霊なんてほとんど信じていない俺が唯一体験した怖い話。
去年の夏の夜。
普段バイトの行き帰りはバイクなんだけど、その日は「たまには歩きで行こう」と思って徒歩だった。
いつもは夜9時ごろには終わるはずのバイト。
でもその日は予想以上に忙しくて、店を出たのは11時ごろだった。
蒸し暑い夏の夜の中、住宅街を1人で歩いていた。
しばらくして、後ろからヒールのコツコツという音が聞こえてきた。
何か違和感を感じるけど、あまり気にはならなかった。
しかし、途中自販機で煙草を買おうと立ち止まった時、その足音の主も立ち止まった。
煙草を買って歩き始めると再び足音が聞こえる。
(気持ち悪いなあ…)と思い試しに一度止まってみると、そいつも止まる。
歩き始めると、そいつも歩き始める。
たまに警戒して自分の前を歩かせようとする女っているじゃん。
その類だと無理やり自分を納得させようとしたんだけどどうしても気になる。
勇気を出して振り向いた。
…誰もいない?
辺りを見回しても隠れそうな場所はない。
不思議に思いながら前を向くと…
女の顔が目の前にあった
一瞬のことだったが、よく覚えてる。
ボサボサに伸びた髪にその隙間から見える血走った目、歯をむき出しにしてニンマリ笑う口。
鼻血も出ていた。
あまりの衝撃に次の瞬間めまいがして、気を失ってしまったらしい。
通りすがりのOLに声を掛けられてやっと目を覚ました。
時計を見ると30分ほど経っていた。
心配そうな顔をするOLにお礼を言い、なんとか帰宅。
その日はすぐに布団に入り寝てしまった。
次の日、バイトは休みだったので一日中家で小説を読んだりして過ごした。
そんな暇な日に限って眠くなる時間は早い。
10時過ぎには睡魔がどっと襲ってきた。
寝る前に一服してから、歯を磨こうと洗面所へ。
口をゆすいで顔を上げると
鏡の中、自分のすぐ後ろに昨日の女が立っていた。
あのラリった顔で。
そこから近所に住む友達の彼女(以外A)の部屋に転がりこむまで記憶が曖昧になっている。
携帯からだと書ける字数が少ないのでここらでいったん区切る。
その時Bの部屋には友達(以下A)もいて、最初は2人していきなり転がりこんできた俺にびっくりしていた。
落ち着いてから2人に昨日今日の出来事を話すと初めは信じてくなかったが、しつこく話してなんとか信じ込んでもらうことに成功。
その日はAと共にBの部屋に泊まった。
勿論俺は全く眠れなかった。
次の日の朝、バイクを取りに行ってから、1人で少し離れたところにあるお寺に向かった。
路肩にバイクを止めて石段を上がっていくと住職さんが境内を掃除していた。
話し掛けると、一目で何が目的か分かったようで「祓ってあげるから着いてきなさい」と言われ本堂に連れて行かれた。
住職さんと他のお坊さん2人に囲まれてお経を上げてもらった。
お経を上げられてからすぐに女の「ひゃっひっゃひゃっ…」という笑い声が頭の中で響き始めた。
本当に気が狂いそうだったが、住職さんから「我慢して無視しなさい」と言われたので、ギュッと目を瞑って耐えていた。
すると笑い声はだんだん小さくなっていき、最後には聞こえなくなった。
同時に二日前から続いていた身体の劣等感もなくなってスッキリした。
「もう大丈夫」と言われ目を開けて時計をみると10分ほど経っていた。
その後、淹れてもらったお茶を飲みながら話を聞くと、一目で俺の背中にニヤニヤ笑った女が抱きついているのが見えたらしい(身体の劣等感もそのせいか?)。
特に悪意はないようだが、何故だか俺を気に入ってしまったらしい。
住職さんが「悪意がないからこそ危険なんだよ」と穏やかな口調で言っていたのが印象深かった。
そんなことがありながらも俺は幽霊を信じていない。
恐がりだから「信じたくない」のだ。
今でも「幽霊なんていない」と思い続けるようにしている。
怖い話投稿:ホラーテラー べんさん
作者怖話