十数年振りに小学生のときの同級生4人と集まり、昔話に花を咲かせながら飲んでいたときのことです。
本当に久しぶりの面子で集まって、色々思いをはせているとある思い出がよみがえり、私は『そういえば俺たち、一度だけ一緒に不思議な体験したことがあったよなあ?』と切り出しました。
それまでほとんどそのことを忘れていて、少しずつおぼろげな記憶を辿り、4人でああだった、こうだったと話した昔話を忘れないうちに投稿したいと思います。
なにぶん十何年も前のことですので、多少の記憶の違いはあるかもしれませんし、会話はなんとなくそんな内容だった、という感じですが4人で話すうちにだいたい思い出しました。
どうしてすっかり忘れていたかは分かりませんが…。
それは私たちが小学6年生の初夏、そろそろ夏休みが始まるという頃の体験です。
4人の名前は私がヒロシ(ヒロ)、他にお調子者のタツヤ、リュウジ、ちょっと気の弱いリョウイチ(リョウ)です。
皆さん経験があると思うのですが、時々学校で消防や警察の方が来て、体育館で交通安全や消防活動について全校集会みたいなことがあったでしょう?
私たちの通っていた小学校では、たまに道徳の時間に近くのお寺の住職が来て、全校生徒の前で道徳について昔話を聞かせながら説教するようなことがありました。
またその坊さんが豪快で元気な感じの方で、近隣の住民も皆知っていて仲良くしている愉快な坊さんだったんです。寺の宗派は良くわかりません。
もちろん私たちもお寺によく学校帰りに寄ってはその坊さんに学校であったことを話したり、寺にいる若いお兄さん(住職の息子さんと修行僧?の二人)とも仲良く遊んでもらったりしていました。
あるときその豪快な住職が、私たち4人に『一回寺に泊まりに来るか?面白い話も聞かせちゃるが!』と言ってくれました。
お寺に泊まるなんて冒険のように思っていた私たちはすぐ親に了解を貰いに行き、その寺なら大丈夫、ということでお寺に一泊しに行くことになりました。住職も、各家庭にちゃんと電話を入れてくれました。
その日は土曜日で、学校がお昼に終わった後各々まず自宅に帰り、お泊りセットを持ってたしか3時頃にお寺に行ったと記憶しています。
日が出ているうちは、本堂でお寺にあるいろいろな道具の由来(爪みたいなのがついてる鈴がかっこよかった記憶があります)や仏様の話を聞いたり、座禅のようなことを体験したりして過ごし、晩ご飯を食べた後を皆で片付けしあっという間に寝る時間になりました。小学生だったからか、お寺だったからかは分かりませんが結構早い時間だった気がします。
寝る場所は寺の離れのようなところでした。
縁側と障子があり、障子を開けると和室というよくある感じです。
その離れの隣の建物に住職が住んでいました。
ただ小学生4人が集まって外泊すればすぐに寝るはずもなく、しばらくクラスのどの子がカワイイとか、夏休みになったらどこそこのの林に仕掛けをつくってカブトムシを取りに行こうとかで盛り上がっていました。
あんまり騒いだせいか、住職がやってきて『おいおい、いい加減に寝んと寺の朝は早いんじゃけん、起きれんぞぉ?はよう寝れや~』とちょっと怒られてしまい、さすがに眠ることにしました。
4人は頭を向かい合わせにして2列に布団を敷いていて、私は縁側からすると奥側の一方に縁側には背を向けて寝ていましたが、ある物音で目が覚めました。
部屋の前の縁側を誰かがパタパタ歩いている足音です。
2、3人の足音だったと思います。
私は誰かが懲りずにふざけているんだと思い無視していたんですが、パタパタと何度か往復するのでだんだん腹が立ち、『おめぇら、せからしいが!おっちゃん明日早いて言いよったし、もう寝れぇや!』と言うとパタッと足音が止みました。
ちなみに『せからしい』というのは私の田舎の方言で、うるさいとか、イラつくとかの感情を一まとめにしたような便利な言葉です。
そしてまたうつら、うつらしているとパタパタ…と足音がします。
マジでむかつく…と思い『おい~、うるさいて!』と言うとまたパタリと静かになります。
3回くらい、繰り返したと思いますが、しばらくして『ん?』と思いました。
障子が開かないんですよ。誰かが縁側でふざけていたら、障子を開けて入ってくるじゃないですか?静かにはなるんですけど、障子が開いた感じは全くしなかったんです。
すると、私の隣、縁側の方に寝ていたタツヤが『おい、ヒロ、誰か外歩きよるけど…誰じゃろか?お前起きとるやろ?』と言ってきました。
