あれは私が中学の頃の、夏休みの事。
母と一緒に近くのスーパーへ買い物に行くと、そこに中学の同級生3人がいるのを見つけた。
何やら荷物を持って、スーパーの食品コーナーなどをいろいろ見ている。
声をかけてみると、これから近くの川へ泳ぎに行くのだという。
その日は、カンカン照りのうだるような暑さ。
こんな日に泳げば、さぞかし気持ち良いだろうということで、じっとしていられず私も一緒に行くことにした。
急いで家から水着などを持ち出し、3人と共に川へと向かう。
流れも穏やかで深さも丁度良い…泳ぐにはぴったりの場所に着いた。
さっそく着替えると、みんな川へ飛び込み遊びはじめた。
そうして、だいぶ遊んだだろうか。
私は泳ぎ疲れたため、一休みしようと岩場へあがろうとした時だった。
ぐいっ…!
後ろから足首を強く掴まれ、川の中へ引きずり戻された。
(誰だっ…!)
突然の事に慌ててもがきながらも、水面から顔を出して周りを見回してみる。
(え……?)
さっきで近くで泳いでいたはずの、他の3人の姿がどこにも見当たらない。
しばらく見回していたが、依然として誰も出てくる気配がない。
どうやら水面に潜っているという訳でもなさそうだった。
(一体みんなどこに行ったんだ…?)
疲れと共に、嫌な不安を感じて体がガクガクと震えだした。
とにかく陸へあがろうと岩場に手をかけるが、そうすると再び足を後ろから引っ張られた。
ガボガボ……
少しパニックになり、水を結構飲み込んでしまった。
そこからはもう無我夢中で陸へあがろうと必死でもがき続けた。
しかし、そのたびに手が足を引っ張り水面に引きずり戻された。
そうして何回繰り返しただろうか…
(も…もう駄目だ、溺れ死ぬ…)
死を間近に感じ、延々と繰り返されるそれは、まさに地獄のような苦しみと恐怖だった。
川の中で手足をバタつかせ、必死でもがいた。
ズブブ……
と、指先がやわらかい何かにめり込むような嫌な感触……
水面に顔をつけ、下を見てみる。
ドロドロに腐って赤と白の混じったようなまだら色をした、髪の長い女の顔に指が深くめり込んでいた。
(………!!?)
気づくと、水面には辺り一面に長い黒髪が浮かんでいる。
思わず叫ぼうと口を開くと、そこから大量に髪の混じった水が入り込んでくる…
また、もがけばもがくほど腐った女の体が密着してくる。
(〜〜〜〜……っ!!!)
声にならない絶叫を頭の中でひたすら上げていた。
そして、そのまま意識はプツリと途絶えた……
げほっげほっ…!
気がつくと、川岸の岩場の上に倒れていた。
(助かったのか……?)
訳が分からず、慌てて身体を起こす。
驚くことに、辺りはもう夜の真っ暗闇に包まれていた。
体中に長い髪の毛がへばりついている……
私は混乱しながらも、近くにあった服に着替えてなんとか家へと帰った。
家に帰ると、両親がひどく心配した様子で私を迎えた。
一緒に川へ泳ぎに行った3人…
彼らの話では、泳いでいる途中に私の姿が突然どこにも見えなくなったのだという。
いくら探しても見つからなかったため、一人で帰ったのかもしれないと考え、3人も家に帰る。
そして私が家に帰る少し前に、彼らの一人が私の家に電話をした…
そこで初めて、私が家に帰っていないと分かり、騒然としていた所だったのだ。
私は一体どこで延々ともがき続けていたのか…
得体も知れぬ恐怖で、しばらく身震いがとまらなかった。
それからというもの、私は川泳ぎや水泳がすっかり苦手になってしまった。
怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん
作者怖話