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長編11
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永遠のナンバー

昨夜あった話を書きます。

実際に亡くなった人がいるので、私の文章を読んで気分を害される方がいるかもしれません。

その可能性のある方は、どうか読まずにスルーしてください。

昨夜は元彼の17回忌でした。

今日書く話は、私の過去と元彼の話です。

私の入った高校は、部活動に入ることを生徒に強制していました。

それならば、「サボっても問題ないところにしよう」と遊んでいるイメージのあったバスケ部に入部。

しかし、そこで私に出会いがありました。

人数の少ないバスケ部は、男女合同で練習し、男女一緒に遊びに行く・・・そんな仲良しクラブです。

いつしかダラダラしつつも楽しい雰囲気に馴染んでいきました。

そしてクラブ内には自然にカップルが出来、私にも彼氏が出来たのです。

高校1年の初夏のことでした。

1年先輩の彼はとてもカッコ良く、女性からモテる人、ちょっと自慢でしたね。

彼が3年生になり、夏休み明けで引退・・・という時期に、突然部活にも学校にも来なくなったのです。

心配しましたが連絡が取れません。

携帯電話もなく、自宅に電話しても誰も出ない状況です。

夏休みに入り、彼の家のピンポンを押す日が続きました。

メモ帳にメッセージを残してポストに入れて帰る日々。

そんな生活を続けていたある日、ようやく彼のお母さんと話をする機会が出来ました。

たまたま帰宅していたようです。

そして彼の状況を聞きました。

彼は入院していました。

骨の病気でした。

夏休みが明けると彼は登校して来ました。

顔は青白く、痩せた姿に松葉杖、面持ちが変わっていたのです。

放課後、一緒に帰りながらこの2ヶ月に何があったのかを聞きました。

彼は、ずっと膝の調子が悪かったこと。

痛みが増して眩暈がし、自室で倒れたこと。

病院に運ばれ入院、その日から検査の連続で辛かったこと。

自分の状態が分からず、私に連絡することも躊躇していたこと。

ずっとポストに残していた私の手紙を読んで、支えにしてくれていたこと。

帰る途中、話の合間合間にずっと謝っていました。

そして最後に、

「もう治らないんだ」と一言呟きました。

こんな話、実際に身の回りで起こるとは思わなかった。

感情と関係なくただ水のように涙が溢れました。

そして、彼は卒業しました。

卒業しても私たちの付き合いに変わりはありません。

病院にいく頻度が増えました。

彼は痛み止めを飲むと寝てしまうのですが、私は隣で座っているだけで良かったんです。

どこかに行きたいとか、何をしたいとかそんな気持ちもありませんでした。

その時私は高3です。

進学はせず、就職する道を選びました。

彼を支えたかったんです。

しかし、私の両親も彼の両親も、私たちの付き合いに反対しました。

彼の両親からは「あなたには将来があるから・・・」と説得されました。

それでも私の気持ちは変わりません。

その頃から彼が夢に出てくるようになりました。

悲しい顔をしていました。

不思議な実体を見たことがある私ですが、その実体とも違う感じ。

なんだか映像を見ているような姿でした。

たまに「ジッ、ジッ」と映像が乱れるんです。

口を動かし、何かを伝えてくれようとしているんですが聞き取れません。

そのまま普段の風景に切り替わるんです。

気がつくと朝だったり、昼だったり・・・。

彼は、私の中にある迷いに気がついているんじゃないか、非難しているんじゃないかと思いました。

そのくらい辛く、悲しく、そして怒ったような顔をしていたんです。

その姿は日を追うごとに頻繁に現れ、私は眠るのが怖くなりました。

必死の形相の彼の夢を、私は頻繁に見るようになっていた。

でも直接彼に「何か伝えたいことがあるの?」とは聞けず、ただ眠るのが億劫になっていた。

日を追うごとに彼の通院回数は増え、状態が悪いと入院、落ち着いてきたら退院・・・その繰り返し。

