「なにやってんの?」
少し甲高い声、やたらと滑舌の良い口調は威圧的にも感じます。
Aから視線を外しなが私は小さな声で答えます。「釣りだけど…」
一目見れば釣りをしている事など一目瞭然なのに、持って回ったAの言い方がこれから何をされるのだろうかと私の不安感を煽ります。
「ふ〜ん」
Aはニヤつきながら答えます。
「釣りって面白いの?」
Aがいったい何を考えてるか全く解りません。
「俺もさ、実は釣りに興味あるんだよね。」
Aの態度が学校とは少し違うのに私は少し戸惑いました。
あからさまな暴力はなくとも家から金を持って来させられたり、物を隠されたり、私に対する言動も常に馬鹿扱いというのでしょうか、極端に言えば人間以下、大袈裟かもしれませんが犬畜生の様な扱いを受けていたのです。
今だったら解ります。そのひとつひとつのイジメは取るに足りないという事を。決して私に何か落ち度があった訳ではない。
そのイジメはAの気分で、匙加減が決まるという事を。Aの回りにいる取り巻き連中は常にAの目を気にしながら私へのイジメに参加している事を。
同じようにイジメられた経験のある方なら分かると思いますが、小学校、或いは中学、高校でも構わないでしょう。人生経験、社会経験も希薄な時期に過ごしている学校生活はその世界が全てになってしまいがちです。その生活の場所から拒絶されてしまうという事は全てから拒絶されたと感じてしまうものです。
正に当時の私も全てから拒絶されたかの様に感じて生きていました。
その元凶と今、2人っきりで対峙しているのです。
「俺もさ、実は釣りに興味あるんだよね。」
普段ならば決して私に対して発言しないような内容と語調。
「俺にも釣り教えてよ」
申し訳ありません。
続きます。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話