるべく誰かと一緒にいるようにしたさ。さすがに怖かったからね。その日も、友達と夜遅くまで飲んで帰ったんだ」
ほろ酔い気分でアパートに帰ってきて、チーズをひと振り口に含んだときだった。Bさんは、チーズと間違えて味塩の小瓶を掴んでいた。
「一気に酔いが冷めたようだったよ。舌の上いっぱいに塩が乗ったんだから」
普通なら吐いてしまうだろうが、酔っていて正しい判断ができなかったのだろう。塩を吐き出さず、そのまま何杯も水を飲んだ。
その夜、Bさんは不思議な夢を見た。
体から赤い蛇が出て行く夢だった。Bさんの腹の上でしばらくウネウネしたあと、窓から外に出て行った。
翌日、Bさんの身体から生臭さが消えていた。寝るときに聞こえていた音も、それ以来無くなった。
「きっとあの蛇が憑いてたヤツだったんだろうな。」
今では、Bさんは旅行から帰ったときは塩を撒くようにしている。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話