その日は、とてつもない暑さの日だった。
三十歳、サラリーマンのCさんは、そんな暑さのなかでもスーツを身に纏い取引先へと向かっていた。
Cさんは、今にも倒れてしまいそうだった。家族のために仕事をしないと、その気持ちだけがCさんを動かしていた。だが、とうとうCさんは暑さの前に倒れてしまった。
懐かしい。誰かが俺を呼んでる。
「...ですか、起きて下さい。大丈夫ですか?。」
「ぅう、こ、ここは?。」
気がつくと、公園のベンチだった。
「あ!、よかった、やっと起きてくれた。」
「あの..私なんで..」
「後ろを歩いていたら急に倒れたので、とりあえず日陰のあるここに運んできたんですけど。...
何か飲みますか?。」
気を失う前まで歩いていた道が、そこに見えた。
だいぶ意識がはっきりしてくると、そこにいる女性の顔がしっかりと見えてきた。
どこかで見たことのある、いや、絶対に見たことのある顔だった。
「あの、何か?。」
思わず見入ってしまった。
「あっ、す、すいません。ご迷惑をおかけしたようで。あの..お礼になにかしたいので、お名前か電話番号をおしえてくれませんか?。」
「お礼なんてそんな、当たり前の事をしただけです。」
「いや、このままでは私の気がすみません。せめて、名前だけでも。」
自分でもびっくりするぐらい積極的だった。何でかよくわからなかったが、この人の事を知りたいと、自然と思っていた。
「名前だけなら..アンドウ カオルと言います。」
「!!」
まさか...そんな..
それは、十五年前。
Cさんが、中学三年生のころ。Cさんが付き合っていた彼女がいた。その彼女は、ある日突然行方不明になってしまった。
その人の名前は安藤 薫。
ちょうど、今まえにいるアンドウ カオルが、十五歳ぐらいの姿だった。
「あのー、どうしたんですか。」
「えっ、あっ、な、何でもないです。また機会があったら...」
逃げるようにその場を立ち去った。
Cさんは、アンドウ カオルの事が、帰ってからもずっと気になっていた。
「あなた、どうしたの?」
「いや、別に大した事じゃないよ。」
自分には妻がいる。
(別にこれは浮気じゃないよな)
Cさんは自分にそう言い聞かせた。
次の日、Cさんは早めに家をでて、あの公園へいった。
そこに、彼女の姿はなかった。
(もうあえないのか...)
そう思った時だった。
「あれ?、もしかして昨日の...」
ふりかえると、アンドウ カオルがいた。
「こんな早くからどうしたんですか。」
「あの...あなたを探していたんです。」
「わたしを?。」
「ま、まだ昨日のお礼をしていません、いきなりで申し訳ないんですが、今日の夜、食事でもどうですか?、七時に私ここにいます。」
「そ、そんな。食事だなんて...」
彼女の頬が、少し赤くなったのがわかった。
「私、ここでまってます。」
そう言ってCさんは仕事へ向かった。
午後七時、Cさんは公園で彼女を待っていた。
うつむきながら、何時間でも彼女を待とうとおもっていた。
なぜここまでするのか、自分でもふしぎだった。
理屈ではわからないが、心が互いにひきつけあう感じがしていた。
「あの...」
顔をあげるとそこに彼女の姿があった。
今までの服装と違って、きれいな白いワンピース
を着ていた。
(ますますそっくりだな。)
十五歳の時付き合っていた安藤 薫も、同じ様なワンピースを着ていた。
「来てくれたんですね。」
「あの、こういうこと初めてなので...」
「とてもきれいです。」
「えっ!、あっありがとうございます。」
「それじゃあいきましょう。」
十五年前、安藤 薫と初めてデートした時も、こんな感じだった。
予約していた店につき、二人で食事を始めた。
最初は会話が少なかったが、次第に会話もはずんでいき互いに打ち解けあい、二人は楽しいひと時を過ごした。
それから二人は時間があればたびたび会うようになった。毎日午後七時に、Cさんが公園に行き、彼女がいればそのままどこかへ行き、いなければその日は帰る。
これが日課になっていた。
妻には、残業だといっていた。完璧な浮気だったが、そんなことはどうでもよかった。
会うたびに二人は、互いに惹かれあっていった。
Cさんは、自分が彼女に惹かれる理由が少しずつわかってきた。
Cさんは、今も昔も変わらず、安藤 薫を愛していた。当時、安藤 薫を愛していたCさんは、突如終わってしまった恋の続きを、いましているんだ、と感じていた。
だが、今いるアンドウ カオルが、昔の安藤 薫と同一人物でないことはCさんはわかっていた。
もしかしたら安藤 薫はいきてたのかも、なんて事Cさんは、みじんも考えなかった。ここにどこにそんな根拠があるのか、それは、Cさんにしかわからないことだった。
「ねぇ、私のこと、愛してる?」
いつもの公園でかのじょはそう聞いてきた。
「どうしたんだよ、いきなり。」
「あなたには奥さんがいるでしょ。それでもわたしの事、愛してる?」
妻のことなんて、Cさんはもうどうでもよかった。
「ああ、愛してるよ」
Cさん自信をもって言った。
「...やっぱり」
「?」
「やっぱりあなたは、私の事を愛してくれていた。十五年前からかわらず。」
「何?」
「きずいてるでしょ、私が安藤 薫だってこと。」
「そんな...ばかな!!」
「わたしがここにいるはずないって?そうだよね。だってわたしは...」
「そうだ!あいつは俺が...殺した。」
十五年前、Cさんは安藤 薫を殺した。
いつものデートのとき、二人は口論になった。
Cさんが浮気をしているかもしれないというのが理由だった。しかしCさんは浮気などしておらず、もめあいになった結果、Cさんは近くに流れていた川へ彼女を突き落とした。彼女はあがってこず、そのままながされていった。
「すぐばれると思った、だけど、おまえの死体は見つからなくて、そのまま行方不明ってことのなった。だけどおれは、この手でおまえを殺したのを覚えてる!」
「そう。でね、私殺されたあともあなたのこと、考えてた。そしたら、ゆっくり、ゆっくり、体ができてきたの。」
Cさんの目には、十五年前の彼女の姿がうつっていた。
「私を愛しているんだよね、じゃあ、いっしょにきてよ。」
「え?」
「愛してるんでしょ、きてよ。」
ゆっくりと彼女が近づいてきた。
「ゆっ許してくれ!!」
「私、怒ってないよ。私たち愛し合ってるんでしょ、だからいっしょにきてよ。きてくれるよね」
次の日公園で男性の変死体が発見された。
まるで、誰かに抱きつかれるように死んでいたという。
怖い話投稿:ホラーテラー 青二才さん
作者怖話