投稿、遅れてしまいました。今となってはタイトルが少し違うかなとも思いますが、あの時の恐怖が少しでも伝われば…
10分後に俺の部屋へ女性が来る事になり、部屋番を教えその場で一旦別れました。 俺達はコンビニへ飲み物を買いに。
「お前、なんで急に知らない人に話し掛けるのよ」
内心、同じアパートの住人と出来るだけ面倒な付き合いとかを持ちたくありません。
「え〜、話し掛けるくらい良いじゃん。暗くて良くは見えなかったけど、目とか大きくて可愛いと思うんだよね。 同じアパートに仲良しの女性が居るって楽しそうじゃない?」
先程感じた胸騒ぎが無くなった分けではありませんが、何の根拠もないものです、案外、友人の言うように同じアパートに女性の知り合いがいて、仲良くなれば楽しいのかもしれません。
その時、俺は前向きに考え直しました。
約束の10分が近づいてきます。コンビニを出て俺の部屋へと急ぎました。
玄関を開けると女性サイズのスニーカーが乱雑に脱がれています。
まさか、とは思いましたが、部屋へ入ると勝手に女性が上がり込んでいました。
その非常識な行動に腹立たしさを感じましたが、女性の容姿を見て、言葉を発することができませんでした。
髪に全く艶が無く、バサバサです、全体的に髪が薄いのですが頭頂部には毛が有りません。
何かの染みや汚れのついたヨレヨレ半袖のTシャツに、スエット地のハーフパンツを着ています、そこから出ている手足には、蚤、ダニに刺されたのか、異様な数の赤い斑点があります。手足の爪には赤いマニキュアを塗っていますが、いつ頃塗ったのか、ボロボロと剥がれています。
目は大きく異様な程ギラついている。
人を見掛けで判断するのは良くない。そんな事は分かっているのですが、女性の非常識な行動と、その容姿から恐怖を感じてしまいました。
内心、厄介な人と係わってしまたなと思ったのですが、友人も同じらしく完全に軽口はなりを潜め、何も喋らず下を向いているのみでした。
「御飯持ってきたよ」
そう女性は言って幾つかのタッパーを持って来たようです。かなり使い込んだのか、どのタッパーも黄色く変色しています。中の白米も同じ様に黄色く変色している様です。
違うタッパーの蓋を女性が開けます。「ジャジャ〜ン」 と、自分で効果音口ずさみながら。 蓋を開けると中からなんとも言い難い生臭い臭いがしてきます。中には蒂(へた)の付いた茄子の煮浸しみたいな物がグチャグチャに入っていました。
俺も友人も完全に戦意喪失してました。
この場をどうやり過ごすか?きっと2人共その事ばかり考えていたと思います。しかし、友人は貝のように口を閉ざしているのです。
俺は同じアパートの住人という事であまり無下にすると、その後が何となく怖いので女性の一方的な喋りに軽く相槌を打ったりしていました。
その時、この部屋の怪現象の事を急に思い出し、浴衣姿の老婆のこと、布団の回りを歩く虚無僧のことを女性に話したのです。
もしかしたら気味悪がって帰るかも知れないという期待もこめて…
しかし全く逆効果で、むしろ食いついてきました。
「そう言えばね、3年前位にこの部屋でおばぁちゃんが孤独死したんだよ。親族が見付からなくて、引き取る人も居ないから役所の人がおばぁちゃん連れて行っちゃったんだけど、もしかしたら、そのおばあちゃんかもね」
確かに夜中に出て来るその老婆は孤独死したそのおばあちゃんかも知れないと、直感的に思いました。
目の前で話しながら女性は虫刺されが痒いのか、バリバリと手や足を掻きむしります。掻いた後から血が滲み出ているのに構わずバリバリと掻くその姿は不快と恐怖が入り混じる何ともいえないものでした。
「御飯食べないの?」
暫くすると女性は言いました、すると今まで一言も言葉を発しなかった友人が久しぶりに口を開きます。
「僕たち、実はお腹空いてないんですよ。それにこれから大学で用事があって出掛けなくちゃいけないんです」
かなり無理のある発言です。女性が部屋に入ってきて30分も経っていないでしょう。
すると女性は以外とスンナリと答えます。
「そっか〜残念。また今度遊ぼうね。おばぁちゃんの幽霊も見たいし」
今度は絶対に有りません。すかさず友人が答えます。
「またゴミ集積場で偶然会ったらね」
これまた、かなり確率の低い無理のある発言です。
今となっては笑えますが、当時はその場からいかに脱するか。その事に2人とも必死だったのです。
30分後には友人の家に居ました。
怪現象、霊体験がしたいからと俺の部屋に泊まる予定でしたが、皮肉にも生身の人間に恐怖を感じ逃げ出してしまいました。
翌日学校が終わると恐る恐るアパートに戻ります。
