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長編12
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ジゲ(こぴぺ)

むかぁーし、むかぁしのことぢゃったぁ〜…。

〜〜〜〜〜……〜〜〜

昔々といっても、時の頃は江戸時代。

京や江戸では、長崎を通じ入ってきた『かすてぃら』を食していた頃。

その京や江戸からかなり離れた田舎の話。

日本文化の栄えた江戸時代、そうは言ってもソレは都会の事。ここ東北にある孫掛〜マゴケ〜の様な小さな村・集落は地主を除き、農民は貧困にあえぐ生活を余儀なくされていました。

娯楽などほとんどない、当時の孫掛の農民にとって唯一の楽しみ・喜びは家族の事。

小さな村でしたから、農民同士はみな仲良く、葬式やジゲの時にはみな、『家族が死んだ』と喪に伏し、故人を悼んだ。

ジゲとは、奇形児の出産時や事故・病気の後遺症でカラダが五体満足でない場合、あるいは古い言葉では

『キチガイ』『知能遅れ』と言った今で言う『障害者』

ジゲとは人外。

人を外れた者が語源となっているらしい。

彼等はその様な者を…殺した。

今の様な福祉がなく。

今の様な保険がなく。

今の様にお金もない。

そんな彼等には、そうせざるを得なかったのだろう。

また、ジゲを産んだ家族はソレをジゲの家系とさげすまれるのを恐れ、恥じると同時に愛するが故、ジゲの存在を隠す者も居た。

逆に、『結婚』や『出産』があれば、『家族が増えた。』と村人達は総出で3日3晩ささやかながら宴をひらいた。

あるものは踊り

あるものは歌い

各々が、滅多にない『ハレ』を楽しんだ。

つまり、孫掛の妊婦達やその家族は、お腹に宿るソレが、『家族』か『ジゲ』か。大変な不安だった。

…そういった事からか、全ての村人達に関わる事なので、孫掛の村人達は妊娠を隠す習わしがあった。

そんな孫掛の農家の話。

結婚して5年になる夫婦があった。

夫は、容姿淡麗とはいかないものの、マジメで優しく、良く働き。近所からの人望のあつかった。

妻も夫に負けず、マジメで優しく良く働き、こちらも、絶世の美人とは言えないが、笑顔の気持いい人間だった為、村人はみなこの夫婦の出産を我が事のように期待していた。

今からおよそ2年前、妻があまり外にでなくなった。

〜〜〜……〜〜〜

村の大人達は子作りが始まったと、新しい(村の)家族が出来る。と期待しながらも、妊婦を隠す風習の為、公に噂にも出来ず、長くもどかしい思いをしていた者も居た。

そんな中、村人の数人が気付いた。

件の妻のお腹が大きく膨れて居る事を。

妊婦を隠す孫掛の女のお腹が大きく膨れて居る事は、出産が近いことを示す。

…ソレが一年前の事。

未だ件の妻は、家中に引き込もって居る…。

おかしい。

出産したのなら、件の夫婦は喜びを分かち合うため、皆に報告するであろう。

ジゲが産まれたのであれば、公表すれば静かに殺すし、隠すにしても、家中に引き込もっていり必要は無いから。

お腹が大きく膨れていたのが一年前。

未だに引き込もって居る。

夫はと言うと、変わらず良く働き、優しく人と接していた。

…そこで、村人の一人が風習を壊した!!

件の夫に問うたのだ!