その後、私は高校を卒業して就職をした。

彼は変わらず明るく、元気な様子。

今思えばそう演じていただけだと思う。

「良くなっているのかも」

そんな都合のいい期待を胸に、仕事が終わると彼の家に行き、他愛もないことを話し続けるのが日課になっていた。

彼のお母さんが作る夕食をいただき、リビングで話をして帰る・・・そんな毎日だった。

「治らない病気なんて嘘なんじゃないか」

「多分大丈夫」

でも、帰宅してから見る彼の夢は、やっぱり何か言いたげな顔をしていた。

その表情が私を憂鬱にさせた。

それから数ヶ月がたち、部屋でパソコンを見ていたときに彼が突然倒れた。

痛さを訴える彼。

何も出来ずにオロオロする私。

階下に居た彼の両親を呼び救急車で搬送した。

とうとう来て欲しくなかった時が来た。

示された残り時間はわずかだった。

日頃から「自分にも準備があるから」と、告知を望んでいた彼。

容態が落ち着き、彼の痛みが緩和されたとき、その事実は告げられた。

「思っていたより長く生きられた」

そう彼は笑って言った。

彼の唯一の望みは「家に帰りたい」

その願いは病院や主治医の先生の御厚意で叶えられ、帰宅が許された。

彼の家に行くのが辛かった。

何て言えばいいのかわからなかったし、私が慰めの言葉なんかを口にしても、結局彼の本心までは理解できないと思っていた。

それでも一緒にいたい、

その気持ちのほうが勝っていた。

退院後も変わらず彼の家に通った。

歩行は困難になったけれど、歩けないわけではなかった。

彼の歩幅に合わせて家の中を歩く。

そんな姿を見ると「きっと治る」という気持ちになった。

ある日私は会社を早退した。

理由は「天気が良かったから」

昼間の太陽の下に彼を連れ出したかった。

私は彼の家に向かった・・・。

最寄駅で彼のお母さんに会った。

「替えの洋服なんかを買ってくるわ」

「部屋で寝てるから、後をお願いしていいかしら」

そう言って鍵を渡された。

駅からバスで4つ目の停留所。

バス停からは歩いてすぐの彼の家。

渡された鍵で家に入る。

寝ている彼を起こさないように2階に上がり、扉を開けた。

彼はデスクの前に座り、静かに泣いていた。

すぐに私に気がついたけど涙は止まらず、今まで溜め込んでいたであろう本心を呟いた。

「一緒に死んでくれないかな・・・」

今でも消えない彼の姿です。

「一緒に死んでくれないかな」

そう言った彼の眼差しは真剣だった。

でもすぐに

「嘘、嘘、お前が2階に上がってくるの聞こえてたから、驚かそうと思ったんだよ」と笑った。

でも、どちらの台詞が本心なのか痛いほど分かった。

辛いのは彼の方なのに、涙が止まらなかった。

私は、

「いいよ」とこたえた。

彼のお母さんには置手紙をした。

まだ外は存分に明るい。

「散歩に行ってきます」

その言葉に疑問は持たないだろう。

彼に暖かい服を着せ、一緒に外に出た。

バスに乗り、電車に乗り、初めての旅行のようだった。

行き先は、そう、ずっと行きたかった伊豆にしよう。

今日が最後の日、そう思うと景色がキラキラして見えた。

何てことないものに感動したりした。

自分の決心に後悔はなく、ただ彼の手を握っていられることが幸せだった。

押し黙った空気になるかと思っていたが、意外と話は弾み、高校時代に戻ったような錯覚に陥った。

彼もずっとにこやかに笑っている。

「これでいいんだ・・・」そう思った。

何時間か電車に揺られ、目的地に着いた頃には辺りが暗くなっていた。

私たちの気持ちは揺るがない。

岸辺で見つめあった時、

「本当にいいの?」と彼に聞かれた。

彼の目に涙が光っていたのが綺麗だったのを覚えてる。

私は、

「うん」と頷いた。

自分の家族の顔が浮かんできた。

申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

でも彼を一人には出来ない、一緒について行きたい、その気持ちが大きくて、残された人の気持ちを考える優しさが私にはなかった。

