「おい!逃げようぜ…」
たかはし?どこだ?
おい。
たかはし…?
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アメリカや先進諸国では『謎のウイルス』による感染症が大流行していた。今まで新型のインフルエンザだと思われていた感染症は、これまで全く存在が確認されなかった謎のウイルスである事が発表された。
それと同時期に殺人事件などの凶悪事件が激増していた。NYの街中で銃の乱射事件が発生した。犯人は射殺された。いずれも動機目的は不明だった。犯人は朦朧としており、薬物中毒の可能性があった。
射殺された遺体は解剖されて新型ウイルスの感染者である事が発覚した。それを受けて近年の殺人犯や凶悪犯罪者も検診に出された。その犯罪者の約70%に新型ウイルスの症状が見られた。
さらに射殺死体の脳解剖が進められると、ある異常が発見された。
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「ねぇねぇ、たっくんって医学部でしょ?海外のニュースでさ、流行りのウイルスに感染すると脳味噌がおかしくなるって言ってたけどどういうことなの?」
『オレも詳しくは知らないんだけどさ。感染の症状が進むと脳が急激に萎縮したりスポンジ状になって判断力低下、認識力低下…”認知症”の初期症状が見られるんだとさ。放っておくとウイルスが脳を食い破って死ぬんだと』
「何?え?よくわからない。ボケたりするの?」
『んー、まとめるとそうかな』
「それと殺人犯に感染者が多いのって何か関係あるの?」
『それはオレにもよく分からないよ』
「医学部にも分からないことあるのね」
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ウイルスに罹った犯罪者の脳が研究されると、氷の結晶の様な謎のウイルスが大量に発見された。だが国際保安機構は未知のウイルス、”アイスコフィン・ウイルス”発見についての発表を行っていない。この事が後のパンデミック(感染拡大)の原因のひとつとなった。
研究が進んだ結果、このウイルスは体内、空気中を問わず37度を越えると増殖を開始し、38度を越えると爆発的に増殖。脳に侵入しスポンジ状に食い破る。その際に廃棄物としてアドレナリン分子式によく似た副腎髄質ホルモンを脳に排出する事が分かった。
アドレナリンとは『怒り物質』とも呼ばれる。血中に放出されると心拍数や血圧を上げ、過度なストレスを感じさせる『興奮』の状態となる。
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ガチャ
『すみませーん…入ります』
そこには包帯姿の高橋の姿があった。横にはベッドを机の様に突っ伏したままのおばさんの姿があった。
『あ、わりぃ…邪魔か?』
「いいよ。母さん疲れてそのまま眠っちゃったんだ。そこかけろよ」
『ん、ありがと。そんなに傷深くなくて良かったな。俺血まみれだったからマジ心配したよ…ところで…今朝の新聞見たか?』
「この左腕の包帯見てみろよ。靭帯までイカれてるからな。寝ながらこれじゃあ新聞見れないに決まってんだろ?」
『ああ悪りぃ。こりゃ見れないよな。この前さ、テレビで最近流行ってる新型のインフルエンザが謎のウイルスだったって発表あったじゃん』
「あったね」
『あれに感染すると、殺人鬼になるらしいよ』
「あっはははははははははは」
『おい馬鹿、笑い事じゃねぇよ。マジでテレビでやってたんだって。マジだぞマジ』
「ははは、めっちゃ信じてるって。ゾンビ映画でありそうな設定じゃん」
『マジだからワイドショー見てみろって。感染するとな、脳がスッカスカになってな、ボーっとしたところに、キレやすくなる”アドレナリン”ってのが分泌されてくだらない理由でも人を殺すんだと』
