その男Nは、小さい頃から母親と2人の母子家庭であった。
今日は、墓参りのため某県の山のほうに住むおばあちゃんの家にやってきた。
母とN以外にも身内がいくらか集まり、墓参りもおわって庭ではバーベキューが始まり酒が酌み交わされた。
集まった身内は、年配の方たちばかりである。
高校生のNにとって身内たちの話は、退屈極まりないものであり、Nは乾杯からほどなくして席をたった。
時間は、昼の3時。Nは山を散策することにした。
夏場であったが、山の中はヒンヤリしてて気持ちよく、都会暮らしのNはメッタに触れることのない自然を1時間ほど満喫したところで空腹を感じ、もどって腹を落ちつけようと山を下りはじめた。
あと10分ほどで家に着くかというところで、はるか後方からガサガサと音がする。
ふと振り返ると上のほうで黒い塊がうごいている。
遠目にも明らかに大きいソレを見て、Nは冷や汗をかいた。
N「…熊だ!!!」
見つからないようにと瞬時に身をふせたが、どうやら無駄であった。
ザザ…ザザザ…ザザザザ!!
熊の歩みは小走りへと変わり、Nへ一直線にむかってくる。
Nは、家の方向へ全速力で駆けだしたが家までは間に合いそうにない。
途中にあった小屋へ入ろうと思ったが、ドアが開かない!
もう完全なパニック状態であったが、幸い熊との距離はまだひらいており、いささかの冷静を取りもどしたNは、小屋の裏に回りこみ携帯をとりだした。
トゥルルル…トゥルルル…
永遠とも思えたが実際には5秒程度だった。
母「はいはぁ〜い!あんたどこおんの〜?」
N「ヤバい!熊おんねん!助けてくれ!!」
母「えっ、なんてぇ?」
N「熊やって!」
身内「ハハハハ!どうしたN?ちょっとばあちゃんにかわるわ!(ガヤガヤ)」
婆「なにしてんの〜はよもどっておいでやぁ」
プッ…ツーツー
どうやらみんなもう酔いが回っているようだ。
受話器のむこうにいる上機嫌な連中は、Nの話をマトモに聞こうとはしなかった。
そんな事をしているうちに熊は、5メートルという距離に迫っていた。
息を殺して身を潜めるN。
余りの恐怖にNは、もはや動くことはできなかった。
熊も小屋の裏手にまわってきた。Nとの距離は30センチだ。
N「(助けてくれ!神様!神様!)」
Nは幸運の持ち主だった。熊はくるりと方向転換し、もときた道を歩いていった。
Nの異常な汗の量は、夏の暑さのせいではなかった。言葉も出ない。
しばらくその場を動けなかったNは、汗もある程度ひいてきたところでようやく今、自分が生きていることを実感しだしていた。
N「(助かったんか。絶対死んだとおもった。)」
Nは胸をなでおろし安堵に浸った。真っ白だった頭がふだんの思考を取りもどしたのもつかの間、腹の奥底からわきあがる感情に支配されたNは理性を完全に失う。
N「(もうちょっとで死ぬとこだった!もうちょっとで!!あいつら!あいつら!!!)」
怒りに我を忘れたNは立ちあがり、猛スピードで家へと向かった。
家がみえた。庭では親族たちが楽しそうに大笑いしている。
Nは庭にあるマキ割り用の斧に目をつけ手にとった。
怒り狂った体育会系のNが一同を惨殺するのは、実に容易いことであった。
N「(ん〜…。えっ??)」
目を覚ますとそこは家の中。庭からは話し声が聞こえてくる。
庭へ出てみるとそこにはバーベキューの準備をする親類の姿があった。
つづく…
怖い話投稿:ホラーテラー BLACK・KIDさん
作者怖話