はじめに断っておきます。
これは創作です。
なのでこんな恐ろしいことは実際起きていません。
「このサイトに作り話乗せてんじゃねーよ」とおっしゃる方もおられるかと思いますが、大目に見てやってください。
この物語は「自殺サイトと四季」編に出てきたユング、クジ、シキ、部長が活躍したりしなかったりする話です。
一応人物紹介らしきものをします。
ユング:高校二年生。主人公であり語り手。疋柄村では部長の巻き添えを食った。
シキ:イケメンと雰囲気イケメンの間くらいのやつ。良い奴。
クジ:チャラい女子生徒。根は良い奴。
部長:掴みどころのない奴。今回はあんま出てこない。
ではでは、「火昇力祭典と夏」編スタート
「やべえ、全身の毛穴閉じてきた感じ~」
クジがだるそうな声を出した。
冷房の設定は「18℃」。
3時間前からずっと付けてる。
こんな部活動をずっと続けてたら確実にクーラー病になりそうだ。
「ユング、ファンタ買ってきて。
それかヤクルト3パック」
クジがとろけるチーズみたいにうなだれている。
「外出るのダリい」
俺は椅子を三つ並べて作ったベッドもどきの上でダレていた。
ぶっちゃけ返事するのすらしんどい。
(失祖至御丹周縁貪莉何処奴企夫込途倭眺・・・・)
「うおおおぉ!?」
俺とシキの二人は跳ね起きた。
「ああ、これ着うただから」
と言ってクジは携帯を取り出した。
疋柄村の時の奴か・・・・。
てか、そんなんどこで手に入れたんだ?
「部長が自作したんだって。
あ、もしもし?」
クジは平然と電話に出た。
「マジビビった。
もう一度『息子』が来たんかと思った・・・・」
シキはようやく呼吸を整えながら呟いた。
ったく、部長もあんな目会っといてよくやるよ・・・・。
「うん、じゃあね・・・・」
クジはストラップをじゃらじゃらさせながら電話を切った。
「誰から?」
何の気なしに聞いてみた。
「部長。
『明日の時間割教えて』だって」
携帯持ってたんだ部長・・・・。
いや、そもそもあの人授業ちゃんと出てたんだ・・・・。
「帰りさあ、『サブリミナル』よらねぇ?」
シキが提案した。
「サブリミナル」とはローカルなカラオケショップだ。
俺たちの町では結構有名だけど、東京行った時従兄に聞いたら「そんな店知らねえw」って言われた。
「ああ、カード持ってんの?」
俺は二人に聞いた。
「作ればいいっしょ。
今日生徒手帳持ってきてるし」
と言ってシキが財布を漁った。
「え、生徒手帳持ってんの?
見せて、写真!!」
クジが飛びついた。
「見せねぇって、俺写真写り悪いから・・・・あっ」
シキの左手にあった生徒手帳は、クジにひったくられた。
「ははははっ、ウケる!!(笑)
真顔!!真剣な顔してる、免許証みたい!!」
クジは何がおかしいのか、歯止めが利かないほどツボにハマっている。
「ああ、もうマジ人間性疑うし。
どう思う?ユング」
シキが聞いてきた。
「まあ生徒手帳は普通笑うもんじゃないよな・・・・!!」
ヤバい。確かにこれはツボる。
こらえきれない笑いは口元で決壊し、俺は噴き出した。
「あははははは」
「きゃはははは」
笑い声は二つに増えた。
「・・・・」
シキは不機嫌な顔をしたが、それでもしばらく笑いが止まらなった。
「だからさぁ、もう許してって、シキ」
半ニヤケでクジがシキの肩を叩いた。
「もう許さん。
末代まで呪い的なことしてやるし」
シキはまだ機嫌が治らない。
「ほら、カウンターの人困ってんじゃん。
早く行こ」
店員の人がうんざりしてる様子を見て、俺は二人を急かした。
俺たちは2階に上がってまっすぐ行った所にあるボックスに入った。
クジは早速曲を入れ始めた。
「飲み物取りに行こうぜ、シキ」
俺はシキの方を見て言った。
「ああ、ちょっと待っててな・・・・はい」
シキはマキシの曲を入れるとコップを持って席を立った。
歌えんのか?と不安になったが、それはそれで楽しみな気がした。
「んだよ、なっちゃん無いじゃん」
ドリンクバーの奴の前で、シキが悪態をついた。