「ん?冗談だろ?え、まじなの?それホントの話か?」
『だからマジマジ。テレビ付けてみ?ワイドショー全部それだよ。もしくは”殺人病”でググッてみろよ』
「ってことはアレか?もしや長谷センも?」
『多分な。あれ発症してたんだろうな。あの後結局すぐにウイルスに脳食い破られて死んだらしい…退院したら晴れの日は気をつけろ。38度より気温上がると、殺人病にかかったヤツがどこにいるか分からないぜ』
「そっか、ウイルスのせいで殺したくなるのか。なるほどなあ」
『大学でのことは忘れろよ。急にってのは無理なの分かるけどさ、長谷川センセーの件は辻斬りみたいなもんだから。はい、これ』
俺は授業中に取り溜めてたノートを手渡した。
〜コメント2に続く〜
▼ [002] 2009/09/23 03:37
R嬢
「こんなにいっぱい取っておいてくれてありがとな。来年はおまえのおかげで留年せずに済みそうだよ」
『来年って…やっぱテストには間に合わないのか?』
「とてもじゃないが無理だよ」
『なんだよそれ。大学側がいけないんだろ?納得できねぇ!!大学側に電話してやる!』
「おい、別にいいって」
携帯を取り出そうとした俺を静止しようと、高橋はベッドの上に手をついた。
ガタン
ベチャ
『あ、ごめんなさい!!』
高橋のおばさんがベットからズリ落ちて、顔を思い切り床にぶつけた格好になった。
コロ
コロ
コロ
コロ
コロ
コロ
コロ…
剥きかけのりんごが俺の方まで転がってきた。いや、剥きかけに見えたのは、半分血に染まっていたからだった。
『おい高橋…このりんご…』
「なんでさ…あの時もっと早く俺の事助けてくれなかったんだよ。先に逃げてんじゃねえよ」
『なぁ聞いてくれ。このりんごの血は』
「誰のせいでこんなハメになったと思ってんだよ」
『おい、高橋、いいから、聞けって』
「なんで俺ばっかこんな目に遇うんだよ」
『見ろ、見ろ、このりんごの事だ』
「いつもいつも俺だけ…おまえといるといつもこうだ…」
『おい高橋!!』
「小3の運動会の徒競走を覚えているか?」
『なぁ…聞いてくれって…』
「俺が聞いてンだよッッ!!」
バンッッッ
突然の高橋の叫び声と、机を叩く音に驚いて思わずりんごを落とした。
「小3の徒競走でおまえが俺に何やったか覚えてるか?」
『いや…ごめん…何の事だか…』
「俺とおまえ、どっちが1位取ったか覚えてるか?」
『確か…おまえが、1位?』
「違う!!違う違う!おまえだよ!!僅差でおまえが1位だった!!何で覚えてないんだよ!!その後おまえ何した!!」
『…悪い、全然覚えてない』
「はぁ!?俺は今でも覚えてる!担任がおまえに汚ったねぇ金メダルを提げたんだよ!それを!!おまえが!!俺の首にかけたんだ!!そんで”2人で金メダル”って言ったんだよ!!」
『そういえばそんな事もあった様な…』
「そういえばじゃねぇ!やったんだよ!!覚えてんだから!俺は!おまえはアレから担任と女子の人気者になったんだよ!解るか!!あの時の俺の惨めさが!さらしもんだよ!!」
『…ごめん…そこまで考えてなかった』
「ごめんじゃねぇ!!おまえのせいでいつも2番!勉強もスポーツも!!おまえが8年付き合ってるさおりも!俺の方が先に好きになった!俺の方が先に告白した!!」
『…わりぃ…その事知らなかった。言ってくれれば…』
「なんつった?あ?今なんつったよ??”言ってくれれば?”言えばなんだよ…譲ってくれたのか?あの時の金メダルみたいに…それとも何か?おまえがいつもくれる授業のノートみたいに詳細に”今日はどこどこでデートしました”とか”こういうセックスしました”とか教えてくれんのか?あ!?どうなんだよ!!言ってみろよ!!」
『な…落ち着け…お願いだ…高橋……今日は疲れてんだよ』
