人は時として恐怖から幻覚を見ることがある、と誰かは言った。
ただ、それが本当に幻覚なのか、はたまた現実に起こっている現象なのか、確かめる術はないのである。
あれは激しい雨の降る金曜日の事だった。中学生であった私は受験勉強に勤しむため、祝日なのにひとり机に向かっていた。
両親は仕事、兄はバイト、まさに家には私一人のはずだったのだ。
「あー…、疲れた。息抜きでもしないとやってらんない、メールでもしようかな…」
時計は正午を知らせる音楽を奏で、椅子に座ったまま伸びをすると肩にどっと疲れがおりてくる。そしてその瞬間、ふと思い出したのだ。
昨日の放課後、オカルト好きな友人Aはいつものように人を集め、その手の情報や話をつらつらと話していた。最も、私も人並みにはそういう話に興味があったし、その日はたまたま塾もなかったため聞いてから帰ることにしたのだ。
「じゃあ、次は…留守番のハナシ。一軒家で、ひとりでお留守番する人は気をつけてね。ひとりでいると、誰もいないはずなのに声がしたり、どこかの隙間から顔の白い女の人が覗いてることがあるの。一度見えると、家に人がいる時でも自分だけにはその女の人が見えるようになるんだ…そして、その女の人は…」
Aは話を途中で躊躇い、そのまま止めてしまった。
息抜きにリビングへ下りようかと携帯電話を手に取り、部屋の出口である引き戸を見た瞬間、凍りついた。
引き戸の隙間から白い指が5本、覗いているのだ。そしてその指はゆっくりと増えていく。まるで引き戸をしっかり掴むように向こう側から、一本、また一本と。
「ひっ」
小さな悲鳴が出そうになり口を押さえたと同時に廊下からドドドドドドドドドド!、というすさまじい足音、その足音の後すぐに隙間から女の青白い顔が覗いた。
焦点の合わない目、裂けた口、ボサボサの長い髪。
その女がこちらをみて笑っている。にやにやと。
体が震え、その光景から目が離せないでいたその時、ピンポーンというインターフォンが聞こえ、その音に女は顔を歪め、廊下の奥へと走り去っていった。
チャンスだと走り出し、階段を転ぶような勢いで下りドアを開けるとそこにはAがいた。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿さん
作者怖話