その時の自分の立場に酔っていた、そう非難されても仕方ない。

でもずっと笑っていた彼が一人で泣いているのを見たとき、自分の感情(自ら死を選ぶことは悪)は消されてた。

そして浜辺でしばらく抱き合い、二人の手首を用意してきた紐で固く結んだ。

私たちは真冬の海に入った。

「冷たい・・・」

そう思ったのも最初だけ。

徐々に感覚がなくなり、一歩足を進めるのもよろけるほどバランスが取れなくなった。

水位が胸の辺りまできたとき、もう一度私たちは向かい合いキスをした。

トプンッと大きな波が来たとき、私たちの全身は海の中に消えた。

最初の内は、暗い海の中への恐怖心があったが、次第に意識が遠のいていった。

彼と繋がっている手首が、波が動くたびに引っ張られ痛みを感じた。

どのくらいの時間、海に漂っていたのだろうか。

気がつくと私は病院のベッドの上だった。

周りには私の家族、彼の両親、ドクターや看護師さん、そして警察の方がいた。

私の両親は泣きながら怒っていた。

彼の母親は私を抱きしめてくれてた。

みんなが私のところに集まっている。

「彼はもういないんだ」

そう思ったけど涙も出なくて、「私って薄情なのかも」と考えていた。

しばらく入院した。

その間、誰も彼の話をせず、私も聞かなかった。

落ち着いた頃に警察の方が来て、あの日の事情を聞かれた。

誰が何を話しても、みんなの声が遠くに聞こえる。

まるで水の中に潜った状態のように・・・。

私は淡々と答えた。

その様子に異変を感じたのかもしれない。

「また死ぬ気かも」そう感じ取ったのかもしれない。

自ら死ぬ事がどういう事なのか、我侭でしかないんだ、まわりの人をどれだけ悲しませる事なのか分かっているのか・・・そう力説された。

その時の私には、お説教のようにしか聞こえなかったのが正直なところ。

しばらく事情を聞かれた後、あの日何があったのか。

なぜ暗い海の中から私だけが助かったのか。

詳しい話を警察の方が教えてくれた。

砂浜に下りる道をパトロール中の警察官が通ったとき、小さな男の子が呼び止めた。

「こんな時間に何をしているの?」

そう聞いても、その子は海を指差すばかり。

不思議に思った警察官が沖を見ると、キラキラ光った結晶のようなものが海面を飛んでいた。

ガラスの欠片をばら撒いたようだったという。

その明かりで照らされた海面に白い玉が二つ【浮き】のように浮いていた。

その二つの玉は、当日私が髪を結ぶために使っていたヘアゴムの飾り。

すぐに救助された私。

手首には痣が残っていたが、紐はなかった。

そのまま病院に搬送され一命を取り留めたとか。

彼は翌日、岸に流れ着いていた。

手首に紐を残したまま・・・。

警察の方は、

「水中では紐が締まってしまうため、自然と外れるとは考えにくい。多分、彼があなたを助けようとして外したか、外れるように結んでいたんだと思う」と言った。

救助している間、案内してくれた子供の面倒を見ていた警察官がいたが、いつの間にか子供はいなくなっていたという。

近所の家を探したが該当する子供はいなかったと。

「夜の海で人を見つけるなんて至難の業。

海面を照らしていたものも何だか分からない。

説明がつかないが貴女は助かった」

「彼の気持ちを無駄にしちゃいけない」

そこではじめて、人の声がハッキリ聞こえた気がした。

退院し地元に戻った私。

私一人が生き残ったが、彼の気持ちを大切にしたかった。

時間を大事にして生きていこうと思った。

彼の月命日には必ずお墓に花を添え、命日には伊豆の海に行っている。

それはあれから十数年が経っても変わらない。

困ったことや悩んだことは相談し、うれしかったことは報告してきた。

でも彼の家に行くことは出来なかった。

私一人が生き残ってしまったこと、彼の両親に申し訳なく思っていたから。

今年は彼の十七回忌だった。

先日、あの日以来初めて彼の家に行った。

お線香をあげる私を見て涙を流す両親。

見ているだけで辛く、「すみませんでした」その一言しか出なかった。

そんな私をリビングに誘い、お茶を出してくれたお母さん。

「これを渡そうと思って」