「俺は冷静だ!!だから俺にこれ以上罵らせないでくれ!!おまえといると俺が惨めなんだよ!!自分が嫌いになるんだよ!!なんでイチイチ優しくすんだよ!俺なんてほっとけよ!大学で怪我したのはすっとろい俺のせいだ!!逆恨みなのは知ってんだ!!あぁ全部俺のせいだよ!嫉妬だよ!今までも何度おまえがいなければと思ったか分からねぇよ!」
その時チラリと足元の動かないおばさんに目が行った。肌の色が明らかに真っ白で生気がなかった。
〜コメント3に続く
▼ [003] 2009/09/23 03:46
R嬢
「おまえがいなけりゃって…何度思った事か…サッカーだっておまえがいなけりゃ俺がエースナンバーだった…」
『おい、おばさんをどうしたんだよ…』
「”おまえに渡してくれ”って女の子から言われたラブレターも何度捨てたか分からない…」
『なぁ、おばさん死んでるだろ…』
「俺今でもさおりちゃんの事好きなんだ…」
高橋が布団の中に右手を隠していた。グッと握りしめて肩の筋肉が盛り上がったのが分かった。
『落ち着いて布団の中の右手を出してくれ…』
「なんでおまえはいつも俺の大切なもんばっか奪ってくんだよ…」
『お願いだ、果物ナイフが見つからないんだ…』
「イライラするんだよ…脳の中を虫が這ってるみたいなんだ…こんなはずじゃなかったんだ…でもコントロール出来ないんだ…俺おまえが来てくれて嬉しかったんだ…”ありがとう”って言うはずだったんだ。でも考えてた事がごっちゃになって…気付いたら近くにあったナイフで母さんを…」
『分かった、俺はおまえの味方だ…だからナイフをゆっくり出してくれ…』
「でもな、おまえのそういうスカした態度がやっぱ嫌いだわ。やっぱおまえがいると俺一生惨めなんだわ。ごめん、ムカつく。許せない」
そういって右手のナイフを振りかざした。
『バカッ!!止めろ!!』
高橋は自分の喉にナイフを当てようとした
「うぐっ!!」
すかさずナイフを握ってた手首を捻ってナイフを捨てさせる。
『ナースコール!ナースコール!!』
俺はボタンを連打してすぐに看護師を呼ぶ。
「ちくしょう!!自殺もさせてくれないのかよ!!殺せ!おまえのせいだ!!こんな事言うはずじゃなかった!!何でだ!!」
高橋は泣いていた。
「おまえは俺の親友なんだ!!だから許せない!!自分が許せない!!おまえがいると…俺は自分を好きになれない!!素直になれない…おまえはひとつも悪くないのに…俺が消えるしかないんだよ!母さんの事だって…!!大好きなのに…!!憎くて仕方ない!!なんなんだよ!?俺どうしちまったんだよ!?」
バタバタバタ
入口から医者らしき2人と看護師2人がすぐさまこっちに来た。
『抑えつけて』
医者がそう命令すると3人がかりで高橋は押さえ付けられた。
『うおおおおおぉぉぉぉ!!死ねないなら全員殺してやるうううう!!かかって来い!!全員ブッ殺してやる!!』
『鎮静剤はやく!』
押さえ付けてる人間が叫ぶと高橋の腕に注射をしようとする。
『うげげげ!ごっぐひっ』
「高橋!!」
しかし次第に高橋が痙攣し始めて動かなくなる。
医者たちが脈を取り、何やらぼそぼそと会話し始める。
『……レベル4発症。死亡を確認しました』
『ストレッチャーに乗せなさい。焼却場まで運ぶ』
…………?
「ん?今何つった?」
医者は”しまった”という顔をしている。
「今なんて言ったんだよ?焼却?何をだよ。おまえら医者だろ!?いいから高橋を蘇生して安全なところに運べよ!!」
『彼はたった今から殺人病の患者だ。発症が認められたので電気ショックによる蘇生措置を取るために集中治療室に移します』
「嘘をつけ。どこに運ぶつもりだ。高橋を
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話