「タイ子がエーコを起こしてたんだ。T、お前のいびきがうるさくてあんまり聞こえなかったけど、エーコは多少嫌がってたようにも聞き取れた。俺は聞き耳をたてながら様子を伺ってたけど、タイ子には多分ばれてる。あぁ、エーコの言う通りだ。奴は多分タイ子の中にいる。生霊にもかかわらず!だ」
「あぁそうきたか、やっかいな事になっちまったな。S、今からタイ子に知らないフリして電話してみるわ、俺」
「そりゃあ無理があるんじゃね?・・・とは言っても、今はそれしか方法ねーよな」
タイ子に電話をかける・・・
「はい!Tさん、昨日ありがとう。助かったよ!エーコに聞きました」
と、タイ子。
「そっかー、よかった。どうだ?体はなんともないのか?」
「へーきよぉ、元気よー」
「エーコもそっちいるの?」
「!!エ・エ・エーコは今いないです。買い物行ってます」
タイ子が一瞬焦ったような気がした。
でも、いつも通りの口調で話すタイ子にすっかり安心した俺は、エーコを抱きよせたまま眠ってしまった俺から無理やりエーコを離し、連れて帰ってしまった事を気にしているのかな?なんて事しか思い浮かばなかった。
「タイ子さぁ、今日暇?昨日タイ子が寝てたときに3人で話したんだけどさ、一度Sのお父さんのところに行こうって事になったんだ。タイ子も行くだろ?」
「わたし今日お店。無理です。エーコも無理です」
「ん?エーコは行くって言ってたぞ」
「はい、でも今は無理って言ってました」
「そっか。いつ行ける?早いほうがいいな」
タイ子の携帯越しにもう1台の携帯が鳴った。
「Tさん、あとでね。またあとでね」
と、タイ子はいきなり電話を切ってしまった。
「S、エーコは今買い物行ってていないってさ。タイ子は結構普通だったよ。まぁ大丈夫なんじゃねーの?」
「T、お前が話してる最中にエーコに電話してみたんだけど、でないぜ」
「!!電話切った時、タイ子の後ろで携帯鳴ってた・・・」
「!!Tはタイ子の家知ってる?」
「知らん・・・」
俺はSとこれからについて話し合った。
出た結論は、取り敢えずSの親父のとこにはSと俺の2人で行くこと。
帰ってきたらエーコとタイ子のいる店に今日も行くことだった。
足取り重く、少々気が引けながらもSの実家に向かう。
なんせSの親父はとてつもなく恐ろしい人だ。
小学生の頃、Sの家に行った時なんか、Sが板っぱちでバシバシ引っ叩かれてる最中にお邪魔しちゃったもんだから大変だった。
「T!お前もかぁ!つまらんもの拾ってくるからこうなるんだぁぁぁ!座れ!」
「バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ・・・」
何度引っ叩かれたか分からない程引っ叩かれた記憶がある。
家に半べそかきながら帰り、親父に言ってSの親父に文句言ってもらおうとしても、うちの親父はなにもしなかった。
逆に
「ご面倒お掛けしました」
なんて謝ってたくらいだ。
まぁ今となっては多少分かる。
Sの親父が言ってた
「つまらんものは拾ってくるな!」
とは
「つまらんもの憑けて来るな!」
と言う意味なんだろう。
背中をバシバシ叩かれたのも、俺とSとSのお母さんと3人で『折り紙』と言いつつもハサミでチョキチョキしながら『やっこさん』、今となって人型だと気付いたが、それをたくさん作ってたのも全てはS(俺含めて)を守るためだったのかな?なんて今は思ったりもしている。
んなもんだから、信用、信頼はしているが・・・
なんせ怖い。
27にもなって、怖い。
「ただいまー」
「ご無沙汰してまーす」
Sと俺、玄関に入る。
「おぅ、そろそろ来る頃だと思ってた。行ったか?お前んとこに行ったのか?」
と、親父さんがニヤニヤしながら話し出す。
「いつも来てたよ。でもとうとう昨日ホントにきやがった。Tと、飲み屋の女の子2人巻き込んだ」
「T君はまぁしゃーないな。女の子は?」
おいおい・・・俺は家族じゃねーよ・・・
「正直言うとやばい。憑かれたかも・・・」
「そうか。で、その女の子は?」
「ばっくれた」
「!!馬鹿やろぉ!!なにがばっくれたじゃ!つまらん言葉使いおって!T!お前もそんな言葉使っているのかぁ!」
『怒るとこちがうだろ?』
と思いつつ
「まぁ、ははは」
などと話を逸らす。
昼飯を食べながら、色々な話をした。
結局、親父さんの話だとSと俺は昨日のようなやばい状態には感じられないとの事だった。
さらに言われたことは、早急に女の子2人を連れてくること、引っ越したとこでSにしろ、タイ子・エーコにしろ、なんの対策にもならない事だった。
帰りの玄関で靴を履いている最中も親父さんは話し続けた。
「生霊は成仏せんからな。まだこれからも続くだろうよ。主が納得するまで続くし、納得してもしまいかたが分からん人もいる。そうなると厄介そうだが、実はそんな厄介ではない。既に害はないし、他に興味が移れば移るほど自然に消えゆくからな。ただし今回はちがうだろうよ。見てみないとなんとも言えんが、まぁ、早く女の子2人を連れて来い!とにかく早く!な」
