■シリーズ1 2
俺は公園を突っ切って道路側まで行き、
「誰かー!誰か助けてくださーい!救急車を呼んでくださーい!!」
と、力の限りに何度も叫んだ。
そして、友也君の家まで走り、ドアを叩きながら
「おばさん!友也君が大変だよ!友也君が倒れてるんだよ!」
と怒鳴った。
友也君の家は両親が離婚していて、母親と二人暮らしだと聞いていた。
離婚してから母親は、床に伏せる事が多くなり あまり外にも出なくなったという。
「お母さん…僕の顔を見ると悲しそうにするから…。公園で遊んでる方がいいんだ。」
友也君はそう言って笑ったが、俺は内心その母親に怒っていた。
いつも一人で遊んでいる友也君。
姿も見せず、笑顔を向けないその母親に。
今なら、うつ状態だったのかな…と考えるが、幼い俺がわかるはずもなかった。
「おばさん、出てきてよ!おばさん!」
ドアを叩いていると、中から青い顔をした女の人が出てきた。
「友也がどうしたの!?何があったの!!」
説明するのももどかしく、俺はおばさんの手を取ると公園へと走り出した。
公園に戻ると、俺の呼びかけを聞いた大人達が友也君の周りに集まっていた。
「救急車呼んだからね!」
「君 どうしたんだ!?聞こえるか!?」
と、かわるがわる声をかけている。
友也君の周りのもやは、さっきより色が濃くなり 黒に近い灰色になっていた。
おじいさんはそのもやを、払ったり吸い込んだりしていたが すぐに友也君を覆っていく。
俺は このまま友也君が死んでしまうんじゃないかと思うと怖くなり、ただ震えて泣いていた。
救急車が到着し、母親と友也君を乗せて行った後も、あのもやが 友也君を飲み込んでしまう気がして泣き続けた。
数日後、俺が一人で公園にいると 救急車を呼んでくれたおばさんが 友也君が助かったと言いに来てくれた。
盲腸炎をこじらせて、腹膜炎を起こしていたらしい。
病院を教えてもらった俺は、母さんと一緒に見舞に行く事にした。
「そうとう痛かっただろうに…!なんですぐに病院に行かなかったんかねぇ?」
母さんはそう言って不思議がっていたが、俺には なんとなく理由がわかっていた。
きっと、母親に心配かけたくなくて我慢したんだろう。
我慢して我慢して…我慢しすぎちゃったんだ。
病室に入ると、友也君はうとうとしていたみたいだったが、俺に気づくとニッコリと微笑んだ。
俺の母さんと友也君の母親が、病室を出て なんだか話している。
この度はどうも…とか、いえいえ そんな…とか聞こえてきた。
俺がベッドの近くの椅子に座ると
「僕の事…助けてくれてありがとうね。」
と、友也君が話しかけてきた。
俺は既に泣きそうになりながら、
「俺だけじゃないよ。信じないかもしれないけど…友也君のおじいちゃんが助けてくれたんだよ!」
そう言うと、友也君は驚きもせずに
「…信じるよ。」と言った。
「だってね…僕が公園で倒れた時、ずっと耳元で 頑張れ!負けるな!って、じいちゃんの声が聞こえてたから…。」
友也君は涙をぽろぽろ流しながら、
「それにね、夢かもしれないんだけど…手術の後、もう大丈夫だからって声が聞こえたから見たら、真っ黒い人が 頑張ったねって言ったんだ。
あれはじいちゃんの声だった。
だから、僕は信じるよ…」
と言った。
真っ黒になったじいちゃん…。
きっと、最後まであのもやと闘ったんだろう。
俺と友也君は、手を握りあって「おじいちゃんのおかげだね」と言って泣いた。
友也君が退院してからも、俺達は相変わらずよく遊んだ。
そして、実は今も付き合いのある友達だったりします。
先月、友也君は長く付き合った彼女と結婚式を挙げました。
親族席にぽつんとある空席。
不思議に思って見てみたら、『おじいちゃん』と手書きのネームプレートが…!
今もきっとどこかで、彼を見守っているだろう。
俺も、おじいさんのあの微笑みを 思い出し あんな風に大事な人を守れる者になりたいと思っています。
■シリーズ1 2
怖い話投稿:ホラーテラー 雀さん
作者怖話