ヤツは、素早く滑らかな動きで振り向いた。
冷たい眼光と その滑らかさは蛇を連想させた。
ヤツの視界に入ると同時に、私の体の自由は完全に奪われていた。
足は まるで地面に縫い付けられた様だ。
右斜め後方には、仲間達も付いて来ているはずだが、顔を向けて確認することはもちろん、声を掛けることすら出来ない。
汗が頬を伝い、顎の先から滴り落ちた。
ヤツは、舐める様に視線を左右に動かした後、ニヤリと口の端を歪ませた。
動きを封じておきながら、ヤツの方からこちらに向かって来ることはない。
ヤツは分かっているのだ…私達が近づいて行かざるを得ないことを…
そう。彼女を救うために!
彼女は、ヤツの右側に、手を繋がれていた。
うつ向いたままの彼女は、自分のヘマを悔いているのだろうか?
それとも、不運を嘆いているのだろうか?
こんな状況下で、つまらないことに思いをめぐらせていると、フッと彼女が顔を上げ、目が合った。
恐怖?絶望?もしかしたら希望?
表情を失った彼女から、その心理を読み取ることは出来なかった。
自分は期待されていないのだろうか?…忍び込んで来たそんな思考に、心が折れそうになる…
否!否!否!
私がここに居る目的は?
もちろん、彼女を助け出すことだけだ!
その為には、どんな危険も厭わない。
仲間達も全て脱出させるためにも、私が先頭に立ち 彼女の戒めを断ち切ってやる!
例え、私が身代わりに捕らえられることになったとしても…!
絶対助ける!
その覚悟を込めて、もう一度 彼女を見た。
私の強い視線に気付いた彼女は、今度はニッコリと笑いかけてくれた。
一瞬で弱気が吹き飛び、力が湧いて来た。
私自身も逃げ切ってやる!
全員に逃げられ、悔しがるヤツを想像すると、心が少し軽くなる気がした。
そんな私の決心を知ってか知らずか…ヤツは、身動き出来ずに突っ立っている私達を、獲物を値踏みする蛇の様な目で再び舐めまわした後、振り向いた時とは対照的な ゆっくりした動きで背中を向けた。
チャンスなのか?
誘いなのか?
一瞬の躊躇が、私の最初の一歩を遅らせた。
シマッタ!と思った次の瞬間、ヤツが喉を震わせ ある言葉を吐き出した!
場の緊張度が一気に跳ね上がる!
私の鼓膜を打ち精神に食い込んだ その言霊とは……………………………………………………………………………………
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「ダァ・ル・マ・サン・ガァ・コロンダ!」
怖い話投稿:ホラーテラー カルビ課長さん
作者怖話