『ストレッチャーに乗せなさい。焼却場まで運ぶ』
…………?
「ん?今何つった?」
医者は”しまった”という顔をしている。
「今なんて言ったんだよ?焼却?何をだよ。おまえら医者だろ!?いいから高橋を蘇生して安全なところに運べよ!!」
『彼はたった今から殺人病の患者だ。発症が認められたので電気ショックによる蘇生措置を取るために集中治療室に移します』
「嘘をつけ。どこに運ぶつもりだ。高橋をどうするつもりだよ。高橋はまだ死んじゃいない!!」
その時の医者の目はどこか訴えてる様な目だった。看護師の目は充血して腫れ上がっており、髪はボサボサだった。
『高橋君は私たちが預かる』
「ふざけんな!!ヤブ医者!!やらせるか!!渡さねぇ!!」
『我々だって医者だ。人を救うのが仕事だ。だが我々はもっと大勢を救うために今医者をしている。高橋君は我々が処理する』
「ちくしょう!!止めろ!マスコミに訴えてやる!!」
『好きにしなさい。マスコミは相手にしない。国立大学病院ではどこでもやっているよ。命を救う我々が一番ツラいんだ。分かってくれとは言わんよ。憎んでくれて構わない』
「知るかよ…そんなの知るかよ!!」
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〜コメント4に続く〜
▼ [004] 2009/09/23 03:52
R嬢
『殺人病』に感染するとキャリア(保菌者)となる。潜伏期間はHIVなどと同じで数年から数十年に渡る事もあるほど長い。潜伏したまま発病しない限りは発症する事はない。しかしキャリアになると治す方法はない。他の流行りの感染症と違う唯一の予防法は、38度以上の気温の時に外出しない事。体温を37度以上に上げない事。本来このウイルスは粘膜、血液感染くらいでしか感染しない。しかし38度以上で空気感染力は季節性インフルエンザ以上に上がる。
キャリアの人間は体温を上げない事だった。現在世界で一体何千人の人間がキャリアなのか把握すら出来ていなかった。国から特別措置を受け、検診自体は無料になっている。また殺人病にかかった人間は許可なく葬式をあげられない。国によって遺体は引き取られる。
検診に行く人間はゼロにほど近い。理由は差別を受けるから。国の補助で検診を受け陽性反応が出れば、通院義務が生まれる。それがバレて会社を解雇される人間がいた。
今は訴訟中である。
義務教育の学校下では検診で全員が殺人病の検診を受けねばならなかった。
通院が学校でバレた子供がいた。
その子供が壮絶ないじめを受け自殺した。
ワイドショーが飛び付いた。
マスコミがこぞって取り上げた。
全国でいじめと差別が増えた。
ニュースを見た殺人病患者の子供たちの後追い自殺が増えた。
怒りっぽい子供には”殺人病”とあだ名がついた。
感染経路は未だに完全に特定されていない。
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「もしもーーし」
『はい』
「あれ?たっくんいるじゃん?今日遊ぶ約束だったのになんで来なかったの?風邪でも引いたの?」
『……』
「どうしたの?」
『ごめん、俺たち別れよう』
「え?ウソどうして?私なんかした?」
『ううん、俺今でもマリのことが好きだ。でも、だからもう会えない』
「なんで?どうして?そんなんじゃ納得できないよ」
『俺、今日病院行った時に追加でウイルス検診受けたんだ。殺人病にかかってた』
「……ウソでしょ?」
『こんな嘘はつかないよ。おまえに迷惑かけたくない。もう俺たち会うのやめよう』
「たっくん…あたしはどんな姿になっても大好きだよ」
『……ありがとう』
「だからマリだけは殺さないでね」
殺人病にかかると1時間ごとに検温の義務が生まれる。常に体温を平熱に保たないと発症の危険性があるからだ。またオフィスなど室内の冷房は常にフル稼働状態となった。大手企業ほどいたる場所に冷房を完備し、世界中で地球温暖化に歯止めが掛からなくなった。
