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中編4
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ラブレターⅢ

すいません。先日は仕事に向けて睡眠が必要だったので。

ラブレターⅡの続きです。

明くる日の朝、とは言ってももう時間はとうに正午を過ぎており、円盤を刻む十二進法の頂点たる針は右へとその頭を垂れていました。

寝ぼけ眼でソファーに深々と座り、焦点定まらぬままに机を見ると、乱雑に置かれた三枚の紙。その存在が、どこかで夢であって欲しい、そう願っていた事象をこれでもか、と現実化させます。

しかし、頭を働かせたければ睡眠をとれ、とはよく言ったもので、昨晩とは違い、一つの解に結び付けようと思考は様々な違和感の抽出をし、それらを細分化、簡略化を繰り返しながら働いていきます。

そして、それらに対する理を持って解く結論が頭にまとまりました。

「よく聞く、都市伝説の幽霊や化け物」の類いだったのでは、などと言うおよそ証明出来ぬであろう仮説も頭の中から何度か飛び出してこようとはしましたが、最後に私が出した結論は違いました。

──嫌がらせ、もっと極端に言えば悪戯。

これが私の中で出た結論でした。見も蓋もない、と言われればそれまでですが。

先入観を捨て去り、起こった出来事だけを簡素化し並べていくと、この結論に行き着きました。

手の甲に落ちた血の冷たさ、およそ女性とは思えない握力。

……そして何よりも、真新しく血を吹き出していた傷口が、所々に見えていたのにも関わらず、この綺麗にくっきりとコピーされた……変な言い回しになりますが、顔面手紙とでもしますか、この存在です。

駐車場から自宅まで車で30分です。確かに私より先に走り去っていったあの方が、車に飛び乗り、一路私の自宅を目指したならポストに投函するのは可能でしょう。

しかし考えると滑稽ですが、血を顔から滴らせながら、コンビニに立ち寄り、顔の血を拭いながらコピーを一回で決める。この作業も含まれます。

時間的には不可能と言って良いでしょう。それに噴出する血を拭ったところで、どうしても染み出してくるはず。なのに、それらがこの手紙からは全く確認出来ません。

「……なんつーか、詰めが甘いよ、君」

無駄な労力に時間を割いた、と考えると無性に腹が立ち、思わずそう呟いてしまいました。

自分が大切な部分を見落としているのに気づかずに。

それから二日後の事です──。

喉元過ぎればなんとやらで、日々の業務や妻の愚痴と戦っていると頭の中からそんなものは吹き飛んでいました。

いつも通りの週末の慌ただしさが店の中を包み、お客様の応対をしていると、ドアのベルが新しい来客を告げます。

愛くるしい笑顔を振り撒きながら、顔だけをひょっこりと隙間から出し、店内を伺っていたのは良く来店して頂ける常連様で、妻の友人でもある女性。名前を仮にミサキさんとします。

「マスター、三人い〜い?」

その言葉に私は軽く頷き、手だけでどうぞ、と席を案内すると、笑顔を崩さぬままにその三名様は席に着きました。

一通りのオーダーを出し終え、一息つこうと肩を落とした私を見計らって、先程のミサキさんが私をジェスチャーで呼びつけます。

「例え、失恋だとしても、やけ酒はいけませんよ、うん」

軽く毒を吐きながら、笑顔をミサキさんに向けます。しかし、返ってきたのは思いがけない言葉でした。

「相変わらず失礼な……じゃなくて、今日は説教しにきたのよ〜?これ見覚えある?」

渡された四つに畳まれた厚紙の様なものを意味も解らず開いてみました。それは一枚のカラー写真。

そこに写っていたものは、あの駐車場の人でした。

この時の私の顔はとても酷かった事でしょう。数分間、言葉を失いましたから。

「知り合い?ってか囲ってる女?……何にせよまだあるよ」

ほら、と出された、またも四つ折にされたそれを開いた時、軽い目眩が襲い倒れ込みそうになりましたが、何とか膝で持ちこたえます。

この後の会話で写真をミサキさんが手に入れた経緯が判りました。

彼女は某ビルの五階に入っているキャバクラで働いており、そこそこの成績を挙げている方です。この来店頂いた前の晩、帰りのエレベーターに乗っていると途中の階で酷く陰気な、そこに相応しくない女性が乗り込んできました。

そのビルは所謂、キャバクラかクラブしかないテナント構成になっており、おかしいな、と思ったが特に何のアクションも出さず、彼女はエレベーターが早く下につくのを願っていました。

会話がないままにエレベーターは一階につき、扉が開いたので出ようとすると、突然、後ろから腕を掴まれたそうです。

そして、「これをダンク(うちの店の仮称)のマスターに渡してください」そう言うとミサキさんを突飛ばし、先に出ていったとの事でした。

「態度も態度だけどさぁ?かなりイッチャッテルよね、その子」

そう、ミサキさんは結ぶと「浮気か〜?」と意地悪い笑顔を浮かべました。

その言葉に力なく空笑いで答えながらも、まだ手に残る写真から目を離せません。

それは写真二枚に渡る新しい手紙でした。

あり得ない手紙。そして、ミサキさんの一言が私を奈落に突き落としました。

「気づいてる?一枚目の写真の奥……」

どこかのスーパーの中にある売り場でのスナップショット。

顔が良く見えない、陰気な女性の後ろで何かを取ろうとしている小さい影。

私の息子でした。

まだ続くんですが良いでしょうか?

怖い話投稿:ホラーテラー 優しい止まり木さん  

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