村人『お前奥さん元気か…?もう二年も見ていないが…』

夫『あ。あぁ、ちょっとカラダを壊してな…』

村人『あまり、家中に長く居ると、奥さんジゲになったんじゃないかと…』

『そんなことはない!私の家族がジゲなハズがない』

普段優しい件の夫が怒声とともにソレを制した。

村人『わ…わかっているよ。ただ、あまり見ないとそういう事を疑うものもいるって事さ。孫掛の年寄りはジゲを嫌うからな』

夫『あぁ。すまなかった。心配をかけてすまない。しかし、アイツはジゲに等なっていない。ただ腹が…』

村人『腹が…なんだ?』

夫『イャ、何でもない。さぁ!仕事をしようぜ、雲行が怪しい。雨が降る前に今日の分を仕上げよう。』

そういって、件の夫はまた畑仕事へと戻っていった。

件の妻の引き込もりはやがて、村中が知るようになった。

そこで、村の年寄り達はこの状況を打破すべく、会議をひらいた。

『さて…どうしたものか。』

『このまま放ってはおけまい。』

『妻がジゲかを確かめる必要がある』

『本当に体調がわるいのでは?』

『それならば尚更、家族として放っておくことはできないだろう』

『トリはどうする?』

『トリならばこそ、私達年寄りの仕事だ。』

『しかし、風習が…』

『風習とは家族を守るためのもの、一年もまえに、あれだけ目立つ腹をしていたのだ。ジゲ隠しならばもう引き込もる必要もない』

『では、念のため、トリの準備をして、件の夫婦を訪れよう。』

『風習の範囲を越えた。』

年寄り達は遂に件の夫婦の基へ、行くことをきめた。

この時代、みな助けあう社会であったために、また、プライバシーなど無いに等しかったのだ。

『トリ』とは、孫掛の言葉で元は胎児のこと。

その風貌が卵の中のトリに酷似していた為、古くから孫掛では、そう呼んだ。

これは、流産・死産した胎児は『出産』には含まれず、ジゲとして扱われた歴史を含む。

つまり、ヒトとして産まれなかった。

コレはトリだ。と、そのジゲを殺す罪悪感から少なからず逃げたかったのだろう。

他に、ジゲを殺す儀式がジゲがまともな人間として再生することを願い、不死鳥(トリ)を祭った神社の鳥居(トリイ)の下で行っていたため、その儀式そのものを示す言葉でもあった。

…そうして、年寄りの中から、医者・村長(ムラオサ)・神官が選ばれ、件の夫婦の住む家の前に着いた。

村長が声をかける。

『ワシじゃ、村長じゃ。戸を開けぃ。』

『なんでしょう?』

戸の向こうから夫の声がする。

『お前の妻の体調が悪いと聞く。医者と神官を連れて参った。』

『結構です。』

冷たく夫は言う。

村長『しかし、お前の妻がここに引き込もり、2年がたつ。家族として、もう放ってはおけないのだ。』

『しかし…』

夫は困る

村長『………お前の妻はジゲになったのか…?だから、隠すのか?』

夫『……そ、そんなことは断じてない!!』

村長『ならば、此処を開けい。隠すなら、ワシらはお前達をジゲの家系として扱わねばならぬ。…それはワシも不本意じゃ。』

夫『……………わかりました。』

渋々、夫は戸を開いた。

孫掛の村人の家はみな小さな家だった為、戸の中はすぐに開けた。

草履を3足も置けば一杯の土間。

左には釜が2つに、まな板を1つ置けばハミ出る申し訳程度の調理場。隣には水道。

右には、土間続きの廁。

そして、真ん中に囲炉裏を置いた8畳の寝室を兼ねた居間と約1畳の布団収納。

必要最低限の窓と、家財・家具。

それだけである。

また、ソレが孫掛の一般的な家だった。

ジゲを隠すための部屋は…年寄り達が見渡す。

違和感こそあれ、おかしな所は…無い。イャ、在ると言うべきか。

昼間だと言うのに、妻が居間に寝ていた。こちらに背を向ける格好で。

しかし、なんだこの違和感は…。。。

妻『皆様、この様な格好で申し訳ございません……。。』

その、違和感に戸惑う

村長『ィヤ、構わぬ。しかし…ジゲになり、隠しているワケでは無いようじゃな…』

安堵を含むため息交じりに村長が言った。

夫『ぇ、、、えぇ。そんなハズはありませんと、以前から申していたではないですか。』

夫は言うが…ソコには確かな動揺がみてとれた。

医者『私に診せなさい。なに、こちらから押し掛けたのだ、金などとらん。』

夫『その必要はない!さぁ、妻はジゲではないのだ。お引き取り願おうぞ。』

激しく夫が制したが、

妻『ぃえ、お願いします。この子を診ていただきたいし。』

この子!!