女性の部屋は104号と言っていました。(俺の部屋は101号です)アパートの入口に各部屋の郵便受けがあるのですが、女性の郵便受けには名前が表記されていません。ただ、中には広告や郵便物がゴチャゴチャと入っています。
なるべく静かに部屋に入り、いつも通り過ごそうと勤めます。
そういえば、女性が言っていたおばぁちゃんは夜中に出てくる老婆に違いないと、妙な確信があった俺は、いつもおばぁちゃんが座っている場所にお饅頭に、水、線香が無いので香取線香を焚きました。
「おばぁちゃん、可哀相だったね、寂しかったね、お饅頭とお水飲んで成仏して下さい」
と分からないなりに手を合わせました。
暫く、テレビをみながら過ごしていると、玄関を強い力で 「ドンッ!!」 と一回強く叩かれました。何事かと、耳を澄ませていると、
「松本く〜ん、幽霊出た?」
と女性の声で一言。全身から粘度の強い汗がどっと出ます。
これ以上あの女性と係わりたく無いなで無視する事に。暫くすると、再び扉を一回強く叩き去って行く足音がしました。また戻って来るかもしれないと、その後も落ち着かない気持ちで過ごしました。
その夜のことです、金縛りにあいます。
すると浴衣のおばぁちゃんが出てきました、しかし、何時もと違い身体をこちらに向け正座しながら何度も頭を下げています。
ああ、おばぁちゃん成仏出来るんだね。と半覚醒の寝ぼけた頭で思いながら再び眠りに落ちました。
それ以来、おばぁちゃんが現れる事は無くなりました。不思議なのですが、虚無僧も現れる事もありませんでした。
おばぁちゃんと、虚無僧にどういった関連性が有ったのかは解りません。
夜中の怪現象は無くなりましたが、女性が俺の玄関を叩いたり、外から声を掛ける事は暫く続きました。ですが、その行為に対して俺は全くの無反応、完全に無視する事を決め込みました。幸い女性と生活サイクルが違うのか、外で出会うことも無かったのです。
何時しか、女性が俺の玄関を叩いたり、声を掛ける事も無くなりました。
それから半年ほど経った頃でしょうか?街中でその女性と男が手を繋いで歩いていました。彼氏がいるのにも驚きましたが、失礼を承知で言わせて貰えば、その女性と付き合える神経が信じられませんでした。
その時、女性が俺に気付き、もの凄い形相で睨んできました。上目使いで睨んで来るのですが、口を少し開いて人間が恐怖を感じる睨み方があるなら正にこれ!という睨みです。
彼氏は全く気付いていない様子でした。
しかし、彼女を見たのはそれが最後になりました。それから一ヶ月後位に突然刑事2人が俺の部屋へやってきました。
104号の住人「沢野 真理」に付いて何か知っていることは無いか?
突然な事と、あの女性に関しての事です、あまり余計な事は言わない方が良いと思い、たまに見掛ける事はあったかも知れないが、名前も今日初めて知ったくらいです。
一枚の写真を見せられ、見覚えないか?と尋ねられたが、あの時の彼氏かも知れませんが、覚えていません。
「知りません」
と答えました。
何かあったのですか?という質問に対しても、はぐらかされて2人は帰っていきました。
いつの間にか、104号は開き部屋になっていました。
1年後、契約更新の年に俺は引っ越す事にしました。別に深い理由は無いのですが、バイトなどで金銭的に余裕が出来たのでもう少しグレードの高いアパートへと。
その際、大家に会ったのですが、浴衣のおばぁちゃんの話しをすると以外とあっさりとそこで孤独死したおばぁちゃんが居た事を認めましたが、霊の話しは信じて貰えませんでした。
104号の事を話すと、少し顔をしかめながら
「沢野さんね〜 彼氏が誰かに殺されたとかでね、何か知っているんじゃないかって、警察が尋ねて来たらしいけど、何処か行っちゃって、行方不明になっちゃったみたいよ、その後、警察の人と部屋の中に入ったんだけど、ゴミで大変な事になってたのよ」
「二ヶ月経っても帰って来ないから、親御さんに連絡して部屋を引き払って貰う事にしたんだけど、部屋にある物要らないから全部処分してくれってね〜、部屋の中がネズミの死骸やらゴキブリが凄かったんだから…」
数年前の話しですが、あの女性がどうなったかは分かりません。
彼氏を殺して失踪?
事件に巻き込まれ行方不明?
どれも有り得る感じがします。
友人とは今でもたまに連絡を取り合っていますが、あの女性の話しは苦笑いするだけであまり話したがりません。あの日以来茄子が食べれなくなった様です。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話