今の家にはかれこれ18年程住んでいる。
今でこそ住宅地だが、引越しだ当初はまだ田畑が多くあり随分田舎に来たなぁと思ったものだ。
幼稚園児だった私は帰宅すると一人で近所を探検するのが日課であった。
田んぼの畦道を歩いて近所の大きなお屋敷を見に行ったり、神社で虫を探したり。
そんな時期に一度だけ不思議な場所へ行き着いたことがある。
川を越えた先にある沼はこのあたりでは底無し沼と呼ばれていて、獣道のみで人が近寄らない小さな雑木林の中にあった。
この沼の近くは手のひら程のバッタがいたり、蛇イチゴが生えていたり冒険心をくすぐるものがあった。
いつもは楢の木に隠れるように建っている祠までしか行かない、と決めていたのにその日はその先へ行きたくなってしまった。
祠の横を通るとすぐ雑木林は終わり開けた場所へ出た。
周りは森の様に木で囲まれていて、中心には大きな沼があった。
ガマの穂がたくさん揺れていて、同時にキレイな野草も群生していた。
この場所にだけ陽がさしこんでいて美しかった。
沼には木でできた小さな架け橋がありそこを行き来したりガマの穂を採ったりして遊んだ。
まだ変わらず周囲は明るかったがお腹が減ったので帰宅をする事にした。
来た道を通り雑木林を抜けるとすっかり陽は落ちていた。
家に着いたのは19時頃で親に随分と怒られたのを覚えている。
2日後にまた訪ねたが、この素晴らしい場所には二度と辿り着けず、祠の先には民間があるだけだった。
きっとまだユートピアというものがあの時代ここにはあって、孤独な子供と遊んでくれる自然の神さまみたいなものがいたんだなぁと感傷に浸る。
それはきっともう、どこにも無い場所。
怖い話投稿:ホラーテラー リコピンさん
作者怖話