アメリカの若い大統領が演説を行った。『人間ひとりの命の重さは、地球の重さよりも重い』。この言葉が世界中の心に響いた。ワイドショーやテレビ番組からは『CO2削減』や『ストップ温暖化』のスロ−ガンは聞かれなくなった。国際的な人命尊重のムードに乗って、アメリカやロシア、中国は今まで以上にCO2を排出し続けた。世界はまさに”チェンジ”した。
その結果ヒートアイランド現象により、都市部の温度は急激に上昇した。
町からは人が消えた。
ウイルスによる死者は増え続け、感染者による犯罪もうなぎ上りだった。
感染者は未だに爆発的に増加を続けている。
感染者が増える理由として、感染経路が完全に特定できていないことが挙げられる。どのように、何を介して感染していくのか不明だった。
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〜コメント5に続く〜
▼ [005] 2009/09/23 03:53
R嬢
ピンポーーン
『ゴホッ……はい』
「たっくん。風邪大丈夫?マリだよ」
『入って』
ガチャ
「おじゃましま……うわ、寒んむ……凄い冷房……」
『俺キャリアだからね……解熱剤も使って温度と体温下げてるけど、気を抜くとこういう小さい風邪でも発症するから。それにしても悪寒とだるさが酷すぎる』
「大丈夫じゃないじゃん!何か美味しいもの作るから、テレビでも観てて」
―――――緊急速報――――
テレビから音楽が鳴り、急なニュース画面に切り替わった。録画された会見の映像になり、国のお偉い方々の発表があったらしかった。
恰幅の良い外国人が何事かをまくし立てている。通訳の人が遅れて追いかける。
どうやらこれは3時間前に放送されたもののようだ。
テレビでよく見るナレーターが声を荒げている。
『みなさん!よく聞いて下さい!この緊急放送は30分置きに流れています!今日午前11時頃感染症の経路が発表されました!みなさん!!今すぐにご家庭の石油製品を全て捨てて下さい!このウイルスは無生物感染により感染することが明らかになりました!繰り返します!石油製品を捨てて下さい!絶対に触れないで下さい!ペットボトルも!ゴムも!化学繊維も!』
ブツッ
「なんかいい番組何もやってないね」
『別に消すことないのに』
「だってさ。色々捨てろって言うんだもん。こんなに便利なもの、今すぐ捨てられないもん。全部捨てたらアタシ原始人になっちゃうよ」
『でも、それだとおまえもウイルスに罹るよ』
「たっくんと一緒ならいいよ」
『……ゴホッゴホッ』
「ほら、無理しないで」
『ああ、ありがと。それにしても……こんな危険なウイルスがなんで急に出てきたんだろうな。今までで騒がれてても良さそうなものなのに』
「なんでだろうね。なんか時限爆弾みたいだね」
『なんだそりゃ。でも、ここまで強力だと人類全員罹るかもね』
「そんなことないよ。きっと特効薬も見つかるよ。町に出たって誰もいないし。みんな感染に気を付けてるんだよ。たっくんの風邪と病気だってすぐ治るって」
『マリは前向きで優しいな』
「だってね。昔保健の授業で習ったんだもん。風邪を引いた時の治るメカニズム」
『どんなの?』
「人間はね、熱が出てもたっくんみたいに解熱しない方がいいんだって。
風邪を引いた時に熱が出るのは自然にそうなるように出来てるんだってさ。
風邪が治る1番の方法はね、放っておく事なんだって。
温度が上がったからって慌てて下げようとしたって逆効果なんだって。
悪いウイルスが体の中で暴れて、宿主に被害を与えるとね。
熱を出せ!って命令を送るんだって。
白血球?だったっけな。宿主の温度が37度から38度になると活動が活発になるんだって。
それが悪いウイルスを食べちゃうんだってさ。
宿主を浄化するのに良い環境を作るために、温度が上がるんだって。
だから本当はそのまま安静にしてるだけでイイんだってさ。
そうすれば、悪いウイルスは絶滅するんだから。
きっと神様がそうなるように作ったんだよ。
だから慌てる事なんてないんだよ。きっと悪いウイルスなんていなかった頃の元の姿に戻るよ」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話