小学生だったかの頃に、クラスのみんなで、それぞれ風船に結んだ袋に、花の種と手紙を入れて、一斉に空に放ったことがありました。
この種を拾った人が、幸せになりますように。
わたしはそんな内容の手紙でした。
だいたいは、空に放ち、その後のわずかな余韻を満喫しながら、一連のイベントは終了するもんです。
ところが数週間後、自分のもとに手紙がきました。
お察しの通りです。
風船につけた手紙には、住所と名前を記載していたため、拾った方が返事を書いてくれたのでした。
クラスの中で、わたしのもとにだけでした。
風船は、返事を頂いた方の家の雨樋にひっかかっていたみたく、その家のお婆ちゃんが気付いてくれて返事をいただけたしだいです。
返事の手紙は丁寧な字で
お花の種をありがとう。
もらった種を大切に育てる楽しみができて、お婆ちゃんも元気がわいてきましたよ。
きれいな花を咲かせたら、見せにいきますね。
ありがとう。
こんな返事をくれました。
それから何度か手紙のやり取りをしながら、お婆ちゃんは病気だということを知りました。
子供ながらに、病気と戦うお婆ちゃんへの励ましと、花の成長が気になりながら、はやる気持ちで手紙を送りました。
ところが
いつも定期的に返事をくれていたお婆ちゃんの手紙が、ぷっつり来なくなりました。
返事の続きです。
ぷっつりと届かなくなったお婆ちゃんからの手紙、わたしからの一方通行が2〜3度続きました。
あきらめかけた頃、お婆ちゃんからの手紙が届きました。
ずっと返事できなくてごめんね。
お婆ちゃんは病院で治療してたんよ。
もう退院して、これからはまたお花の世話をしながら、お婆ちゃんも頑張って元気になるからね。
こんな内容でした。
何度かお宅にお伺いしようかと思ったんだけど、病気なのはわかっていたので、親とも、迷惑かけると申し訳ないから。
と、断念していたしだいです。
なにはともあれ、また返事をもらえて、すごく嬉しかったのを覚えてます。
いつしか、お婆ちゃんとの手紙の内容は、花の話題からそれ、学校のことや、日常的な内容に変わっていき、楽しく手紙のやり取りをさせてもらってました。
ところが
ある日の手紙、それが事実上お婆ちゃんからの最後の手紙になります。
また入院して、悪い病気を治すことになりました。
しばらく返事はできないと思うけど、元気になってまたお手紙します。
○○ちゃんも元気で。
体に気をつけてね。
そんな感じの手紙を、かなり寂しく読んだ記憶が残ってます。
お婆ちゃんの言葉を信じてか、やがて手紙を待つことも薄れ、ずいぶん長い月日が経ちました。
続きます
怖い話投稿:ホラーテラー てっさんさん
作者怖話