「ホラ、なっちゃんソーダならあるよ」
俺はパネルの一つを指さして言った。
「いや、なっちゃんの炭酸とか邪道以外の何物でもないし。
とりあえずミックスしよ」
といってシキはゲテモノジュース作りに取り掛かった。
コーラーとファンタ、水、氷、コンポタージュ、コーヒー、そして再びファンタ。
「一番低い奴、罰ゲームでこれ飲むのな。
決定事項だから」
シキはいつの間にか機嫌を直し、ウキウキした足取りで歩き始めた。
ボックスに帰ると既にクジが歌っていた。
「あなたに会う喜びあなたに会う切なさ(以下省略)♪」
いや普通グリーンとかじゃねえの?リリィとかお前・・・・。
途中間奏に入ると、「長いから」と言ってクジは早送りした。
それを見ながら罰ゲームの事を言おうかと思ったけど、優位を保つため歌い終わってから教えることにした。
(89点)
「ああ、普通~」
クジは不満げだった。
「これ採点競ってるから、負けたら罰ゲームな」
と言いつつ、シキは例のゲテモノの入ったコップをかざした。
クジもその意味を察したようで
「え~、ずるい~。
それだったらもうちょいちゃんと歌ったのに。
間奏の間とかも絶対ハミングしてたし」
と抗議した
いや、間奏は関係ないだろ・・・・と思ったが、クジの主張はもっともだった。
しかしそんなこと意に介さず、シキは歌い始めた。
「得る熱、まさにデスパイレーツ、購う法律ゲーム・・・・(以下省略)♪」
ヤバい、普通にうまいし・・・・。
(94点)
いやいや、マキホルでどんだけ点数でてんだよお前!?
これは本格的にキツイぞ・・・・。
「ユング、早く曲入れてよ、一時間しかないんだから回転率上げて行こ」
クジが急かした。
「待ってろって、一生を左右するんだから・・・・」
さすがに一生はないが、俺は念入りに選曲することにした。
その時だった。
不良の少年たちが、ドアにはまったガラスの向こうに見えた。
「田中・・・・?」
不良集団の中に、気弱そうな一人浮いてる奴がいた。
やっぱりだ、田中だ。
「田中?誰?」
クジが覗きこんだ。
「バカ、あんま見んなって、絡まれんぞ・・・・」
シキがいさめた。
「ユング、知り合い?」
クジが怪訝そうな顔をした。
「うん。
同中で、クラスも何回か同じだった。
あの一人地味な奴いるだろ、ほら、あいつが田中。
なんかやらかして少年院入ったって聞いたけど、出所したのか?」
俺はかつての同級生の顔を眺めた。
「ええ~、そんなことする風には見えないのに・・・・あ」
不良たちの一人がクジの視線に気づいた。
そして俺たちの部屋に向かって歩いてきた。
「へえ、久しぶりじゃん、ユング」
学ランのそいつは、俺に笑いかけた。
不良たちの中にいたもう一人の同中、紫藤[シドウ]だ。
「シドウ、相変わらずヤンキーとツルんでるんだな」
俺は再会を懐かしむつもりもなく、内心出て言ってほしいと思いながら言った。
シドウは着ていた学ランをドアの所に掛け、中の様子が外から見えないようにした。
そして当然のように、マルボロに火をつけた。
未成年の喫煙がどうとか、そういう倫理観は持ち合わせていない。
「今どこ行ってんの?ユング」
シドウは吐き出した煙に言葉を乗せた。
「立徳館」
俺は素っ気ない口調で答えた。
「超頭いいとこじゃん!!お前そんなキャラだったけ?」
シドウは耳障りな声を上げた。
クジは露骨に嫌そうな顔をしている。
「へえ、ユングの知り合い?君。
可愛いじゃん」
シドウはクジに近寄った。
その品定めするような目付きが気に入らなかったのか、クジは顔を背けた。
「あ、なんか反抗的な態度」
急に真顔になったシドウが凄んだ。
それに反応するように、シキがシドウを睨みつけた。
「ナニ粋がってんだよ、モヤシ君」
シドウはシキに詰め寄った。
「ああ?」
シキは、普段からは想像も出来ないような低い声音で脅した。
なかなか険悪なムードになってきたな・・・・。
するとそこへ、場違いな程済んだ歌声が聞こえてきた。
隣にいるのはあの不良たちだが・・・・あいつらの誰かが歌ってんのか?
