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短編2
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船乗りの願い事

 

―――突然の嵐がやってきた。

 

私の父親の代から永きに渡り大海原を自由に駆け巡ってきたこの大きな帆船も、 

これだけの大波の前では、まるで湖に落ちた一枚の木の葉の様なもの。

 

自由を奪われ、大波に煽られる度に右へ左へと大きく船体を傾ける中、 

私を含めた屈強な船乗り達も、ただただこの嵐が止むのを祈ることしかできなかった。 

するとその祈りが通じたのか、不思議なことに私の前にローブを纏った初老の男、神様が現れた。

 

当然のことだが、神と出会うのはこれが初めてのことだ。

 

ただ、一目見て目の前にいるその老人が神と分かったのは、 

今は亡き父が残した航海日誌の表紙に書かれた海の神様の挿絵にあまりにもその姿が酷似していたからである。 

驚く私を他所に、その神はこう言った。

 

「私は自然を司る海の神である。 どんな願いでも一つだけ、お前の好きな願いを叶えてやろう」

 

正直、半信半疑でもあったが、これまで経験したことの無い様な嵐の中、突然現れた神は正に渡りに船である。

 

「ならば、この嵐を止めて俺達を…この船を助けてくれ!! 風を、荒れ狂う大波を沈め、波一つ無い静かな海に!」 

しばらく黙り込んだ後、神は訝しげな顔で俺の様子を伺いながらこう言った。

 

「…ふむ、おかしなことを願う人間だな…本当にそれでいいんだな?」

 

「あぁ、早くしてくれ! チクショウ、船体が軋む音がしてきやがった。 あぁ…もう船がもたない。頼む、早く!」

 

「そんなに言うなら仕方がないな、お前の願いを叶えてやろう、それ」

 

そう言うと眩い光が神の全身を包んだかと思うと、恐る恐る目を開けた私の目の前には、 

先程までの嵐が嘘の様にピタリと治まり、波風一つない静かな海原が広がっていた。

 

気が付けば神の姿は消えていた。それにしても、願いを伝えた時に見せた怪訝そうな神の表情は何だったのであろう?

 

(あぁ、そうか。どんな願いでも叶えることができる神である。目的地に船ごと移動してもらえば良かったのか…)

 

だが、それは味気ないというものだ。海の上で生き、海の上で死ぬ…私は根っからの船乗りなのである。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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