そうか。違和感の正体はソレだ!本来居るべき赤ん坊を匂わす物が全く『無い』のだ。

年寄りはみな、ジゲが産まれその子を殺し、そのショックで母親が倒れ、母親もジゲになる手前だったのか…と一連の噂の推測と、同時に解決をみた。

年寄り達に微かな笑顔がうつる。

神官が前に出た。

『億するに此処は、私の出番』

と、おもむろに、祝詞を唱え始めた。

【不死鳥 不死鳥 生と死を司るものよ。朝日上る頃 トリと鶴を抱き 永久に 羽ばたけ。】

神官は、神々や過去の先人の経験を祝詞に込め、伝える事で、精神を病みジゲとなる者がジゲになってしまう前に病める人々を救っている孫掛の人々流の精神医学だった。

祝詞中の鶴とは、産後の母親の事で、トリを宿していた事と、めでたいと言うことからついたのだった。

そして鶴に対し、新たな家族となる新生児は亀。鶴より長く生き、四足の亀とハイハイの赤ん坊。

なるほど理にかなっている。

つまり、この祝詞は孫掛のトリの象徴不死鳥・朱雀にトリとその母に幸せになってくれと言うものなのだろう。

妻『ぇえ〜〜…っと、お医者様。私のお腹の子の様子はいかがですか…?』

神官の祝詞を半ば無視し、妻が言った。

お腹の子。

確かに、妻のソレは、はちきれそうなほどだった。

ジゲを殺し、すぐまた子作りとは…。。

なるほど、それなら話は分かる。ジゲを殺しすぐまた妊娠。それで妊娠を隠したワケだ。空白の2年は埋まった様だ。

医者は呆れた様子で聴診器をお腹に当てた

医者『大丈夫。元気に生きてますよ。』

妻『ソレでこの子はいつ産まれそうですか?』

医者『この様子だと、次の満月にも産まれそうですよ。』

小さく、夫はまさか…と漏らした。

年寄り達は、噂の真相が分かり内心安心して、この夫婦の家を去ろうと立ち上がった。

村長『今度は、元気な赤ん坊を産むんじゃぞ。』

て言ったが殺那

『今度とはどういう意味だ!』

夫は声を荒げて、すぐに頭を垂れてよこした。

今度は…。

ジゲを隠す殺すは触れぬが孫掛の掟。

『あ。いや、すまない。ジゲの事は口外せん。』

妻『私はジゲではありません。』

村長『…それはわかって居るが。。。』

夫は観念したかの様に口を開いた。

『コイツはもう2年、この子を宿している。』

そうつぶやいた。

年寄り達は、文字通り目を丸くした。

そして、過ちに気付いた。

ジゲなど産まれてはなかったのだ。

この妻の腹の中にはトリが2年もやどっていたのだ。

医者『そうか…いや、稀に10月10日では産まれんトリがおる。何、次の満月には元気な赤ん坊が産まれる。さぁ、宴の準備をせねば。ね、村長若い衆を集めて。。ね、神官祝詞をつけらねば!』