そう言って日記とアルバムを私に渡した。

表紙をめくると、そこには彼の文字が並んでいた。

病気が発覚してからの彼の辛さや苦しみが並べてあった。

いつも笑っていた彼とは別人のようだった。

そして、いつも文末に私へのメッセージが書かれていた。

時には似ていない似顔絵つきで・・・。

「別れるべきか」、

「落ち込まないで欲しい」、

「新しい出会いを見つけて」、

「幸せになって欲しい・・・」

そんな事がたくさん

その日記は、私たちが伊豆に向かった日の朝まで書かれていて、

「今日あいつが来たら、嫌な人間のフリをして嫌われよう。自分の存在を忘れてもらおう」

そう書いてあった。

切なくて涙で文字が読めなくなってきた。

こんな事を書きながら、あの日会った彼の口からは、違う言葉が出ていた。

一生一緒にいたいと思ってくれたのだろうか・・・、今となっては分からない。

そして日記を読み終える頃、お母さんが私に言った。

「ごめんね・・・」と。

お母さんは、彼の部屋の掃除をしたときに、この日記の存在に気がついていたらしい。

彼がいない時にコッソリ読み、そして本心を知ってしまった。

「もしかしたら、あの日のような事が起こるかも・・・と想像していた。」

「息子を一人きりで死なせるのは辛すぎて、見てみぬふりをしてきた。」

「あの日、買い物から帰って置手紙を見た時、何かしら直感はあったけど

、すぐに行動に移せなかった。」

「好きな人と一緒に逝くのが、息子にとって幸せなんじゃないかと思った・・・」と。

アルバムには二人で撮った写真や、小さなプリクラまで全てが貼られていた。

二人の歴史そのもの。

「あなたを巻き込みたくないからと、息子はそのアルバムだけ持って、一人で逝く事も覚悟していたようです」

「本当に辛い思いをさせてごめんなさい」

そう言って、お父さんもお母さんも泣き崩れていた。

今日、この場に来て良かった・・・心からそう思った。

あれから1週間ほどが経ちました。

日記とアルバムは彼の両親からいただき、今は私の部屋に置いてあります。

私にとって彼は永遠に消せない存在で、今まで出会ってきた人たちも彼を越えることは出来ません。

思い出だから綺麗になってるんじゃない?

そうかもしれませんね。

でも、彼に出会えたこと、本当に良かったと思ってる。

彼以上の存在は、もう現れないかもしれない。

これからの私は、今まで守ってきてくれた私の家族と、二人きりで残ってしまった彼の両親を大切にしていく事だけ。

夢の中で必死に本心を語ろうとしてくれてた彼、

私の前で明るく演じていた彼、

そして高校時代の楽しい時間、

彼くらい大きな人間になりたいと思う。

私は、自分に関する不思議な力を持っていません。

ですから、あれから長い年月が経っていますが、彼らしき存在に会えたことはないんです。

ただ、昔流行った彼愛用の「男性コロンの香り」がフッとすることがあります。

でも姿を確認することは出来ません。

もし私に何かしらの力があったら・・・、そう思わずにはいられないんです。

彼がこの世に存在した事を記録して残したかった。

自ら死を選ぶのは悪いことです。

こんなキレイ事ではありません。

もちろん推奨しているわけでもありません。

周りの人にもたくさんご迷惑をお掛けしました。

警察の方々、病院関係者の方々、両家の家族も本当にごめんなさい。

平凡な日々がどんなに幸せなのか、彼が教えてくれた気がします。

読んでくださった方、本当にありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー まるさん

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涙がとまりません

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そんなに愛し、愛される恋愛をしたまるさんは幸せだと思います。

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