私は縁側に背を向けっぱなしだったのでタツヤがいるとは思わず、『あれ、お前じゃないん?』と言って顔を上げ目を凝らすと、他の2人とも自分の布団にいるんですよね。
もう一方の障子側に寝ていたリュウジも起きてきて、『トイレ行くなら静かに行けや…うるさいやん、タツヤ、お前やろ?ヒロも一人で切れてうるさいで。』と言います。
アレッ?と思ってリョウを見ると全然起きてこないので、電気を付けて『リョウ、ちょっと起きい。』と呼ぶとリョウは一人ですごく震えていました。
どうした、と3人で聞くと
『お前ら、足音聞こえとったやろ?ヒロ、お前切れてたやん…俺最初タツヤとリュウジがふざけよると思とったんやけど、よう見たら二人とも寝とったし、足音するのに人が通る感じがせんのよ!むっちゃ怖くなって、皆に声もようかけんかったわ…』と半泣き。
『多分、にいちゃん達やないかな?びびらせよう思ったとか?』と言うと
『そうやね、何か目も覚めたしおっちゃんに言おうや!』と見解一致で皆で住職のところに行くことにしました。
住職はまだ起きていて、私達がそろって行くとちょっと驚いたような顔をして、
『ん?どうした?』
『あんねえ、おっちゃん、兄ちゃんらがいたずらしてな、縁側で足音がうるさいんよ。寝れんし明日早い言うたのおっちゃんやんかあ。』
『…ほうか、悪いなあ、あいつらには怒っとくから、勘弁してや。それやったら、ここで寝るか?ここやったらいたずらされんよ。』
『ほらな、やっぱ兄ちゃんらやん?』
『びびったなあ~お寺の夜怖いよなあ!』
などと言いながら、各自布団を離れから住職の部屋に無理やり持ち込み、狭かったんですがそこで眠りました。足音はそれからはしませんでした。
次の日の朝、朝ごはんの前に掃除を皆でしたんですが、そのときお兄さんら2人に
『昨日の夜びびったわ!兄ちゃんやめてや~、リョウなんか半泣きやったよ!』と言うと
『はは、悪かったなあ、今度来たときは夏やし怖い話聞かせちゃるわ!』と笑っていました。
それから帰る準備をしていると、4人とも本堂に呼ばれ、住職に『せっかく来たから、お土産やるわ!カッコいいやろ!』と、各自1枚ずつお札を配られました。
お札の文字は、皆同じでした。
スゲー、本物やなあ、などと興奮していると
『あ、けどなあ、うちあんまりお金ある寺じゃないんよ。1週間くらいはそのお札貸してやるから、そしたら学校帰りにでも寺に返しに来てくれや~。』
『なんやそれ、おっちゃんお土産じゃないやん!ケチくさ~』
『まあまあ。1週間はずっと持っとけよ!ランドセルに入れて寺宣伝しとけや!けど返しにこいよ!』
と念を押されたので、それから皆学校で本物やぜ~、と言いながら自慢したりして過ごし、1週間経ってから学校帰りに揃って返しに行きました。
返しに行くと、本堂に上がらされ
『おぉ、よう来たね。元気にしちょったか?とりあえずお札出しなさい。』
と言われ各々お札を返すと全員ばんばん、と背中や肩をたたかれ、
『ついでにカッコいいお経聞いていけや!』としばらくお経を聞かされました。
読経はお兄さん二人も混ざって居ましたが、終わると住職は
『普段は変なおっちゃんやと思ってるかも知れんけど、カッコよかったやろ?また色んな話聞かせてやるから遊びにおいで。』
お兄さん二人には、
『手間取らせて悪かったな。またおいでや!』
と言われ、そのまま普通に帰りました。
その後も何度かお寺には遊びに行きましたが、特にどうということもなく、中学、高校と進学するにつれお寺にも行かなくなり、そんな経験は4人集まって昔話をするまでは、ほとんど忘れていたわけです。
皆で『ああ、そんな感じだったなあ、楽しかったけど不思議やったよなあ。』と笑っているとタツヤが、
『けど今思えば、お札渡されて、背中たたかれてお経読んでって…お祓いっぽいよなあ。もしかしてアレって兄さんたちのいたずらじゃなくて、ホントにナニかだったのかも知れんなあ。その後もよく声かけてくれたしなあ。』
『足音もパタパタした、軽い感じだったように思うけどなあ。男二人の足音って感じじゃなかったような気がするけどなあ。』
リュウジも
『俺らを怖がらせんためにあんな感じだったとか?』
と言い出したのでちょっと場が凍りました。
今となっては全員地元を離れているし十数年も前の話のため、そうそうどうだったかなど確認しようもありませんが、私が唯一体験した、不思議と言えば不思議な話です。
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作者怖話