「分かった」
「はい分かりました!」
Sと俺。
店が開く時間までSの家で対策を練っていた。
タイ子の家を調べる方法や、エーコは無事なのか、俺ら2人でエーコやタイ子を保護したとこで、当分どうやって面倒見てくか、モロそっち系の方々が経営してる店の子達だから、その方々達への対応とか・・・
作戦AとB、2通りの作戦を練った。
「じゃあ一応『飲み』ってことで。さぁ!行くか」
と、Sが気合入った声で言う。
「よーし!行くか」
店に入ると、少々時間が早かったのか女の子達も数人しかいなかった。
「今日タイ子何時にくる?エーコは何時?」
と店の子に聞いてみる。
「うぇRちゅDFGHJK!」
「えRちゅいおCVGBHんJM!」
「TりゅいVBHんJM!」
何言ってるかやっぱり分からない。
「迎え行ったら、寝てるのか居ないのか分からないよ。出てこないよ!お兄さん達は知らない?」
と、何回か席に着いたことのある女の子が話してくれた。
大体の予想はしてた。
A作戦変更、通称B作戦開始。
A作戦はエーコをまず保護のA。
B作戦は尾行のB。
店を早々に切り上げ、Sといったん別れて家に戻る。
部屋内に変わった様子がないかどうかを調べるが、変わった様子はなかった。
風呂に入り、着替えもする。
少し仮眠をとり、さぁ出発!となる。
Sと店の近くで待ち合わせる。
「S、どうだった?お前んち何か変わった様子あったか?」
「いや、大丈夫だった。何もない」
「そっか、じゃあホントに作戦開始するぞ!」
「おう」
店が終わり、店の前にワゴン車が横付けされると女の子達が乗り込む。
外国から来た女の子達は、店側で用意したアパートの隣同士とかに住んでいる場合が多い。
多分、あのワゴン車の向かう先にエーコとタイ子の住んでいる部屋がある。
アパートに着いた。
俺らは手前の路地に入り、様子を伺う。
みんな降りてワゴン車が去ったのを見届けてから、作戦を開始する。
作戦とは、なんてことない簡単なこと。
エーコとタイ子の携帯に電話をかけて、着信音をアパートのドア越しもしくは窓越しに聞くという作戦だった。
まずは、連絡が取れなかったエーコに電話をかける・・・
聞こえた!1階の一番手前の部屋だ!
すかさず場所から離れて、車に乗り込む。
あとは、電話に出てくれるのを待つばかりだ。
「はい、Tさん・・・」
「エーコ?エーコか?」
「はい・・・もうおわりね・・・電話するから・・・あとで電話するから・・・」
「ちょっ!エーコ!待ってくれっ!体は大丈夫なのか?無事か?タイ子は?」
「ありがとー。だいじょうぶ・・・だいじょうぶ・・・dsfghjklrちゅjhj・・・」
何か話しかけて電話が切れた。
強攻策で乗り込むかどうかは、電話での反応しだいだった。
助けを求めてくればすかさず乗り込むつもりだったが、なにか違う。
エーコはすごく悲しそうな声で電話に出た。
なにか引っかかる・・・
「T、どうだった?」
「つらそうだったけど、大丈夫、大丈夫って。タイの言葉で何か喋ったあと電話切られた」
「なんだぁ?タイ子もエーコも何か隠してるな。よし、俺が電話してみる!」
Sがタイ子の携帯に電話をかける。
俺はその間、車の外に出て部屋の様子を探っていたがなんら変化はない。
Sの乗る運転席を窓越しに覗くと、Sは首を傾げながらこっちに『何か変』との合図を送ってきた。
そう、なんか変なんだ・・・
「S、どうよ?タイ子どうだった?」
「あぁ、あれタイ子かぁ?どうもタイ子じゃない気がする・・・エーコだと思う・・・」
「え?エーコだったの?なんだって言ってた?」
「大丈夫、大丈夫って。あとで電話するーって言った後、切られた。変だな」
部屋を見るが、相変わらず部屋の電気は点いてない。
腑に落ちないまま、俺はSと別れた。
取り敢えず、明日Sの仕事が終わった後、待ち合わせをする事にし、家に帰る。
あー疲れた。
ホントに疲れた。
なんだか仕事なんてどーでもいい気がする。
それよりも、今はエーコとタイ子が心配だった。
面倒くさくなり、着替えもせずにそのままベッドに横になるが、全然寝付けない。
オカルト的に物事を考えてみる。
するとどうやっても最悪の結果しか思いつかず、むしゃくしゃしながら起き出しタバコに火をつけた。
そのとき!携帯が鳴った!
なんとエーコからだった。
「Tさん、会える?大丈夫?」
「あぁ、会えるよ、今どこにいる?」
「家にいるよー、ちかくにロー○ンある。そこに行くよ。来れますか?」
「どこのロー○ンだ?場所わかんねーぞ」
と嘘をつく。
「○○○町のロー○ンです。来れますか?」
「分かった。そんなに遠くないから、すぐいけるぞ。Sはいないけどいいか?」
「いいです。Tさんに会いたいです」
女に頼られて力のでない男なんていやしないだろ?
そんときばかりはエーコの顔しか思い浮かばなかった。
「待ってろ!待ってろ!」
口癖のように言い続けて、Sに電話することすら頭になかった。
怖い話投稿:ホラーテラー 暇な人さん
作者怖話