年寄り達は夫婦の家を去ると、他の年寄りを集め件の話を始めた。

『2年も腹の中に居たトリなど聞いた事がない』

『いゃ、過去に何度かあった。その時は、正に鳥の様な酷いジゲとして産まれたそうだ。』

『そのジゲが産まれてから、村には災いが起き始めた。』

『更に、その最初のトリが産まれた時が孫掛の大飢饉…!!!』

『…まさか。しかし…』

『トリの始まりはそのトリだったという。』

『元々貧しいこの孫掛は当時、何十人もの死者が出たそうだ』

『しかし、それとそのトリとは関係があるのか』

『わからん。わからんが、新しく赤ん坊が産まれても、食い口が増えるだけだ。』

『そもそも2年も腹の中で生きるトリなどいるのか』

『生きる。いゃ、その時は生きていた様だ。』

『すると、今回も…』

『…多分な。ジゲとして産まれ、災いをもたらすであろう』

『次の満月には産まれるのか。』

『あ。いゃ、…確実ではないが、満月までには産まれる可能性は高い』

『…殺すか。。。』

年寄り達は、過去の過ちを繰り返さないために、あのトリを殺す事にした。

殺しを隠すのは、孫掛の人間には造作も無い事だったからだ。

一方では、件の夫婦が不安を隠しきれずに居た。

夫『ついにバレたか…。』

妻『大丈夫よ。ちゃんと生きてるわけだし、私も貴方もジゲの家系じゃない。きっと、ちょっとだけ恥ずかしいのよ。この子は。』

そういって、腹を撫でる妻の顔は優しい母の顔だった。

夫『ホントにお前のその優しさには、いつも救われるよ…。。。』

妻『何言ってるの。てれるじゃない。

そんなことより、次の満月には産まれるみたいね。赤ちゃんを育てる準備をしなくちゃ』

夫『そうだな。そうだな!宴の準備もしなくてはならない。村長にも、村のみんなにも迷惑を掛けた!これからは、父親として、もっともっと働かなければ!!』

と、そのトリがジゲとして産まれる不安や異常な妊娠期間を年寄りに知られた不安をかきけすように、明るく振る舞うのだった。

この夫婦は長く子宝に恵まれなかった。

当時の孫掛では、結婚の年には妊娠が当たり前だった。3年も子供が出来なければ、種無し女として、三下り半をつきつけられるのも、仕方なかった。

もうじき3年…というところだ、待望の妊娠だった。

二人は嬉しかった。

ただただ、嬉しかった。

夫婦が異常な妊娠だとわかったのは、妊娠に気付き1年もしたころだった。

当時は、妊娠に早期に気付かず、月のものがない女性がかなり腹が目立つようになってから判明するため、判明から半年は臨月にちかかったからだ。

それでも、妻は腹の中の子供が動くたび、嬉しかった。

夫は、このトリがジゲで無いかと、徐々に疑うようになったが、妻の優しさと、何より愛する妻の為、必死で働き、身重の妻を支えていた。

異常な妊娠期間であること以外は何一つおかしな所はない、むしろ微笑ましい夫婦であった。

年寄り達は、トリの準備をしていた。

不死鳥の神社は小高い林にあり、麓の神官の住む禊場。今で言う社務所から長い石段の上にあった。

石段を登りきった所に、参拝客を迎えるように赤い鳥居があり、そこからは綺麗な境内が見えていた。

生死を司るとされているこの神社には、病気の全快祈願。安産祈願。などに参拝に訪れるものも少なくなかった。

なかでも、神官が妊婦とその夫にトリが赤ん坊として産まれる様にと、夫の頭の毛を剃り、酒を飲みながら眠るまで【玄武】の祝詞を受けさせ、

妻は頭を剃る変わりに一言も喋ることを許さず、一晩中祝詞を受けさせるこの祈梼は、孫掛の夫婦に永く親しまれてきた。

頭を剃る事で人間を表し、亀の祝詞をあげる事で、亀(赤ん坊)が産まれる様に祈るもの。頭を剃る事は、結果的に浮気の防止にもなったという。

トリの儀式。それは、この鳥居の下にジゲやトリを階段の方を向かせ、目隠しをする。

そして首に5尺程(1M50cm程)の縄をくくり、階段の前からその縄を引くのだ。

すると、ジゲやトリは階段を転げ落ち死ぬ。万一、うちどころが悪く。しななかった場合でも首にくくった縄により、窒息させるのだ。

その縄を引く役は、神官がとりおこなっていた。

そして満月の3日前、件の夫婦が安産の祈梼と称したトリの儀式に招かれた。

その日は、村長、医者も本堂に招かれていた。トリの儀式を見守るためだ。

夫は社務所で頭を剃り、妻は階段を神官やその家族に支えられ登り、その後で夫は階段を登ってくる。

そして本堂で一晩玄武の祝詞を受けるのだった。

夫は酒に酔い眠った様だ…空が白んで来た。朝が近付いてきた様だ。

祈梼の仕上げだと称し妻を鳥居に立たせ、目隠しをして、階段に本堂に背を向けるように立たせ、首に縄を掛けた。

後は引くだけだ。

その時、医者が妻の足元に血が溜っているのを見つけた。

医者『まて神官。彼女は今まさに出産しているぞ。』

その言葉は虚しく空中に響き、同時に階段を転げ落ちる妻が居た。

医者『くそ…私がもう少し早く気付いていれば。。』

村長『なに、気にすることはない。いずれにせよ殺すつもりだったのじゃ。

むしろ、間一髪で間に合ったと言うべきじゃ。』

神官がうつ向きながら言った…

神官『私は引いてません……医者の待てというのが聞こえ、縄から手を離していた……』

神官が引いていないなら何故!?

年寄り達は、鳥居の下をみた。

少しだけ欠けた月に照らされた陰があった。

夫のものだった。

夫は全てを知って居た。

過去の異常な妊娠の結末を。

ジゲを産んだ家系が受ける差別を。

そして、トリの儀式の事も

年寄りの考えも。

全てを知って居たのだ。

だから、愛する妻を石段へと突き落とした。

愛する妻の死を見ると、夫は自ら石段へと身をなげ、

自殺した。

医者はすぐに駆け寄り、愕然とした。。。

三人の遺体があったからではない。

妻のお腹から産まれたソレは…ジゲではなかったのだ……!!

亀であった!

つまり、夫に突き落とされたあの瞬間、妊婦は鶴と亀であったのだ。

いゃ……正確には分からない。

ジゲであったのかも知れないが…

しかし医者のみる限り、ジゲと思われる異常はなかったのだ…!!!

新しい家族を。

村の家族を殺してしまった。

直接は殺してなくても、死においやってしまったのだ。。。

その後、医者は罪悪感からか、トリの祟りか、精神を病みジゲとなり。トリの儀式を受ける事になる。

神官はこの事を忘れぬため、後世に残すため、そしてトリの儀式を二度と行わないために、この夫婦を祝詞を作った。。

孫掛で古くから異常妊娠をする妊婦を、亀を産んだ鶴に対し、トリを出さない鳥籠という意味で呼ばれていた『籠女』(カゴメ)の祝詞を。

【籠女〜カゴメ〜】

【籠女 籠女

籠の中のトリは

いついつ出やる

夜明けの晩に

鶴と亀が滑った

後ろの正面だぁれ】

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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