そして不明瞭な怒声が続いた。
(オイ、オイ、何やってんだよ!!)
「ちっ」
シドウが舌打ちした。
学ランをのけて外の様子を覗きこむと、隣のボックスにガタイのいい店員が乗り込んでる。
(くっそ、意味わかんねぇ!!)
(ああ、畜生、やべぇ!!)
一体隣で何がったんだ?
「くそ、アイツら何かやらかしたんだ、低能どもが。
この店も多分、出禁になりそうだな・・・・」
シドウはバツの悪そうな顔をして、壁に据え付けられたドアを開けた。
「んじゃぁな、ユング」
シドウは手すりに足をかけた。
「おい、ここ二階だぞ・・・・!!」
俺は思わず制するように手を出した。
(ドンっ)
シドウは地面に着地し、止めてあった原付に乗ると逃げ出した。
「ナニあいつ?マジ意味分かんねぇんだけど・・・・」
シキが吐き捨てるように言った。
「なんか、白けたな。
帰る?まだ一時間経ってないけど」
「うん。なんかもう気分最悪だよね」
クジも同意見のようだ。
俺たちは結局途中で料金払って帰ることにした。
「ちょっとトイレ寄るわ、俺」
俺は二人に言った。
「じゃあ表で待ってるから」
シキはクジを連れて店の前にある駐輪場に向かった。
トイレの中は不愉快な程不潔だった。
俺は用を足すと、手を洗いながら洗面台に唾を吐いた。
不意に、後ろに誰かの気配を感じた。
田中だ。
「あれ、お前逃げてなかったの?」
俺は不思議に思い聞いた。
「うん。なんかトイレにいたら怒鳴り声がして、様子見てたんだけど」
田中は相変わらず弱気な口調で言った。
「ふぅん、まあ気をつけろよ」
俺は何の気なしに言った。
「じゃあね・・・・」
田中はその場を後にした。
その後も俺は少し髪の立ち具合を確かめていたが、しばらくしてまた、あの澄んだ音色が聞こえた。
異国の旋律のようなそれは、無性に不安を煽りたてた。
「?」
翌日、俺は何も知らず登校していた。
学校に着くなり放送で呼び出され、俺は担任のいる資料室へ向かった。
「なんですか?」
「お前ら、あの店にいたんだろ?
昨日」
あの店?サブリミナルのことか・・・・。
「僕たちは何も関係ないですよ」
俺は予め質問を予測し、その問いに答えた。
「それは分かっている。
ただ事情を聞きたいそうなんだ、その・・・・警察の方が・・・・」
警察?
嫌な予感がした。
警察によれば、例の不良たちがいたボックスで謎の変死事件が起きたらしい。
二人が原因不明の死を遂げ、一人は意識不明、もう一人は記憶を喪失しているらしい。
それを聞いて、俺の頭にはあの怒声と、そして何故か澄んだ歌声がフラッシュバックした。
とりあえず警察の聴取は適当にやり過ごしながら、俺は事件の真相について考えていた。
「そうか、まあ君たちも災難だったな。
協力有難う・・・・」
白髪交じりの刑事とその同僚と思しき男は、一通り話を聞くとその場を後にした。
部室に戻ると、どうやらシキとクジも事情聴取されていたようだ。
「謎だよな、何があったんだろう・・・・」
シキは口に指を当て、考え込むような仕草をした。
「不良は基本意味不だからね。
なんかヤクみたいのやってたんじゃないの?」
クジはうんざりしたように言った。
「・・・・こういう時部長だったら速攻首突っ込むんだろうな」
俺は独り言を言った。
「ま、今回の事は部長に教えない方がいいかもね。
余計複雑になりそうだし」
クジのその意見に、俺は妙に説得力を覚えた。
確かにあの人は、「事件を解決する」タイプじゃない。
どっちかっていうと、事態を楽しんでいる節がある。
この時俺たちはまだ知らなかった。
この事件の真相、そして部長の思惑を。
続く
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話
「自殺サイトと四季」http://kowabana.jp/stories/9711