高校の頃、たまに集まって遊んでいた悪友達がいた。
あれは夏休みの事。
ヒマを持て余していた私達は、集まって肝試しでもしようかという話になった。
私はあまり気が乗らなかったが、しつこく誘われ仕方なく参加することになった。
そして肝試し当日…
近くのお寺の裏にある、いわく付きの山林に集まった。
集まったのは、いつものメンバー六人。
前フリの怪談話でさんざん盛り上がった後、さっそく一人目が山林へと入っていった。
それから少しして、メンバーの1人Kが「ちょっと小便…」と言って山林のほうへ入っていった。
そして、しばらくして……
「ぎゃーーっ!!」
叫びながら、一人目の奴が山林から飛び出してきた。
山林の中で、木の影に潜んだ鬼を見たのだという。
小便にいったKは未だに戻ってこない。
それで私はピンときた。
Kが何か変装をして、脅かしたのではないかと。
しかし面白かったので、皆には黙っていた。
二人目の奴が山林に入っていくと、しばらくして同じように叫びながら飛び出してくる。
やはり山林の奥で鬼を見たというのだ。
そしていよいよ三番目、私の順番が回ってきた。
少し期待しながら、山林の中の道を進んでいく。
やがて奥へと進み、大きな木の近くに来た時だった。
木の影から、鬼の面をつけたKがこちらを覗いていた。
(顔は確かに恐ろしい鬼のようだけど、よく見ると服装がそのままじゃないか…)
私はこらえ切れずゲラゲラ笑っていると、木の影からKが出てきた。
「何だ、分かったのかよ…」
Kはガッカリしたように呟いていた。
…しかし近くで見てみると、実に良く出来た面だ。
まるで本物の鬼の顔を剥ぎ取ってきたかのようだ…
「いつまでそれ着けてんだよ。気味悪いから早く外してくれ」
私は少し笑いながらKに言う。
「ああ…今、外す…」
そう言って、Kは面に手をかける。
「あれ……?」
……Kの様子が、何だかおかしい。
必死に顔から面を外そうと、もがいているように見える。
「外れない…!」
そう何度も呟きながら、面を必死で外そうとしているKの様子からは異常な雰囲気が感じられた。
私も一緒になって外そうとするが、まるでびくともしない…
だんだん気味が悪くなった私は、もがき続けるKを連れて山林から出ることにした。
他の皆の所へ戻ると、必死でもがき続けるKの姿を見て驚いていた。
皆で一緒になってKの面を剥がそうとするが、まるで外れる気配もない。
まるで、Kの顔と一体化してしまったかのように…
「アアアー!ギャーーッ!!」
次第にKの様子も、狂ったように変貌していく。
これは異常だと悟った私は、ちょうど近くの寺へ行って相談しようと考えた。
寺の住職さんを訪ね、Kを見せると、すぐに顔色を変えていた。
すぐにKを連れていき、お経を読んで聞かせている。
すると、やがてKの顔から鬼の面がポロリと剥がれ落ちた。
それに合わせ、Kも落ち着きを取り戻した様子だった。
…そのあとKはたっぷりと叱られていた。
何でもKは、どうやって忍び込んだのか、寺で保管されていた鬼の面を盗みだしたのだという。
…その鬼の面には古い言い伝えがあった。
昔、祭りで鬼の面を被っていた男がいた。
しかし、なぜかその鬼の面が外れなくなってしまう。
恐ろしい鬼の祟りだと、男は村人から恐れられるようになる。
やがて悲しみにくれた男は、村里から消え去り、山奥で鬼として生きるようになった…
その男が死ぬまで被っていたのが、その面なのだそうだ。
面の内側には、古い人間の皮膚がべたりと貼りついている。
さらに、悲しみ・恨みの強い念が強く染み付いているのだという。
剥がれ落ちて床に転がる恐ろしい鬼の面が、なぜかとても悲しい表情に見えた気がした。
人々の怖れや悲しみ・恨みの念が、一人の人間を鬼へと変えてしまったのだろうか…
それ以来、Kと私達が一緒に遊ぶことは無くなってしまった。
…今でも、あの鬼の面は寺で大事に保管されているらしい。
怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん
作者怖話