昔から境界を越えやすい子供だった。
エレベーター、駅のホーム、町の入口。
稀に私がそこに足を踏み入れると「こちら側」では無い場所へ入ってしまう。
誰一人いない街、気持ち悪いくらい音のない町…
大抵私はそこで約半日以内に気を失うか死亡するか戻される。(理由は後述)
こちら側に戻れた時、ほぼ時間は経っておらず、6時間あちら側でさまよっていたのにこちら側では5分程度しか経っていない、と言ったような感じだ。
私があちら側から戻ってこれる条件(方法?)は3つある。
一つ。気を失う。
あちら側に行って大抵約2時間以上経つといきなり立ち眩みがして視界が暗転。目を開けたらこちら側に戻っている。
二つ。死亡する。
あちら側で自殺するとこちら側に戻る。
そして三つ。戻される。
私が行くあちら側には人は居ない。
しかしあちら側で彷徨い、半日ほど途方に暮れているとヒトの形をした生き物に戻される。
もしくはこちらからその人を探して接触しても戻してくれる。
喋る言葉はわかるし見た目もその辺にいる人間とは変わらない。
でも…あんな場所にいる奴が人間である訳ないに決まっている。
さて、私は幼い頃からそうした境界を越えてしまい、あちら側に行ってしまっていた。
しかし最近では境界を越えた瞬間にカッターナイフで首を切り、自殺をしてはこちらへ戻ってくる。
何故かと言えば…子供の頃は全く気づかなかったが…私は…あちら側の時間の分だけ年を取っている。
あちら側での滞在が長いほど死に近づくからだ。
ちなみに私は19才だ。
しかし医者は私の体を27才のそれだと言う。
とうとう私はこちら側ではもう生きられないと絶望した。
誰にも話せないし信じてもくれない。
何年もあちら側で年を取っていたなんて。
そして私は自殺をした。
いつもあちら側で使うカッターで、慣れた手付きで首を切った。
目を開けたらまたいつものあちら側。
目の前にはあちら側にいるヒト。
私はソレに事情を話した。ここがあの世なら戻さないでと懇願していたら意識が飛んだ。
またこちら側に戻されたのだ。
私は病院で目を覚ました。
鏡に映る容姿は疲れきった27才のソレ。
私は絶望したが一つ変わった事がある。
この間、あちら側に行ったら1分経たずに目眩で戻った。
しかし、こちら側に戻った時、私がいた日付から丸一日経過しているのだ。
その間私は行方不明になっていたらしい。
怖い話投稿:ホラーテラー 黒乃さん
作者怖話