小学生の頃にヘッドホン式のトランシーバーを買ってもらいました。
とても嬉しかったので早速遊んでいると突然タクシーの無線でやりとりする声が聞こえてきました。私は楽しくなりボタンを押しながら、ものまねで『〇〇町の〇〇前に一台』と自分の家の近くを言うと『了解』と返事がありました。
びっくりした私はしばらく様子をうかがっているとタクシーが指定の場所に到着したのが家の窓から見えます。
『〇〇前にお客さん来ません。応対されたの誰ですか?』
誰もが知らないと次々に返事があり、しかし誰かが呼び出ししたのは間違いないと誰もが口を揃えます。
『おかしいですね~』と言いながらタクシーは去っていきました。
本当に繋がるなんて思ってもいませんでした。
しばらく遊びを中断して夜になり、親が仕事に出かけ私1人になったので再びトランシーバーをつけて遊ぼうとしましたがどこにも繋がりませんでした。
諦めて押し入れに片づけようとすると、『…ザ~ッ…』という砂嵐の音の後に『ぎぃゃあーーー!!ボ…ボク逃げてぇ!!』と突然女性の大きな叫び声が入ってきた。
さらに『カン…カン…』と鉄階段を踏み歩く音がしました。
誰かが外の階段を登ってここに来ていると思い、怖くなって私は急いで台所からナイフをとり仏壇から数珠をとると、部屋中の電気を消して押し入れに隠れました。
静まり返った真っ暗な部屋に呼び鈴を誰かがピンポーン………ピン……ポーン……ピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポ………………と連打し始めると同時に
ドンドンドンドンドンドンドンドン!!…と玄関のドアを連打します。
押し入れで震え上がっているとトランシーバーから
『…ザ…ザ~ッ……いるんだろ~?…いるんだろ~?…開けろよ…開けろよ~』と男の声が入ってきました。
恐怖で硬直しているとバタンッ!!と力強くドアを閉める音と床がギシッ…ギシッ…と軋む音がします。
するとまたトランシーバーから『………聞いてるんだろ?…聞こえてるんだろ?……盗み聞きはいけないなぁ……』と声がし、足音は押し入れに真っ直ぐ向かっています。
私は恐怖に震えながら目を瞑り両手とナイフを数珠で縛るように持ち、心で『こっち来るなー!!』と必死に願います。
押し入れの中が蒸し暑くなり、汗だくの私の体にヒンヤリとした冷気が一瞬スッと入ってきました。
私は閉じていた目を少しだけ開けると押し入れの襖が1cm程開いており、そこから顔を傾けて覗かせたように2つの目が中を凝視しています。
恐怖が限界に達した私は意を決して
『やぁあああっ!!』と叫んで隙間にナイフを思いっきり突き刺しました。
……グチュッ……という嫌な音と感触がして
『ギャアアア!!』と叫び声がこだまします。
私が押し入れを開けて出ると誰もいません。
とにかく電気をつけてみましたが誰もいませんし血の跡も何もありません。
窓を開けると見えるのは昼間に私が遊び半分で呼んだのと同じ会社のタクシーが一台だけです。
するとタクシーは急にアクセルをふかして去っていきました。
しかし1~2分しないうちに何かに激しく衝突した音が響きます。
私は急いで駆けつけると人だかりができていました。
先程のタクシーが電柱に衝突した音です。
運転手は数分後に来た救急車に運ばれていきました。
数日後に私はトランシーバーで遊んでいると再びタクシーの無線でやりとりする声が聞こえてきます。
すると先日事故した運転手のことが話題になっていました。突然右目に激痛がしたそうです。あまりの痛みに我慢できず病院へ行こうと車を走らせての事故でした。
ずっと右目を両手で覆いながら激痛に絶叫したまま病院に着いて診察してもらうと、目の周りが内出血で紫色に皮膚がパンパンに腫れ上がり、血を抜くと目から涙のように赤い血が流れたそうです。
目の怪我については原因不明だそうですが、その運転手は病院を抜け出して行方不明になりました。会社の人が奥さんに事情を伺いに自宅へ行くと玄関が少し開いていたので中に入ります。
留守のようでしたが異臭が鼻をつき、調べるてみると畳の一部が足が抜けそうなくらい脆い状態だったので剥がすと、奥さんと思われる白骨の一部がでてきたそうです。
警察に通報し、運転手の行方を探していました。
それから数年後に遊びに行った友人の家に霊能者をしているという友人の親戚の叔母さんが来ていました。
私が挨拶すると、一目見るなり『いや~あんた九死に一生だったね!!…』と話かけられます。
あのとき数珠で柄を巻いたナイフのおかげで私は生き霊を退治することができたそうです。
生き霊はタクシーの運転手で、私が昼間に呼び出してしまった運転手でもありました。
トランシーバーを買ってもらう数ヶ月前の夏頃に立ち寄ったレンタルビデオ店で見知らぬおじいさんから無言でお菓子を手渡されたことがありました。
断りましたがしつこく押しつけてくるので否応無しに受け取ります。
暑い時期に季節はずれの真っ黒の冬用帽子にコートが特徴的だったので覚えていました。
そこからタクシーに乗って帰りましたが先程のお菓子が気味悪かったので運転手にあげました。
実はこのときの運転手が生き霊の運転手です。
友人の叔母さんによれば、私にお菓子を渡した老人がとあるとこから覚えてきた黒魔術を私に試したそうです。
理由は亡くなった老人の孫と私が似てたので生贄にして孫の魂に私の体を捧げようとしたらしいです。
全てはここから老人の黒魔術によって仕組まれていて、運転手も前科のある男が選ばれていました。私が菓子袋を運転手に渡すことも、数ヶ月後にトランシーバーを使うことも全て計画にそった魔術の効果だそうです。
ただし計画にない出来事が起きました。それは危険を教えてくれた女性の声です。声の主は運転手の奥さんだと言われました。
老人は黒魔術が失敗した代償に命を縮めて亡くなったそうです。
奥さんへの感謝の意と成仏を願い、運転手が一日も早く捕まることを祈りました。
実話でオチがありませんが、読んでくださった方ありがとうございます。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名係さん
作者怖話